ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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尾道友愛山荘ものがたり(8)
 <第二話>花見の宴 その三

 おのおのの胸には先生手作りの名札がぶらさがっている。
 自己紹介がはじまった。
 あれは文ちゃんの憧れの君ではないのか。さすが、東京の女性はちがうなあ。
知的な容貌が文ちゃん好みなんだろうなあ、と思わせる。ああ、彼の運命やいかに。
緊張しているであろう文ちゃんの横顔がチラチラと見えかくれする。
へたな手だしはやめて静観することにした。
 仙台からやってきたという二人の女性は「仙ちゃん」と「台ちゃん」。
なんということはないのだが、どことなく綽名が本人と一致する。
うまいこと考えるなあと思っていたら、命名者は先生だった。

0037ここで花見

 その仙ちゃんがあるときこんなことを言った。
「世のなかには、どうして男と女がいるんでしょうね」
 別に、彼女は進化論の講義をうけたいと思ったわけではないだろう。
生物の多様性を確保するためのそれが最上の戦略である、とか云々はこの際関係がない。
男と女はどうつきあっていったらいいのか、ということだと思ったが、つとこんな言葉が口からでた。
「人が生きていくためには、愛が必要ということなんだろうね」
 自信などまったくなかったが、希望をこめて答えた。
「人を愛して結婚して、家庭をもって、こどもを産み育てる。
そんな人生はなんだか平凡で退屈な感じがするわね。それより熱烈な恋を生きてみたい。
なにものにも束縛されず、おのがこころの命ずるままに燃えてみたい。なんて、駄目かしら」
「外見的にものを見るとき、どうしても派手なもの華やかなものに目がいきがちになる。
ふつうといわれるものは価値が低く思えてしまう。当たり前の人生は価値がない。
そんなふうに考えるのは、たぶんものの見方が根本的にまちがっている」
 またしても、方向がずれてきた。
「どういうことかしら」
「ものの観方を外から内へと転ずることが必要だ、と思うんだ。
外界に振りまわされていると、物事の本質からどんどん離れていってしまう。
まずは、自分からはじめようというわけさ。われ思う故にわれ在り、ということかな」
 中途半端な哲学論議になってきたぞ。
「自分が見えてない者には、他人のこともわからないし、ましてや理解なぞできやしない。
そして、その基本となるものは愛だっていうわけなの」
 そうなのかなあ、よくわからんぞ。
「愛っていうと漠然とするけど、慈悲という方が日本人にはわかりやすいと思う。
すべての事物、事象に対するものなんだろうな」
 余計わかりにくいよ。
「なんとなくわかるけど、恋愛はどういうことになるのかしら」
 困ったな、こういうのは苦手だ。
「じつは、ぼくもよくわからんのだよ。個別性が強い現象なのだらうな」
「一般論では語れないということなの。ムッシュは女のひとを好きになった経験がないの」
 ついに恐れていた領域に踏みこんでしまった。
「これは、ぼくがもっとも恐れる質問だな。
ほんとうのところ、ぼくは自分でも女性を好きになったことがあるのかどうかよくわからんのだよ。
われを忘れてというのかな、女性をこころから愛したという経験はない、と思う。
いつも醒めているというか、冷静でなくちゃならんと思っているのかな。
すこしちがうな。たぶんそういう状況になると、いつも逃げ出したくなるのだろうな。
自己矛盾もはなはだしいけど、これが現実なんだな。ぼくも仙ちゃんのように大恋愛を賛美したい。
でも、無理だと思う。うまくいえないけど、恐いんだと思う」
 なんだか犯人がついに自白したという有様だな。
「でも、どんな女性にも魅力を感じない、ということはないんでしょ」
「そりゃあそうさ。好きになった女性はたくさんいるよ」
 これはほんとうだ。
「どんな感じがする女性が好きなの」
「そうだなあ。いま思いだしたけど、お母さんのような感じかな。そういう人っているよな」
 どんどん白状してるぞ。
「いるいる。なんか側にいるだけで安心するのよね」
「なんだか精神分析みたいになってきたけど、結局、ぼくはマザコンってことか」
「なんだか変な話になっちゃったわね」
 と言って仙ちゃんは笑っていた。
 ぼくは笑っていられる状態ではない。面目丸つぶれである。
でも、仙ちゃんはそんな素振りもみせずにいてくれた。
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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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