ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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二段ベッドで読書
若いころに旅をするといえば、安いユースホステルがよく利用された。そこでベッドといえば二段が
定番である。知らない同士がおなじ部屋で眠る。それが嫌なら旅などできない。そんな時代であった。
どちらかというとベッドで寝るのが初体験という若者が多かった。子ども部屋が一般的ではなかった
から個室気分が味わえてうれしかった。下か上かどちらにとれるかは運次第である。あるいは性格に
よるかもしれない。兄弟なら上が弟で下が兄になるだろう。上座は下か。なんとなく可笑しさを感じ
る。早い時間に到着してチェックイン。さっそく二段ベッドの下段を占拠する。ごろんと大の字にな
って仰向けに寝ころぶ。おおきく伸びをすれば自由な空間が満喫できるのだ。リュックから本を取り
出して読みはじめる。聞こえてくるのは蝉の声ぐらいだ。はるかの世界へと旅立つことができるよう
な本を読んだ。いつしか夢か現かもわからない境地にいたる。世界にはわたしのみが存在するのだ。

9312コルク人形

「猟犬」 ヨルン・リーエル・ホルスト 猪俣和夫訳 早川書房 ★★★★
ノルウェーの首都オスロから南西に100kmほど離れた小さな街ラルヴィクの警察に勤務するヴィリ
アム・ヴィスティング警部は勤続31年のヴェテラン捜査官である。そんなある日、新聞社の記者を
しているヴィスティングの娘のリーネから17年前に解決したと思われていたセシリア事件で証拠の
DNA鑑定で偽造があったという告発がなされ新聞で大々的に報じられるとの予告の電話を受ける。
まさに青天の霹靂である。当時、この事件の捜査責任者であったヴィスティングは即時停職処分を勧
告され警察官の身分を停止されることになってしまう。黙って処分を待つまでもなくヴィスティング
は事件の再調査に乗りだす。ちょうどそのころ、娘のリーネはオスロ湾を挟んで対岸に位置する土地
で起きた殺人事件を取材していた。もしこれが大事件に発展すればすこしは父への風当たりも弱くな
るかもと考えたりもする。だが独自の調査で割り出した被害者宅を訪れた際に家宅侵入犯に遭遇して
しまう。彼が事件の犯人なのかそれともたまたまの偶然なのか。こうしてふたつの事件がヴィスティ
ングとリーネを中心に展開していく。まったく別々の事件と思われたものがいつしか関連性を帯びて
くるのだった。セシリア事件での証拠偽造はどうも警察関係者が関係したしかにあったようなのだ。
ここからヴィスティング警部の調査は警察官の身分をはがされながらも本格化していく。セシリア事
件で有罪となったハーグルンとの対面場面など緊迫感あるストーリーは息づまるものがある。犯罪に
は動機がある。ヴィスティングとリーネは話す。彼女は「動機って何かしら」と問いかける。
『「動機には八つあるといつも思っている」ヴィスティングが答えた。
 「八つ?」
 うなずいて、数えあげていく。「嫉妬、復讐、金目当て、欲望、スリル、追放、狂信だ。嫉妬や復
讐心による殺人は最も簡単に説明がつく。個人的に金銭が絡んだ殺人もそうだ。スリルというのは動
機としてはあまり表には出てこない。出てくるとすれば連続殺人だが、幸いこの国ではそういうのは
多くない」
 ……
「でも、まだ七つにしかならないわよ」リーネが言った。「八つめの動機は何?」
「これはおそらく見抜くのがいちばん難しい」ヴィスティングが返す。「別の犯罪を揉み消すために
犯す殺人だ」』
本作品はかの有名なマルティン・ヴェック賞など北欧の主要な三賞を受賞している。

