ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
08 | 2017/09 | 10
S M T W T F S
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

尾道友愛山荘ものがたり(4)
 <第一話>タムちゃんと尾道 その四

 タムちゃんはボンヤリと畳一畳はあろうかという窓から海を眺めていた。
考えごとをしているふうではなく、なにかを凝視している様子である。
ぼくたちには見えないなにものかを観ている。
まわりの騒ぎにはいっこう注意もむけずに、観ている。
ときおり、眼鏡の奥の眼がまばたきをするだけだ。
こちらに向きなおったときには、表情はいつもの人なつっこいものに変わっていた。
 美味そうにいかなごの煮つけを食べるタムちゃんは、とても幸せそうだ。
こちらまでが思わず微笑んでしまう表情をみせて、魚を食いビールを飲む。
ちょっと格好をつけて、おおげさな身振りで煙草をすう。ひょうきんな笑顔をみせる。
そんなにしゃべってはいないのに、おおいなる存在を感じさせる。
タムちゃんは全身で、俺は生きているのだと表現していた。
青春のまん真んなかを生きている。
陽光はまばゆいばかりに輝き、季節は初夏をむかえていた。
 土地のおじさんおばさんなぞと混じって飲んだり食べたり笑ったり怒ったり。
生きることに肩肘をはらないでいられる、そんな時間が楽しい。
 しかし、ぼくたちはここ尾道の生まれではない。一生この土地で生きるわけでもない。
旅人でしかないという思いが脳裏を去ることはない。
そんなぼくたちに、にっこりと微笑んでビールを注いでくれるおじさんがいる。
若いんだから、どんどんやれよ、しっかりしろよ、と声をかけてくれる。
だけど、どうすればいいかは、いっこうに分からないのだ。
最初の一歩が、なかなか踏みだせない。
どちらに足を踏みだせばいいんだろうか。
薄明かりが見える方角へ向かうしかないのだろう。
 歩いているうちになにかが見えてくる。閃くものがあるかもしれない。
じっとしていたって、何ほどのことはない。
湧いてくる力があるかぎり、先は見えなくとも歩き続けよう。
きっとすてきな人に出会える、そんな気もしてきた。

0007海岸沿い

 歩いていると、都会にはない潮のにおいがする。
海を近くに感じられると、なぜだかこころがやさしくなっていく。
平明な気分にもなれるから不思議なものだ。
都会でくらすとき、気がつくと速足になっていた。
先へ先へと急ぐような、誰かにせかされているような気がしたものだ。
変に時間感覚が鋭くなるというのだろうか。頭のなかでは、いつも急げ急げという声がする。
それでも、どこかにたどり着くということはなかった。
 いたるところから向島への渡船がでている。
通勤客や学生をいっぱい乗せて、なめらかに海をすべっていく。
人が大勢乗っていても、都会の満員電車とはどこかちがう。
聞こえてくるのは方言にいろどられた、なつかしいような声だ。
意味を聞いてはいない、メロディに抑揚に脳をゆだねるのだ。
一瞬のときにも、悠久の物語がつむがれてゆくようだ。

 いつしかアーケードは途切れ、しもた屋が並ぶ一角になる。
やや傾いた日射しの照りかえしで、じんわりと汗がにじんでくる。
「たこ焼きでも食べようよ。ここのは美味しいらしいよ」
「かたちが釣鐘型になっているらしいよ。おまけに、大きいし、安い」
「尾道名物というわけか」
「そうでもないだろうけど、知る人ぞ知るという訳ですね」
「たこ焼きと、ビールをください。で、みんないいね」
「一同、異議なし」
「ハッハッハ」
 国道脇の狭い店内で、関西のたこ焼きとは一味違うたこ焼きをほおばる。
汗をかきながらビールを飲み干し、またぼくたちの旅を人生を続けていくのだった。
スポンサーサイト

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
→http://moucheokuno.blog26.fc2.com/tb.php/1122-e6c1a1e1
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

ムッシュ

Author:ムッシュ
島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カレンダー

08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

カテゴリー