ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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尾道友愛山荘ものがたり(2)
 <第一話>タムちゃんと尾道 その二

 尾道友愛山荘への扉は、先生の「どこから来なさったのかねえ」の言葉で開かれる。
旅行者は穏やかな表情をした氏の風貌になぜか安堵を感じるのだ。
また、ときに厳しいその横顔に人生の求道者を観るのかもしれない。
それが多くの若者のこころを尾道へ、友愛山荘へとみちびくのだろう。
安穏だけの人生はつまらない、と若者は直覚している。
 この山荘の受付裏には四畳半くらいの小部屋がある。
夜になると、どこからともなく人が集まってくる。
誰いうことなく、ささやかな宴の準備がなされていく。贅沢なものはいらない。
残り物でもよいのだ。でもこれが美味い、と思うのが若者たちなのである。
夕食のサラダの残り、とんかつの余りもの、なんでもかまわないのである。
 狭い部屋ながら、いつも多くの若者をのみこんでいる。
押し入れもときとして観覧席になる。
眼下に繰り広げられる麻雀ゲームを観戦するためだ。
くっつきあって過ごす数時間が若者たちにはここちよい。
人は決してひとりでは生きられない。肌のぬくもりは、ひとにこころの安定をもたらす。
母親にだかれていたときの記憶がよみがえり、こころやすらかになれるのだ。
 だが、このような空気のなかででも孤独を感じるときはある。
タムちゃんはときおりタバコをふかしながら、そんな横顔をみせる。
黙して語らずではないが、静かに喧噪のなかに身を置きたいときもあるものだ。
つと眼があうと、彼は静かに微笑む。ぼくも微笑みを返す。彼はニヤッと笑う。
ぼくもつられて思わず笑いだしてしまう。
まわりの誰もがわけもなく笑いの渦にひきこまれてゆく。
この部屋はなんともいえない幸福感に満ちている。
にぎやかな笑い声とともに夜は更けてゆく。

 朝は知らずに明けている。どうも苦手であるからして、先生やヒロちゃんたちにまかせておこう。
でも朝飯だけは食っておくかとギリギリ計って起きるのだ。
朝食後の掃除のころになれば頭はすっきりとしている。
きょうもいちにち音楽のなか、元気でいこう。
 自由な時間は山を下りて町にでよう。
階段が続く山径は景色をながめるもよし、ワイワイガヤガヤとしゃべりつつゆくもよし、
はたまた、夢想に耽るのもいいだろう。
 川かとみまがうような尾道水道のむこうに、島々がうっすらともやのなか横たわっている。
高いところから下界を見渡すのは気分のいいものだ。
ひととき浮き世の憂さを忘れてしまう。
長い人生いろいろあるさ、と思う若さをぼくたちはもっている。
あっというまにアーケードの商店街だ。どこかでコーヒーでも飲もうか。
時間はまだたっぷりあるぞ。
 間口の狭いドアからほそながい廊下をくぐり抜けると、コーヒーの薫りただよう店内へ。
「トム」という名の落ち着いた店である。
先生のお気にいりの店だ。
 なんとはない話題のうちに、ここで写真を撮ろうということになった。
ちょっと気取って、グラビアに掲載できるような写真にしてくれよ。
みんなすまして、かっこうつけて椅子にもたれかかる。
ちょっと横顔が写る角度がいいだろうか。雑誌を手にしたほうが、しぶいかな。
がやがやと騒々しい。
 そんなだっただろう一枚の写真が残っている。
青春のもろさがうかがえる懐かしい写真だ。
でも、たしかにそうした時間を過ごしてきたのだ。

TOMにて
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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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