「地球を「売り物」にする人たち」 マッケンジー・ファンク
                    柴田裕之訳 ダイヤモンド社 ★★★★

地球温暖化といわれて久しい。ほんとうに温暖化しているのかという問題はさておく。本書はそんな
地球の様子を六年の歳月をかけて追った力作である。著者が冷静沈着に書いているのに好感をいだく。
『本書は人類が性懲りもなく温暖化を促して生み出す気でいるように思える世界に対して、私たちが
どう準備を進めているかについての本だ。気候変動がテーマではあるが、それを科学的に解明するた
めのものでもなければ、気候変動をめぐる政治についてのものでもないし、どうすれば私たちが気候
変動を止められるか、あるいはなぜ止めるべきなのかを直接取りあげるわけでもない。それでは何の
本かといえば、「人類は気候変動を早急に止めそうにない」というシンプルでシニカルな前提に賭け
た、人間のふるまいについてのものだ。』
どこかのだれかのように反対と叫んでいれば世界が変わるのであればいいのになと思う。だが現実は
そんなことでは一ミリも動かないようだ。
『本書は人々、それもおもに私のような人間、すなわち歴史的に見て、いわゆる温室効果ガス排出国
と呼ばれる、北半球の先進国の、文字どおりの意味で、あるいは比喩的な意味で高い位置を占め、ド
ライな土地に暮らす人についてのものだ。
 私は、気候変動が人間にどのような行動をとれせるかに関心がある――私たちがどのように危機に
立ち向かうかのケーススタディ、それも究極のケーススタディとして。』
そもそも地球レベルでの温暖化というのはどのくらいのスパンで考えるものなのだろうか。たとえば、
一万年単位とか。いやいや地誌レベルだと十万年が一メモリぐらいになるのか。地球はなんども氷河
期を迎えたらしい。氷河期がほんとうに来れば人類は絶滅するかもしれない。それよりいまこの地球
温暖化を考えてみるということだ。地球の平均気温は上昇している。それにつれて北極の氷床が溶け
だしている。氷河は年々小さくなっている。海面の上昇がみられる。このまますすめば確実に水没す
る都市もでてくるだろう。悲観的になるのは見方がせまい。いままで閉ざされていた北極海航路は通
年可能になるかもしれない。グリーンランドもまさにその名のとおり資源あふれる土地に変わるかも
しれない。どこかがマイナスになればどこかでプラスがある。地球温暖化はゼロサムゲームなのか。
著者は世界各地で実見してきたことを本書にしるす。読者はどう判断するのか。ここからなにを読み
とるのかは自由だ。本とは本来そういうものではなければいけないのではないか。書き手とおなじよ
うに読む側も考える力がなければならない。扇動的言辞にはもう飽き飽きしているのだ。その陰で投
資家はなにを考えどう行動しているのだろうか。
『気候変動関連投資家にとって、水は明白な投資対象だった。二酸化炭素の排出は目に見えない。気
温は抽象概念でしかない。だが、氷が解け、貯水池が空になり、波が押し寄せ、豪雨が降り注ぐとい
うのは、具体的ではっきり捉えられる。いわば、気候変動の「顔」だ。水のおかげで気候変動は実感
を伴う。』
単に水そのものだけの問題ではない。農業に水は欠かせない。こういうことを知っているのか。
『小麦を1グラム輸出するのは、水を1リットル輸出するのに相当する』
地球温暖化も投資家にとってはビジネスチャンスにすぎない。


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テーマ:最近読んだ本 - ジャンル:本・雑誌

墓所で読書
あれはいつのころのことだったのだろうか。もうお盆の時期はとうにすぎていた。でもいちどはお参
りしないとな、などと考えていた。寺には人の気配もなかった暑い昼下がりだった。桶と柄杓を勝手
に借りて坂道をひとり登っていった。このあたりだったかなあ。なんとも頼りない。だがなんとか目
的のお墓にたどりついた。いまのぼってきた道をふりかえると海が見えた。すこし潮のにおいもする
ようだった。花を供えてしばらくぼんやりしていた。いまでもときおり声が聞こえてくるような気が
するのだ。明るく元気そうに笑いながら話している。おれはときおり頷くだけできいていた。いかに
も愉快そうに話す光景がうかんでくる。もう何十年も前のことなのにやけに鮮明にくっきりと記憶に
のこっている。墓石のちかくに座れる場所をみつけて腰かけた。持参した本をそっと開く。後からの
ぞきこんで「なにを読んでいるのよ」と問いかけられるのじゃないかと、つい期待してしまうのだ。

