ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
10 | 2015/11 | 12
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 - - - - -

朝の笑顔
駅へむかうのに長い階段をくだって、街道沿いを歩く。
おおきな病院脇をすぎるころ、通学途中の中学生たちにでくわす。
そのなかにひとり、すれちがうときに挨拶をかわす女生徒がいる。

最初は、「おはようございます」といわれておどろいた。
こちらも「おはようございます」といった。
すると、すこしなにかむような笑顔になった。

すれちがってから、しばらく後姿をながめていた。
おおきなバッグをゆらしながら信号にむかってかけてゆく。
なぜか思わず、頑張れよっとつぶやく。

こういう日はなにかいいことがある、そんな気になる。
人生にはこういうことがなくっちゃ。
にんまりしている自分を感じる朝なのだった。

N6504レックスベゴニア


スポンサーサイト
駅で読書
いそいで駆けてきたが間にあわなかった。改札口からのりだして列車の赤い尾灯をじっと見送る。荒
くなった息がしずまるまでベンチに腰かけてまつ。改札口上の時刻表を見る。次の列車まで二時間あ
る。しかたがないと諦めた。予定変更をせざるを得ない。ザックから新書本をとりだした。しおり代
わりにしてある名刺でページをひらく。この名刺は旅先でであった人からもらったものだ。読んでい
ると、こんなことが書いてあった。世のなかには真実と事実があり、混同することも多い。また、客
観と主観などというが、はなはだ誤用を多くみかける。絶対的客観なるものなどはない。あるとして
も脳髄のなかにでもあるとしかいいようがない、とあった。これらの意味を考えていると、いつのま
にか列車の時間がちかづいていた。そろそろホームへ行かなきゃなあと思う。しおりを挟もうとして
名刺の表がみえた。おやっと思ってよく見ると、その名前には真理とあった。

9068智頭線

「不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か」 米原万里 徳間書店 ★★★★
つねづね翻訳者の方々には頭が下がる思いでいる。しかし、なかにはこれって日本語なのというよう
な文章に訳される方がいることも事実である。原文(英語であれ仏語、独語、露語であろうとも)は
知らないけれども、こんな日本語はないだろうと思う。話せるのと翻訳・通訳ができるというのとは
ちがう、と思っている。そんな思いを補強(笑)してくれるのが米原さんである。いまさらながらに
ご冥福をお祈りしたい。
『師の徳永晴美氏はこんなことも言っている。
「いいかね、通訳者というものは、売春婦みたいなものなんだ。要る時は、どうしても要る。下手で
も、顔がまずくても、とにかく欲しい、必要なんだ。どんなに金を積んでも惜しくないと思えるほど、
必要とされる。ところが、用が済んだら、顔も見たくない、消えてほしい、金なんか払えるか、てな
気持ちになるものなんだよ」
 男の生理はなんとなく理解しかねるところがあったが、師が最後に言い足した。
「だから、売春婦に倣って、通訳料金は前払いにしておいたほうが無難だよ。少なくとも、値段は事
前に決めておきべきだね」』
売春婦は人類最古の職業でもある。職業に貴賤はない。だが、職業とは日本では認められていない。
まあ、公にはということだ。従軍慰安婦の問題もなかなか解決しないのはこういう認識のズレがある
ことも一因だろう。なにかで読んだが、将校も足元におよばない高給取りであったとか。むずかしい。
されはさておき、こういう訳を読んだり聞いたりすると、すなおにすごいなと思う。では以下に。
『「来年度の日本のGNP成長率は、四%前後になります」
 という発言に対して、
「Oh,it's too optimistic!」
 という反応があった場合、田中さんは決してこれを、
「それは、あまりにも楽観的すぎます」
 なんてこなれない日本語に置き換えたりせずに、
「読みが甘すぎやしませんか」
 と訳してくれるのだから、舌を巻く。』
日本では英語熱(?)が高いが、よくよく注意も必要だと思う。
『私どもにとっての母語、つまり生まれてこのかた最初に身につけた言語、心情を吐露しモノを考え
るときに意識的無意識的に駆使する、支配的で基本的な言語というのは日本語である。第二言語すな
わち最初に身につけた言語の次に身につける言語、多くの場合外国語は、この第一言語よりも、決し
て上手くはならない。単刀直入に申すならば、日本語が下手な人は、外国語を身につけられるけれど
も、その日本語の下手さ加減よりもさらに下手にしか身につかない。コトバを駆使する能力というの
は、何語であれ、根本のところで同じなのだろう。』
英語がしゃべれるよりも、なにを語れるかが大切なんですがねえ。

