ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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尾道友愛山荘ものがたり(5)
 <第一話>タムちゃんと尾道 その五

 夕闇が迫り千光寺の中腹から望む。
向島のはるかかなたに、陽が沈んでいく。
雲のふちを黄金色に染めながら、広大な夕焼けがひろがっている。
小さなビルや市役所の建物が茜いろに映える。黒い影へと姿をかえた鳥たちが横ぎっていく。
西國寺の鐘がたそがれの町に降り積もる。
空の一角には、はやくもきらりと光る星がある。
夕景の尾道の町をながめているうちに静寂がみちてきていた。

 夏の夜には、宿泊のホステラーをよく誘ったものだ。
夕涼みをかねて千光寺境内へと散歩にでかけよう。
外灯の薄明かりのなかを、三々五々にかたまりながら階段をのぼる。
がやがやとにぎやかにしゃべりながら歩いていく。
 顔がはっきりとは見えない気安さからか、会話もくだけた調子になりがちだ。
どこから来たのか、明日はどこへ行くのか。
話し声が夜の千光寺公園にこぼれ落ちていく。
会話も途ぎれがちになるころには、千光寺の大岩にいきついている。
眼下には尾道の町がきらきらと輝きながら東西に長くのびる。
欄干にもたれ、ほほをかすめる風を感じる。
それぞれが思いのなかに埋もれていく時間だ。
 闇は人を不安にすることも、こころ落ちつかせることもある。
影のなかで静かに息をひそめていると、こころが解放される。
むかしのことが猛烈なスピードで脳裏をかけめぐりもする。
人生いいことばかりはない。にがい思い出ばかりでもない。
これからさき、いったいどこへ行けばいいのか。
 帰ろうかというころには、昼間の疲れのせいかみんな眠そうな顔だ。
おおきく背伸びをして帰り道へと向かうなか、闇の底から汽笛が聞こえてくる。
どこへむかう列車だろうか、思わずみんながふりかえる。
ひとときこころ残しつつ、旅人たちは今宵の宿へともどっていく。
 深夜になっても蝉は鳴くことをやめない。短い一生を知っているかのようだ。
若者たちに思いを伝えたいかのように、鳴きやむことはない。

 星空を見上げながら思いにふける。
「ねむの木の葉のように、ただ今は眠ろうよ、別れても離れても、夢ならば会えるもの」
小さく低く口ずさみつつ、思いをはるかかなたへと馳せれば胸があつくなる。
 夢のなかでのできごとは、すべて楽しいものばかりではない。
こころ落ちつかない感情に満たされ、不安をおぼえる暗示的な物語だったりもする。
不思議の感情をこころの底に残してゆくものもある。
明と暗の斜面を、果てしないシュプールを描きつついくこともある。
 夢のなかで楽しい思いをすることはあまりない。
しかし、夢には希望をかなえてくれるものがきっとあるはずだ。
なぜかしら、そんな気がすることはたしかなのだ。
 眠りは人になにをもたらしてくれるのだろうか。
念仏のように「極楽、極楽」といいつつ眠りにつく老婆を忘れられるはずもない。
眠りによってひらかれた扉の向こうへと敢然とすすんでゆくだけだ。

 尾道は文学の町といわれたりした。
林芙美子や志賀直哉がひとときこの地に住んでいたことがあるという。
千光寺山頂からくだる小径のそこここに、歌碑や句碑なぞが点在している。
町もこぢんまりと落ちついたたたずまいだ、といったところ。
市民が文学に深い造詣をいだいているから、という訳ではないらしい。
林芙美子はともかくも、志賀直哉なぞくだらん、と思う人もいるかもしれん。
何故、漱石や鴎外のゆかりの地ではないのか、と歯噛みしているかもしれない。
 山からすぐに海へと滑り落ちているような狭い土地にやたらと寺が多い。
これはこの地に住む人々が信仰深きゆえなのだろうか。
いろんな宗派の寺が乱立しているということは、宗教的寛容を町自体で示しているのか。
 都会は住む人にとって、喧噪渦巻くワンダーランドである。
潮の香にみちた尾道は、旅人に対峙する時空降り積むワンダーランドである。
旅人はいにしえへと迷いこみ、忘れかけていたものと出会う。

4884千光寺眺望
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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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