N9494シオカラトンボ

「判決破棄 リンカーン弁護士」(上)(下)
                マイクル・コナリー 古沢嘉通訳 講談社文庫 ★★★★

マイクル・コナリーの作品にはリンカーン弁護士ミッキー・ハラーものとハリー・ボッシュ刑事のシ
リーズがある。本作はミッキー・ハラーの3作目であり、かつハリー・ボッシュも登場する(こちら
なら16作目)。映画でいうならダブル主演というところだ。ファンにとってはたまらない。さて、
物語は24年前におこった少女殺害事件の有罪判決を破棄するというものである。犯人とされたジェ
イスン・ジェサップは無実を訴え続けていた。その後DNA鑑定の技術が進歩し証拠となった被害者
のメリッサ・ランディのワンピースの裾についていた精液がジェサップのものではなかったことが判
明したからである。ジェサップは犯人ではなかったのか。やはり犯人なのか。これに対して検察側は
黙って引き下がるか再度裁判で争うのかという判断をせまられる。そこででた奇策が、弁護士ミッキ
ー・ハラーを独立特別検察官として任命するというもの。こういう制度がアメリカらしいですね。ハ
ラーは勝算がうすいこの事件をふだんとは真逆の検察官として引き受けることになる。そして相棒に
は元妻のマギー・マクファースン検事補、調査員にはハリー・ボッシュ刑事があたるということにな
る。ジェサップの弁護士にはやり手として知られるクライヴ・ロイスがつくことになる。アメリカで
の裁判は陪審員制度である。被告が有罪か無罪かは陪審員の判断にゆだねられるのだ。証拠はもちろ
ん弁論も陪審員を説得するものが求められる。そこにはもちろんアメリカの文化が色濃く反映される。
動かぬ証拠であってもこんな解釈が可能だと納得させれば判断はひっくりかえる。行き詰るような法
定場面、証拠・証人をもとめての捜査過程など読みどころ満載である。後半になって二転三転すると
ころなどコナリーが人気のあるゆえんなのだ。あっというまに読み終えること請け合いである。
『ボッシュは頭のなかに、自分の娘の姿を一瞬思い浮かべた。たとえどんなに困難であっても、阻止
せねばならない悪が世のなかにはあるとボッシュは知っていた。子どもを狙う殺人鬼はそのリストの
一番上にある。
「わかった」ボッシュは言った。「加わろう」』
子ども殺しは人のなす悪のなかでももっとも許されない。どこかジェサップの行動はおかしい。だが、
裁判では証拠が納得させる論理がなければならない。ボッシュ刑事がんばれとこころのなかで叫ぶ。

「本当は怖い動物の子育て」 竹内久美子 新潮新書 ★★★★
ある種の動物はおなじ種の赤ちゃんを殺す。これを知ったのは杉山幸丸さんのインドでのハヌマンラ
ングールについて書かれた本を読んだとき。インドでは神の使いとされている美しいサルだ。だが群
れのオスが交代したとき、その時点で群れにいた赤ちゃんザルは殺される。なぜか。赤ん坊のサルを
失ったメスはふたたび発情が可能になってオスを受けいれることができるからだ。なんとも人からす
れば悲惨なことだ。だがそれが自然界ではよくあることだと知られてきた。単純にそれをヒトに敷衍
することはできないが、一考するには価する。進化論も種というより個々の子孫を残そうと、あるい
は血縁にあるものを生かそうとする考えに傾いているようだ。この本を読んでいるとそんなことを思
ってしまう。なんだかやるせないのはしかたのないことないか。
『ほ乳類のメスには普通、子に頻繁に乳を与えている限り、子が乳を吸うという刺激によって、発情
もしなければ、排卵も抑えられるメカニズムがあります。しかし乳を吸う者がいなくなってしばらく
すると、発情と排卵が再開されるのです。
 ここで子を殺された母親の豹変ぶりを責めることはできません。我が子を守り切ることができない
のであれば、次善の策としては、できるだけ早く発情して新しいオスとの間に子をつくる。それ以外
に自分の遺伝子のコピーをよく残す道はないのです。』
ではヒトも哺乳類だが、そういうことはないのか。世界各地の先住民には「嬰児殺し」とよばれるも
のが存在する。日本人はもの忘れてしまったしれないが、つい最近までは「間引き」といい慣わされ
たものが存在した。童謡「シャボン玉」はそのことを歌っているともいわれたりする。ヒトの場合な
ぜ殺すのか。南米ボリビアアのヨレオ族の女性に問うた結果がある。
『どういう場合に子を殺すのかという問いに、女たちはこう答えました。
 まず、父親から確実なサポートが得られそうにないとき。
 正式な結婚相手ではない男との子どもを殺す理由は、ここにありました。しかし、それ以外の場合
でも、次のような場合には殺すと答えています。
 奇形児や双子が生まれたとき(双子の場合にはどちらかを殺す。)
 そして、生まれた子が上の子と年が接近しすぎていて、もし育てるとすると上の子の生存が危うく
なりそうなとき。』
育てられそうもないとの判断があるわけですね。さらに重要なのは以下のこと。
『この判断は当の女に委ねられており、どう選択しても罰せられることはありません。その判断のた
めの文化や風習、掟が存在しているのです。』
ここで思うのは、普遍的に悪であるとか絶対に悪であるとかといえるのか。そういうことを声高にい
う御仁に限って、偽善的だったり無知蒙昧だったりするんですよね。