「ファイアーウォール」 上 下 ヘニング・マンケル 柳沢由実子訳 創元推理文庫 ★★★★
刑事クルト・ヴァランダーのシリーズ八作目。舞台はスウェーデンの小さな田舎町で中世の街並みが
残る港町イースタ。今回の事件は、少女たちがタクシー運転手をハンマーとナイフで襲い瀕死の重傷
を負わせて逮捕されるところからはじまる。十九歳と十四歳、おまけに少女だ。犯行の動機を金ほし
さと言っているが、盗んだお金はわずかに六百クローネ(約七千円)だ。二人ともいままでに警察の
世話になったこともない。どうにも不可解だといわざるをえない。そのころATMの前で死体が発見
される。自然死なのか殺人か。検視の結果は、心臓疾患による突然死との報告。その後、警察署から
脱走した少女の一人が変電所で焼死体となって発見される。こうして事件は思いもよらない方向へと
展開していくのである。ATM前で死んでいた男はITコンサルタントで、オフィスにはパソコン一
台だけが据えられていた。その後彼の死体が盗まれ、ふたたびATM前に放置されるということが起
こった。さらに死体の右手の人差し指と左手の中指が切りとられていた。これはどういうことなのだ。
事実はいろいろとあるが、それらがどうにもつながらない。鑑識のニーベリとヴァランダーはこれら
のことについて話すのだ。
『おれはよく、警察の仕事はイーゼルの前に立つ絵描きのやることに似ていると思う。何本か線を引
いて色を塗り、一歩下がって全体を見る。それからまた前に出て同じ行為を繰り返す。そのような動
きを何度も繰り返すのだ。この、後ろに下がるというのがいちばん大切なのではないかとおれは思う。
そのとき、目の前にあるものがなんなのかが本当に見えるのではないか』
いまやコンピュータを駆使して捜査をする時代になっている。しかしヴァランダーはそれになじめな
いところから孤立感におそわれたりする。五十をすぎて気がつけばパートナーもなく友人もいない。
そんなときパートナーを探す具体的な行動をはじめた。そこに一人の女性が現れる。彼にしあわせは
訪れるのだろうか。事件の行方とは別に、ヴァランダーの人生も気になるところだ。
全世界で2000万部を超える売り上げがあるというヴァランダー・シリーズ。スウェーデンとイギ
リスではテレビドラマ化もされている。そんな人気作家のヘニング・マンケルだが、残念なことに癌
により2015年10月5日、67歳で生涯をおえている。謹んで哀悼をささげたい。


テーマ:最近読んだ本 - ジャンル:本・雑誌

プワゾン
という名前の香水がある。

死の魅惑へとさそう、ということなのだろうか。
人生にはそんなものが必要なのだ、と。
毒にも薬にもならないものなど、なんの役にたつというのか。

においといえば、いつもあざやかによみがえる匂いがある。
硯にたちのぼる磨りたての墨のよう。
すこし潮のかおりもまざって、突堤の光景とともに。

N6676月夜


バーで読書
カウンターで飲んでいる。たいがいひとりである。あまり客がいないときなど、つまみがわりに本を
読みながらということもある。内容がこみいったものは読まない。まあ、読めないし読む気もしない。
まわりがすこしざわついているくらいがちょうどいい。読みながら、ときどきページを伏せ考える。
どうしてああなっているのか。だからこうなったのだろう。しかし、そうならない場合もあるという
ことは知っている。なるほど、そう考えることも可能だな。突如きこえてくる。そんなわけがないだ
ろ。考え方がおかしいよ。どうかしてるぜ。頭を冷やせよ。たしかにすこし熱くなっていたかもしれ
ないな。だけど、どうして。声のしたほうを見る。男女がふたりで言いあっているようだ。痴話喧嘩
か。俺には関係なかったのだ。だが、その関係ないということがなぜか胸を打つ。だれかが言ってた
ことばがよみがえる。言いたいこともいえないような関係はいつかかならず壊れるぜ、と。

