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野にあれ読書

2011-04-02 | 08:06

旅の空にあって、歩くに疲れたら木陰に寝ころんで本をひろげた。
夏なのにそういうときにはときおり風がわたってきて、むせるような草いきれを感じさせた。
葉のあいだからもれてくる光がきらめいて眼をしばたかせたら、まっくら闇のなかにいるかのようだった。
ふと気がついたら、いつのまにか眠っていたのだろう本が顔をおおっていた。
じっとりと肌をぬらしている汗も気にしているようでは旅などできない。
肩の凝りをほぐすように体操などしたら、かたわらをいく小学生がなにやらはやしたてながら走りだした。
なにを言ってるのかわからないながらもおかしくなって、ぐるりともういちど肩をおおきくまわした。
頭のなかでは漱石がなんだかむずかしい人生論を展開しているのだが、まあいいかと思った。
ザックの重みに旅の重さを重ねてみるのは、それはただもう若いからにほかならなかった。

1698行く漁船

「素晴らしきラジオ体操」 高橋秀実 小学館 ★★★
高橋氏はまずラジオ体操について、こう語る。
『これはただの健康体操なのだろうか。大体、ラジオ体操は運動としては楽すぎる。
それに雨に打たれながらラジオ体操する様は不健康である。
体操というより、むしろ日本人の習俗、教義こそないがまるで「宗教儀式」のようである。
日の丸や君が代に何の感慨も抱かない私も、
なぜかラジオ体操には共振してしまうのは実に妙なことである。』
もともとラジオ体操はアメリカで生命保険加入者を健康にし、寿命をのばすことが目的で考えられた。
それが日本につたわり、紆余曲折を経ながら、いまではその人口三〇〇〇万人ともいわれている。
進化して日本独自のラジオ体操となっているのである。
『ラジオ体操は日本人全員に刷り込まれた集団暗示のようである。
ラジオ体操の最後に示されるメッセージはただひとつ。
「今日も元気に過ごしましょう。ごきげんよう」
元気になって何をするかについて、ラジオ体操は何も語らない。』

「エッジエフェクト 福岡伸一対談集」 福岡伸一 朝日新聞出版 ★★★★
対談のなかで、現代芸術家の森村泰昌氏の発言はなかなかおもしろい。
『私は、美術は基本的にポピュラーなものではないと捉えています。
美術も芸術も、非常に個人的な表現の追求だと思うからです。美術は、本来は理解しがたいものなのです。
美術という言葉があるいっぽうで、デザインという言葉もありますが、
最近は、美術もデザインもひっくるめて「アート」と呼ばれています。
でも、本来は分けて考えるべきものでしょう。ここに、椅子があるとしますね。
誰にとっても座り心地のいい椅子を追求するのがデザインですが、美術は違います。
たった一人の人間が、考え、悩みながら、自分だけの椅子を表現する、それが美術です。
表現した本人すらよくわかっていないものを、他人がわかるはずはないという前提から美術はスタート
すべきなのに、万人のためのデザインと一緒くたにして「アート」と呼ぶのは間違っていると思うのです。
美術は、もっとマイナーであるべきものですから。
アーティストという肩書きを使う作家も大勢いますが、私は自分をアーティストとは呼びたくありません。』
このことは個性をのばす教育と似ている。個性というからには他人と違っていなくてはならない。
狂人はすべて個性的であるが、そういうことを目指しているのでもないらしい。
目的のはっきりしない場合に、そういう謳い文句をとなえ、ころりと信じる人々が追随するという図式か。
理屈はどうでもよくて、なんでもいいからアーティストと呼ばれたいのだ、という立場はもちろんありうる。

「異邦人」(上)(下) パトリシア・コーンウェル 講談社文庫 ★★★
検屍官シリーズの十五作目になるが、どうもいまひとつぱっとしない出来だという感想だ。
冒頭から、人気女子テニスプレーヤーが異常者に殺される場面がでてくるのだがありきたりだ。
なんというのかコーンウェルらしさが感じられないといったらいいのだろうか。
事件とは直接的に関係のないおなじみの登場人物についての人間関係の記述もなんだかわずらわしい。
うーん、たぶん読み継いできた読者はマリーノのことがもっと知りたいのではないか。
でもその結末はえがかず、次作への期待感(?)だけをもたせるようなところも必然性に欠けるかな。
スカーペッタが殺人者について考察するところ。
『「宗教と同じね。神の名のもとに何かをすれば、何でも許される。
人を石打ちの刑にしたり、火あぶりにしたり。異端審問。十字軍。自分とちがう人たちを抑圧する。
だから、彼もそうやって自分の犯行に意味をもたせた。すくなくとも、わたしはそう思う」』
これもありきたりな気がするのはなぜなんだろう、とかえって思ったりするのである。
次回作にマリーノの登場を期待して、いろいろと彼の変化を自分なりに考えてみるのである。
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