テーマ:最近読んだ本 - ジャンル:本・雑誌

続々・本棚を見られるのは恥ずかしい?
世のなか何でもある一面は表わしている。
そうですね。

またそれがすべてではないことも示している。
それはそうです。

線形の理論が心地いいのだろうとは思うが、そうはいかない。
非線形の世のなかだからということですか。

そうじゃなくて、ヒトのこころというのか精神は単純を好むんだよ。
「オッカムの剃刀」というのもありましたね。

まあそういう面もあるけれどもね。
わざわざうがった見方をするなよと。

そのものを素直にうけいれるこころが大切なんではないだろうか。
ということは、そうではない自己を認識しているからこその発言だともいえますよね。

そのとおり。
ちょっと不可解。

どうして。
あまりに素直に返してくるから。

いつだって素直・従順だよ。
それはないわ、もしかして解釈がちがっているのかな。

だからある一面は現しているって。
多面的な自己の一部分だと。

自己矛盾をかかえていない人など存在しない。
不倫を非難されたときの言い訳に使えます。

哲学的自己弁護。

9333若き日々


続・本棚を見られるのは恥ずかしい?
わたしはまったく恥ずかしいなんて思ったことない。
そうなの、自信家だから。

そうじゃなくて、そんなことでわかるわけないって考えているから。
まったくわからないのかな。

こういう傾向の本を読んでいるんだぐらいはわかる。
でも他人に見られたくない本があったりしないかな。

隠しておけばいいじゃないか。
それはそうだけど。

そういう本は当人にしかわからない奥の場所にあったりして。
そうかもしれない。

それって成人向けの本ってこと。
いやあ、いろいろと特殊な趣味の本とか。

なるほどね、そういうのは持ってないから安心だ。
でも人によっては受けとり方がちがうよね。

そういうことまったく気にならない。
気になる人はやっぱりいるよね。

そういう人は本棚を見せない、見てほしくないと宣言すればすむじゃない。
それは角が立つ気がするのかな。

でも、そういう考えの人間なんだということが相手にわかるからいいじゃないか(笑)。
また、そんな皮肉ばっかり言うんだから。

9336岩波新著


本棚を見られるのは恥ずかしい?
どうして恥ずかしいのかな。
だって裸を見られているような気がするとかっていうじゃないですか。

並んでいる本を見れば、その人の思想・信条・性向などが知れるとでも思っているの。
そんな気がするんですよね。

じゃあ、そんな風に思ったことあるの。
うーん、ないかな。

せいぜいこんな本を読んでいるんだぐらいの感想じゃないの。
まあそうですね。

そこまで神経質になるのならファッションだってその人物を現しているよ。
そういわれればそうだけど。

それは恥ずかしくないの。
自分のセンスの問題だから。

本もおなじじゃないの。
ちょっとちがうかな。

どうちがうの。
本は読む人の内面を表しているかも。

もし現しているとして、それですべてが分かるの。
そうは思わないけど。

本て読み手によってちがった印象をうけたりする。
そうだね。

それにどういう興味でその本を読んでいるのかまではわからない。
そうか考えすぎだね。

それに見られることを逆手にとった本棚もあるんじゃない。

9335本棚遠景


深夜急行で読書
青森駅は深夜のなかでうずくまっていた。そんななかプラットホームを駆けぬけていく足音だけが高
く響く。硬直した背もたれの四人掛けのいっかくになんとか座れた。ほぼ満席である。どこにこれだ