N6570棚には

「トンデモ仮説の世界」 竹内薫 徳間書店 ★★★
科学は仮説だというと、そんなことはないという人は多い。ニュートンの万有引力の法則を考えてみ
ればよくわかる。アインシュタインが相対性原理をいいだすまでニュートンの法則が信じられていた。
仮説といういいかたがよくないのかもしれない。真理にあこがれるのはわかるが、別のよりよい説明
がでてくるまでの話だ。それはさておき、ガイア仮説で有名なジェームズ・ラブロックも誤解されて
いることが多々ある。科学的な見地から地球をシステムとして全体的に考えるべきと言っているが、
「ガイア」を意識をもつ生命体のように誤解されている。“リスク評価”をしなければといってるの
だ。ではこの“リスク評価”とは何か。
『「要するに、これは人類にとっての大きな“賭け”なんだ。地球温暖化が二酸化炭素のせいかどう
かについては、確かに異論がある。だが問題は、地球温暖化が来るかどうか、ではなく、万が一来た
ときに、人類にその準備ができているかどうかなんだ。
 賭けに負けたら、恐らく人類は絶滅する。現在の全世界の、GDPの1%程度の投資で地球温暖化
が防げるのであれば、今のうちに対策を講じたほうが、明らかに得だろう。」
 投資、とは?
「具体的には、化石燃料(石油・石炭・天然ガス)の使用を中止して、たりなくなったエネルギーを
原子力発電で賄い、20年くらいの研究機関をかけて、最終的にはほとんどのエネルギーを核融合炉で
賄うようにすることだ」』
原子力発電に反対する人はなぜそうなのかの説得力がない。これから将来に生きる人たちのことを考
えているようには思えない。原子力は危険だというならば、原子爆弾はどうなのか。まったく無用の
長物といえなくもない。そこは目をつむって原子力発電だけか。ただたんに焦点をずらしているほう
が利権がえられるということなのか。技術はいちどとぎれると、再出発までには余分の時間がかかっ
てしまうのは、日本のジェット機開発をみれば一目瞭然である。そのときになって、まちがっていた
で済むなら警察も倫理も思想も理念もなにもいらない、ということになるのではないか。孫や子のた
めになどと冗談もほどほどにお願いしたい。

「「歴史」を動かす 東アジアのなかの日本」 小島毅 亜紀書房 ★★★★
『歴史(history)という言葉は、古代ギリシャではもともと「真理の探究」を意味したという。そ
の後、この語は二様の意味を持つようになった。起こった事象そのものという意味と、事象について
の記録という意味だ。この区別を意識して、後者を歴史叙述(historiography)と呼ぶこともある。
ある事象をどう記録して語り伝えるか、歴史には常にこの課題がつきまとう。東アジアにおいて「史」
とは、元来、記録を司る役職の官吏だった。』
真理だと言い張るものと真理とはちがう。ときに百八十度反転することさえある。だから、その検証
法を苦労してつくりあげてきたのである。それは視点のちがいであったりする。
『日本の歴史を語る場合、ほとんどが、日本の近代を黒船来航から語り始めます。西暦一八五三年で
すが、実際はこの年に突然世界が変わったわけではないのであり、とくに人々のものの考え方という
ことから見てみると、私は一九世紀、(一九世紀といういい方自体が西洋的なんですが)、年号でい
えば寛政年間から近代がはじまると思っています。
 寛政の改革が非常に象徴的な事件で、それ以降儒学的な素養が一般に広まって、それが明治の日露
戦争のあたりまで持ちこたえ、そこで人々の考え方が変わる。』
なかなかおもしろい。ではどのように小島氏はとらえているのだろうか。
『幕末と明治は連続している文化のなかにあると思っています。一八五〇年ころ、ペリー来航の前の
日本人と、一八八〇年あたりの日本人の考え方は、その三〇年間でがらりと変わったわけではないこ
とを強調しておきます。』
またこのようにもはっきりとおっしゃる。伊藤博文は一九〇四年に韓国統監というポストに就任した
が、韓国併合反対派、懐疑派であった。しかしハルビンで安重根に暗殺される。その結果、併合反対
派の勢力が弱くなり、一気に併合へといってしまった、というのは歴史の皮肉なんですね。動機はさ
ておき、正義のためにしたことでも、結果的には不幸な結果に終わる。古今東西、テロリストという
のはそういう存在なのかもとおっしゃる。
『「自分からみて間違ったことをやっている政治家の生物的な生命を暴力で絶つ」というのがテロリ
ストの定義だと私は考えておりますので、その意味では安重根もそのなかに入ります。』
さらにさかのぼって、いままでにない意見を述べられる。
『日本の歴史上の人物で、評判が悪い人、ワースト10を選ぶとしたら、その10位以内は必ず入るであ
ろう人物に、足利義満がいます。しかし最近は彼に対する評価の見直しが進んでいて、私はむしろ日
本の偉大な政治家ベスト10に入れていいのではないかとさえ、思っています。』
織田信長といえば歴史上の人物のなかではとりわけ有名であり人気もあります。その信長のモデルと
していたのが足利義満だというのです。ちょっと、びっくりしますね。というように興味がもてる論
点満載の本書であります。