けの人間がいたのやらと思う。やがて喧騒も鎮まり密やかに列車は走りだす。「北国」はこれから二
〇時間をかけて終着の大阪駅まで日本海の沿岸を走るのだ。列車のなかでは興奮さめやらぬ若者たち
が歌をうたう。まるで歌声喫茶のようだが、表立っての文句はでなかった。そのうちだんだんと静か
になっていった。読んでいた本を伏せ窓の外をながめる。真っ暗な闇だけがひろがっている。横では
友がやすらかな寝息をたてている。その顔を見ていたらなんだかやさしいような気持ちになった。疲
れているんだろうな。なんでも率先してやる頑張りやだからなあ。そろそろ空があかるくなろうとす
る時刻にちかづいてきた。またもやぎらぎらと輝き照りつける夏が、むくむくと起きあがってくる。

9327白夜

「医療が病いをつくる」 安保徹 岩波書店 ★★★★
現代の最先端医学は一般人には理解しがたいところがある。また医療における検査数値というのも微
妙なものが多い。薬が病気を治すというのは正確ではない。薬にはかならず副作用がある。これがよ
くわかっていない人が多い。なんでも、どんなささいなことでもすぐに薬に頼る。だが、副作用があ
ることは処方箋でよくわかる。この胃薬を飲むと胃が荒れる可能性があるので、その荒れを抑えるた
めの薬ですなどと説明される。この薬を飲むためにはこの薬を飲む必要があるのか。だからやたらに
薬の種類が多くなってくる。こんなことでいいのだろうか。製薬会社救済キャンペーンみたいだ。そ
こで本書ではこんな紹介文章を見つけた。みなさん自分で判断してください(笑)。
『ここで、アメリカで評判の医師用教科書『ドクターズルール四二五』(邦訳『医師の心得集』の一文
を紹介する。
  「可能ならすべての薬を中止せよ。不可能なら、できるだけ多くの薬を中止せよ」「薬の数が増
  えれば副作用の可能性はネズミ算的に増える」「四種類以上の薬を飲んでいる患者は医学知識の
  及ばぬ危険な領域にいる」「高齢者のほとんどは薬を中止すると体調がよくなる」』
しかし最後は本人の免疫力が体を正常にもどすのだ。もちろんヒトには免疫力という自己修復機能が
ある。その観点からガンを見直すとこういうことになるのだそうだ。
『弘前大学医学部生化学の佐藤公彦氏によって、「癌自体が生体防御反応の一つ」という考え方が最
近提起されている。癌細胞が、激しい交感神経緊張状態によって産生された体内毒物(代謝産物)を
排除するという考え方である。もしそうなら、交感神経緊張を止めると癌の存在意義がなくなり、癌
が自然退縮してしまうこととつながってくる。
 なぜ癌細胞が毒物を排除できるのであろうか。その理由は、癌細胞は増殖能も高いがアポトーシス
で死ぬ力も強いからであろう。』
最後は自己責任である。そのためには知ることは大切である。人の意見は人の数だけある。確かなセ
オリーだといわれていてもひっくり返ったことは過去にいくらでもある。これからもあるだろう。人
は誤るのだ。医者の言いなりになって過ごすか、自分で決断して生きるか。医療機関はあくまでも助
言者であると肝に銘じなければいけないんでしょうね。コレステロールについてもひとこと。
『コレステロールはすべての細胞の構成成分であり、また、ステロイドホルモンや性ホルモンそして
ビタミンDの原料となっている。極めてからだに必要なものである。
 血管に付いて動脈硬化を引き起こす以前のその大切さを知らなければならない。』
ヒトの身体を構成するものに不必要なものなんてあるのだろうか。すべてはバランスのうえで成り立
っているのか。そこで思いだすのだ。腹八文目、これはなにを意味しているのだろうか。

「身体から革命を起こす」 甲野善紀 田中聡 新潮社 ★★★★
甲野さんのことは養老先生との共著で知りました。人間の動きを分析する西洋的観点からではなく、
日本の武術につながる動作から読み解いていく。なかなかおもしろいですね。剛よく柔を制す、など
ともいいます。この剛は直線的、柔は円環的とわたしは理解しています。筋肉の使い方も、まったく
考え方がちがっているようです。そこがまた興味深いです。実践している姿が美しいですね。よくス
ポーツ選手などでボディビルダーのように筋肉を鍛えている方がいます。なにか可笑しさを誘います。
なにが目的なんだ、と思ってしまいます。思い込みというのはどんな世界にもあるようです。超一流
になるとさすがにそういう人はすくないようですが。
『甲野は、「小成は大成を妨げる最大の要素である。そこそこの成功は、それ以上のものを追求させ
ないための強力な目かくしとなる」と言う。
 人は、自分の「実感」を否定することは難しい。まして、それまでにしてきた苦労を愛さずにはい
られない。苦労して上位に上ってきたシステムを愛し、利権を守ろうとする官僚的な発想に、「実感」
も冒されている。
 だから「実感」と思うなかにひそむ観念性を見抜き、生きているものとしての身体を見出さなけれ
ば、いくら身体や感覚が大切だといっても、結局は観念を見ているだけに終わりかねないのだ。』
また甲野はこんなことを言う。スキーや自動車レースは相当技術が発達している。それは死の危険が
隣り合わせにあるからだろう。だが、ゴルフはそういうことがない。だからこう感じるのだ。
『ゴルフには、およそ身の安全にかかわるような事態はないわけです。それで動きの転換も生まれな
かったのでしょうね。そもそも私がゴルフを見ていておかしいと思うのは、ボールを見て打つという
ことです。これから打つ先を、なぜ見ないのか。
 ボールを見て打つのは、ボールを見ないとうまく当たらないとか、軸をブラさないとかいう理由で、
ほとんどのゴルファーはボールを見て打っていますね。有名選手では、わずかにデュバルとか女子の
ソレンスタムが比較的早く顔を上げていますけれど、まだまだその程度です。
 しかし、、もし敵が攻めてきたときにゴルフ用具を武器にして対抗するしかないという状況になっ
たとすれば、絶対に、ワーッと攻めて来る相手を見てその位置を確認しながら打つでしょう。攻めて
くる相手を見ないで、ボールを見ているわけがありません。心理的な面から考えてもそうでしょう。
 これは開拓時代のアメリカで腰に下げたホルスターから拳銃を抜いて撃ち合うのに、相手を見ずに
自分の腰に下げた銃を見て撃つ人がいないのと同じです。』
なるほど、その視点にはおそれいるのである。だれか有名ゴルファー反論してください。


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美人の旅路
若いころはきれいだったね。
ありがとう、いまはどう。