テーマ:最近読んだ本 - ジャンル:本・雑誌

名のらないヒト
職場で電話が鳴る。
受話器をとりあげて、「おはようございます。○○社、△△課です」とこたえる。
たいていは「こちらは○□の、□△と申します。△△さんはいらっしゃいますか」と。

しかし、すくなからずの確率で名のらないヒトがいる。
「○○さん、いますか」
(おまえは誰なんだよ、声でわかるほどの有名人?)
「ただいま席をはずしておりますが、」
「なにかご伝言でもあり…」と言うまもなく、
「じゃあ、またかけるわ」
(ともだちかあ、すごくフレンドリイなんですね)
と電話が切れる。

不思議だ、そんなのでいいの。
超社会人なんでしょうね。

ときには、
「失礼ですが、どちら様ですか」と訊くと、
「ああ、何何の何某だが」
(だが、ってどういうことよ)
「で、どのようなご用件でしょうか」
(電話のマナーも知らないのか、へえそれでよく何何にいられるんだ)
「電話するように言っといて」
「かしこまりました(と、ことさら丁寧に返す)」
「ブチッ」
「…(失笑)」

そういえば、前の職場でもいましたね、名のらないヒト。
この電話の主が、副支店長なんですよ。
(副がつくところが、微妙でしたね(笑))
(やはり支店長は無理だったのか)
わかっていても、「どちら様で」と訊いてました。
そりゃあもう、なんどかかってきても訊きかえしてました。
(学習しないんです)
(というより、名のらないでつながる→自分は偉い、というような感覚らしいことが判明)

おもしろいですよね、仕事しているってことは。
(いろんなヒトがいるんだ、と)
はい、毎日けっこう刺激うけます。
(全然、憤慨などいたしません)
(笑えるので免疫細胞増加、健康にもいいかも)

N6526汀


人を見た目で判断しない
なんてことを言う人がいるが、はてさてと思うことがおおい。
美人が嫌いなのかとも思うが、そういうことではないらしい。
第一印象で(つまり見た目)ではなく、こころというか内面で判断するのだという。
(初対面だとどうするのかな、軽く挨拶だけした場合とかは)
できるだけ偏見をもたないようにと自己を戒めているのだそうだ。
(けっこう偏見にとらわれてきたんだな)
なんだかおかしくて笑いそうになるが、我慢して聴いている。
(こういう方は公平・平等ということにこだわる傾向がある)
(こだわるわりには、そう思えないことが多いのだが…)

小生など人を見る目がないので、もっぱら見た目重視である。
(美人がすきかといわれれば肯定するが、それだけじゃないんですよ)

N6537クロアゲハ

ヒトは出会うと、まずお互いをみさだめる行動にはいる。
表情の変化・声音・しぐさ(ボディランゲージ)・視線の動き具合。
服装・そのセンス・靴の汚れ具合・化粧・香水やオーデコロンの有無。
髪型・指先・身長・体重などおよその見当を瞬時でつけるものだ。
(できれば、犬のようにクンクンしたいところだ)

たいていの方はこれを無意識におこなっている。
それである程度(かなりかなあ)の判断はくだしているのである。
(逆にいうと、その瞬間にくださなきゃいけないわけだ)
どういういう判断かというと、これがなんと好きか嫌いかなのだという。
だからか、第一印象は大切ですよ、とエチケット・マナー教室の講師の方はおっしゃる。

いやそんなことはない、わたしは中身で判断するというだろうか。
しかし、それはたいてい後付けの理屈なのだ。
ふつう喉が渇いたから水を飲む、と思っている。
しかし実験では、喉が渇いたと感じるすこし前に、手はすでにコップにむかっている。
これとおなじですね。

それでも納得できないというのは、好きか嫌いかだと高尚でないとお考えなのかな。
生理的に受けつけないという言い方があるが、つまり見た目で嫌いだということだ。
(婉曲語法のつもりでおっしゃっているのでしょうか)

好きか嫌いの判断ではなにか問題がありますか。
というより、生理的に(笑)そうなっているんだからしかたがない。

でもね、好きか嫌いは時間とともに変化はしますよ。
好き→嫌い、嫌い→好き、好き→好き、嫌い→嫌いの四つの組み合わせが可能です。


カフェで読書
待ち合わせ場所はどこがいいかといったら、カフェを指定された。いいよ、遅れたってかまわないよ。
本でも読んでるから退屈しないしね。ごめんね、すこし遅れるかもしれないと返事があった。十分く
らい前に着いて、カウンターで珈琲を買って窓際に席をとる。入口がみえるような位置にすわって店
内をながめながら珈琲のかおりをかぐ。なんともいえないいい気分になる。こんな場所だからか逆に
読書に集中できる。ミステリも佳境にはいってきたころ、肩をたたかれた。すっかり感情移入してい
たから、おどろいて身体がもちあがるくらいだった。カップとソーサーがかたかたと小刻みな振動を
しばらく続けていた。なにをそんなに驚くことがあるのかという表情で彼女は片眉をあげた。なんだ
か浮気現場をおさえられたかのようね、と言った。ドキドキするなど身体の変化はときとしてその対
象をとりちがえることがある。だからか、いつもとちがって彼女が美しく思えた。

N6532下弦の月

「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」 上 下 スティーグ・ラーソン
               ヘレンハルメ美穂・岩澤雅利訳 早川書房 ★★★★

「ミレニアム」という硬派な経済ジャーナル月刊誌の発行責任者のミカエル・ブルムクヴィストは大
物実業家の違法を暴露する記事を書いた。ところが逆に名誉棄損で有罪判決をうけてしまう。そんな
彼の元に大企業グループの前会長ヘンリック・ヴァンゲルから奇妙な依頼がくる。ヘンリックの兄の
孫娘が40年ほど前に突然消えてしまった。はたして殺されたのか、その事件を徹底的に調べてほし
いというのである。断ったのだが、事件の真相が判明すれば大物実業家を破滅させることができる証
拠資料を渡してもいいという。ミカエルは依頼を受けることにする。
全世界で800万部を超えるベストセラーとなった「ミレニアム」三部作の第一部がここにはじまる。
映画にもなったので、記憶にある人もおおいと思う。わたしは見ていないのだが、読んでみると筋の
運びといい登場人物の造形といい、映画向きである。じつは作者のラーソンのもともとの構想では第
五部まであったようなのだが、本書が出版される前、第三部を書き上げたて第四部にとりかかったと
ころで心筋梗塞で亡くなっている。そういう経緯もありさらに注目されることとなった。
調査はヴァンゲル一族が住むヘーデビー島へミカエルが乗りこんでいよいよ始まることになる。孫娘
ハリエット・ヴァンゲルの捜索は徹底的に行われた。当時、ヘーデビー島と本土とを結ぶ橋上で事故
があり、だれも自由に行き来できる状態ではなかったのだ。しかしハリエットの行方はまったくとい
っていいほどわからなかった。その報告書をミカエルはじっくりと読んだ。
『報告書の中でも、失踪から三日目に捜索が打ち切られたことを記した部分には、担当者の満たされ
ない気持ちがうかがえた。グスタフ・モレルはこの時点ではまだそのことを自覚していないが、実際
のところ、彼はこれ以上捜査を先に進めることができなかった。彼は困惑しきっており、次なる一歩
として何をすればいいのか、どの場所の捜索を続ければいいのか、まるで見当がつかなくなっていた
のだ。ハリエット・ヴァンゲルは影も形もなく消えうせた。そして、ヘンリック・ヴァンゲルのまも
なく四十年に及ぶ苦難が、ここに始まった。』
なぜミカエルのそんな依頼が舞いこんだのか。じつは、背中におおきなドラゴンのタトゥーを入れた
有能な女性調査員の存在があった。リスベット・サランデルはきわめて小柄で二十四歳なのに十五歳
ぐらいにしかみえない。だが調査の腕は一級品である。だが彼女は重い過去を背負ってもいるのだ。
やがてミカエルとリスベットは協力しながらハリエット失踪の謎に迫っていく。しかしながら、スウ
ェーデンの社会がかかえる問題を抜きにはその謎は解けないというのかのごとく、各部の冒頭にかか
げられる短い文章がある。これはなにを意味しているのだろうか。
『スウェーデンでは女性の十八パーセントが男に脅迫された経験を持つ。』(第一部)
『スウェーデンでは女性の四十六パーセントが男性に暴力をふるわれた経験を持つ。』(第二部)
『スウェーデンでは女性の十三パーセントが、性的パートナー以外の人物から深刻な性的暴行を受け
た経験を有する。』(第三部)
『スウェーデンでは、性的暴行を受けた女性のうち九十二パーセントが、警察に被害届を出していな
い。』(第四部)
スウェーデン社会に対する漠然としたイメージがくつがえされただろうか。ミステリは社会をうつす
ものでもある。よりうつしているミステリが今日では評価が高いともいえるだろう。