いまは、それなりにいいんじゃない。
それはどういうふうに理解すればいいんでしょうか。

まあ多少は重厚さのほうが勝ってきているというか。
というかの次をどうぞ。

相変わらずお美しいですよ。
ですよは余計なんじゃないですか。

そうでした、訂正いたします。
そうでもないですよ、もう若くはないし。

若さだけが美の基準でしょうか。
もちろんそうじゃないですけど比重は高いんじゃないですか。

とおっしゃると、どのくらいでしょうか。
八割がたかしら。

うーん、激しく同意いたします。
男の人はいいわね。

どういいんですか。
だって年配になると、渋いとか落ち着きがあるとかの語彙で形容されるでしょ。

女性だってあるんじゃないでしょうか。
たとえば。

えっ、年輪を感じますねとか。
シワが増えたってこと。

いやいや、そうじゃないですよ。
ちょっと言ってみたかったの。

花が落ちたあとに実がなるっていいますから。
意味不明ね。

9324クリオメ


深夜フェリーで読書
名残惜しいが夏の北海道を去る。お金に余裕はない。札幌を夜の普通列車で発ち、函館をめざす。満
員状態で立ち通しであった。八時間ほどかかったのだろうか、はっきりとは記憶していない。だが長
かったと感じたことだけはたしかだ。函館駅に着くと同時に連絡フェリーへと人々は駆け出す。する
と、歩いていた人たちまで駆け出したくなるようだ。フェリーのなかは席にまだ余裕があった。それ
ほどおおきな連絡船だった。岸壁を離れると、街の灯かりがきらめいて見えた。席にもどって文庫本
を開いたが、すぐに読むのをやめた。このひと月半ほどの北海道での暮らしを思いだす。いろいろと
事件にも遭遇した。おおくの人たちに出会った。みんなそれぞれの人生を歩んでいるようだった。ヒ
トは環境に影響される。順応できる者もいれば、なじめない者もいる。どちらが幸せなのか、などと
考えもした。森のなかの静まりかえる湖でもぼんやりと考えていた。生きるとは考えることなんだと。

9298ゴーヤ

「ゴシップ的日本語論」 丸谷才一 文春文庫 ★★★★
丸谷さんが亡くなってもう五年ちかくになる。多くの著作を残しておられます。それらの本でいろい
ろと教えていただいたなあと思いつつ読んでいた。小説もお書きになられましたが、評論は切れ味鋭
くて読んでいて爽快でありました。エッセイもまさに小論文という本来の意味でのものでした。未読
本がどんどんと少なくなっていくのは残念な気がします。だからというわけではないですが、酒をの
むようにちびちびと読もうかなと思ったりもします。人は褒めて育てよ、という。しかし、ただ褒め
るだけではむしろ害になるかもしれない。増上させることもあるだろう。しかし、これも相手により
けりですからね。相対性ですね、相性と字面が似ています。
『戦後、日本人全体が多弁になつた。それから早口になつた。よくしやべるやうになつたせいで泣か
なくなつた。
 昔は無口で言語表現がうまくできないから、無念の思ひが心の中にわだかまつて泣いた。そのこと
については柳田國男が書いてゐます。赤ん坊は言葉がないから泣くんです。ところが、今やみんな言
葉によつて一所懸命表現するやうになつたために、泣くといふ風俗がなくなつた。』
なるほど、おもしろいですね。ちょっと引っかかるところはありますが。
『「活版印刷による出版資本主義が国民国家をつくつた」と、ベネディクト・アンダーソンが『想像
の共同体』ではつきり指摘してゐます。日本の場合、この活版印刷による出版資本主義を可能にする
ためには、機能的=能率的な言葉がなければならかつた。その機能的=能率的な言葉を成立させたのは、
西洋的概念の漢字による訳語だつたわけです。』
こういうことを読むと、志賀直哉を思いだしつつ苦笑するわけです。すこしずれているんですけど。
テクストの理解についてもおもしろいですね。
『文章とは、抽象的な、中立的な読者を想定して書かれるものだし、また、そのやうにして書かなけ
ればならない。ところが、テレビ時代にはいつて成長した人々には、テクストがさういふものだとい
ふことを知らない人が多いから、さういつた文章を書きにくくなつた。
 もう一つ、ここでつけ加えなければならないのは、携帯電話の大流行です。すぐに推測できるやう
に、携帯電話といふのは、テレビ以上にコンテクストに寄りかかつてゐる表現なんです。テクストな
し、コンテクストだけがあると言つてもいいかもしれません。』
コンテクスト(文脈)は第三者には共有されていない。このことを肝に銘じてゐなければいけません。
教育の場でこういうことを具体的にわかりやすく教える必要があるでしょうね。でないと、社会に出
て困りますから。そしてなぜ通じないのか、ということも分からないということになる

「潤一」 井上荒野 マガジンハウス ★★★★
井上荒野さんはやはりすごいと思う。いや、その前に小説がとてもおもしろい。あたりまえですが、
やはり作品には作家の人生観がでるものなんだと再認識した。小説の書き方にもいろいろとあるのだ
が、読者にどう伝えるかだと思う。この伊月潤一という人物の造型をどう描くのか。彼にまつわる女
性たちを通してというのはまあよくある試みである。だが、最後に潤一の独白という章をもってきた
ところがいいですね。ストーリーに深みができました。この小説全十章からなっている。九人の女性
がいろんな場面で潤一と出会う。それが自然に感じられるというのが、荒野さんの筆力なんでしょう。
『1―映子(三十歳)
 私が潤一と会ったのは、太極拳教室だった。