「なつかしいひと」 平松洋子 新潮社 ★★★
人はあたりまえのように生きていて、だがときおりなにかに気づく。
『ざくり。足の裏で霜の崩れる音が響く。ざくざく。おもむろに一歩を踏み出す。
 こどものころ、冬の朝のたのしみはむっくり持ち上げる霜柱を見つけることだった。白く透明な群
生を勢いこんで踏みつけると、背中のランドセルもいっしょに元気に揺れた。あのときとおなじ弾み
が、今日の寒さを忘れさせた。』
それがいつのまにか遠い世界の出来事になってしまっている。進歩か進化か。あるいは文化か文明か、
とかと考えだすと、もうわからない。感覚か感性か、なんてことでもない。しかし、すべては連鎖の
もとにあるんだと考えるようにもなってくる。
『旅先の宿の庭でぐうぜん捕まえた二匹の蛍を両手でつつんでだいじに運び、蚊帳のなかへ解き放っ
たのだ。きれい、きれいとはしゃいで弧を描いて飛ぶ光を目で追いかけているうち、ことんと眠りに
おちた。
 翌朝、自分の残酷を思い知らされた。起きだすと、夏掛けふとんのはじに昨夜の蛍がふたつ、無惨
なすがたで転がっていたのである。』
これが残酷だと思いだすと、小乗仏教的な生活になるしかないのか、と考えたりもした。呼吸するこ
とによって、微生物やらなんやらをのみこんでいる。だから、潔癖症の人というのは、見えなければ
知らなければそれで生きていける人でもあるんだ。ある意味幸せなんじゃないかと揶揄したくなる。
『そういえば書棚の整理法を問われた知人が、あっと驚く術を開陳してくれたことがある。いわく、
「たいせつな本は頭のなかに入っているから、むしろそちらのほうを処分する」。たいせつであれば
あるほどちゃんと頭に入っているし、いつでも記憶のなかから取り出せる。再読したいときは題名も
版元も内容も熟知しているから探すのも簡単で、入手しやすい。むしろ自分にとって中途半端な本を
書棚に残しておいて整理するほうが、その後の手間が省けて役立つというのだ。逆転の発想にびっく
り仰天した。』
理屈はそうだが、本という物質はそうとらえられないところにあると思うんだがなあ。とわたしなん
かは強弁してしまうんです。


テーマ:最近読んだ本 - ジャンル:本・雑誌

秋の夜、友に会う
人の声とは不思議なものだと思う。
聞くだけで、ある情景がうかんできたりする。
もう忘れてしまっていたと思うようなことが現れる。

ときどき声が聴きたいと思うのである。
顔を見るのとはまたちがう。
声は時空を超えているのだろう。
聴覚と視覚がどうしてつながっているのかその機序は知らない。
考えてみれば、なんとも不可解ではある。

北海道に住むMと久しぶりに大阪で会った。
この前は、昨年の七月初旬、これは札幌でだった。
二月の新大阪でも会いましたね。

「ながほり」という居酒屋でいいかなという。
こちらに依存のあるわけがない。

「ながほり」

店にむかって三人で歩いていると、Mに電話がはいる。
えっ、30分勘違いしてた、ごめんと。
店に着いたら玄関前で主人が笑って出迎えてくれた。

ここは居酒屋、ではないな。
割烹、小料理屋、うーんなんというのだろう。

「ながほり」店内

お客はすべて予約だという。
この店構え、通りすがりはありえない。

料理も堪能して、こんな高級な店、なんだかちょっぴり疲れた(笑)。

十四代

こんどはいつ会えるのだろうか。
元気であればそれが叶うだろう、ということだ。




プロフィール

ムッシュ

Author:ムッシュ
島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カレンダー

10 | 2015/11 | 12
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 - - - - -

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

カテゴリー