 2―環(二十八歳)
 わたしが潤一に会ったのは「耳」だった。

 3―あゆ子(六十二歳)
 私が潤一に会ったのは、夫の蔵書を処分したときだった。』
あゆ子のこんなこころの描写がじんわりとしみこんでくる。こういう視点もうまいと思う。
『葬儀が終わり、納骨もすんで、身辺が落ち着きはじめた頃から、私は夫の書斎で過ごすことが多く
なった。
 台所や居間や寝室にいると、かつてそこでともに食事をしていたり、くつろいでいたり、傍らで眠
っていたりする夫の不在を感じずにはいられなかった。それで私は、書斎に逃げ込んだのだ。夫は書
斎にいるときはいつも一人だったし、書斎にいる夫に私が呼びかけるときには、細目に開けたドアの
隙間から、いつも夫の背中を見るだけだったから。
 考えようによっては、それは奇妙なことだった。書斎は、夫にもっとも近しい場所だったはずなの
に、私にとっては、夫を思い出さずにすむ唯一の場所だったのだから。』
男と女が出会う。そしてセックスしたりしなかったり。このセックスなんだが、この小説を読んでい
るとボノボの「ホカホカ」が思い起こされる。ヒトの不安や不安定な心情をおだやかにする効果があ
るのかな。恋愛至上主義は現代では死語になったかもしれない。もともと、そんなことは絵空事であ
るとだれもが感じていた。でもなにか理想がイデアがあったほうがいい。ものごとはいつも揺れもど
る軌跡をえがいたりするものだ。ゴーギャンではないが、人はどこから来てどこへ行くんだろう、な
どと考えさせられる結末部分でありましたね。荒野さん、お見事というしかないですな。


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美人の基準
あるときふと気づく。
友人たちと話していて違和感がある。

美人というのは普遍的な価値ではないのだと。
文化人類学によらなくても国によって美人の基準がすこしずつちがうと知っている。

映画俳優とか歌手ならだれが好きかなどよく話題にのぼった。
わたしたち以上の年代では吉永小百合が人気が高い。
サユリストなどと呼ばれる狂信的なファンもいた。

演技はお世辞にもうまいといえない。
歌も平均以下。
発声がなっていない。

しかしながら、あの素人っぽいところがいいのだと思う。
似た感じの人はだれか。
沢口靖子が似ている。

どちらも美人である。
ただそれだけである。

9274ハーバリウム

美人だと思うのときれいだなと感じるのとはすこしちがう。
きれいと感じるときには好きだなという感情をともなっている。

「七人の侍」にでてた津島恵子さんがきれいだった。
だから、この映画をいくども見た。

ところが、ぼくのおじさんが木村功に似ていたから、
なんだか変な感じでおしりがむずがゆくなるのだ。


美人のとなり
中学生のころ、よく男同士集まると女生徒の品評会のようになった。
だれだれがかわいいとか、あの子が胸がでかいとか、スタイルがいいのはだれだとか。

やはり成績のいい子は評価が高かったが、美人にはかなわない。
それもちょっぴり不良っぽい子に人気があつまった。

そんな話の最中に女子が通りすぎるとき、うるさい男子たちも急におとなしくなるのがおかしかった。
なんだよ、わかりやすい奴らだなと胸のうちで思ったりした。
あのころが懐かしくもありまた微笑ましく思える。

N9475クレマチス

やがていろんなことを知っていくにつれ考え方も変わる。
ヒトだけではなく動物はメスとオスがある。
なぜなんだろうかと考える。

女と男といいかえてもおなじことだ。
雌雄のある生物の基本はメスだと知って納得することしきりであった。

個体発生は系統発生を繰り返すという。
これもメスあってのことだ。

そう考えたりしていると、つくづくオスは肩身がせまい。
ヒトは淘汰されると、美人に収斂するのか。




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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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