ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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尾道友愛山荘ものがたり(10)
 <第二話>花見の宴 その五

 ヒロミちゃんもクマちゃんを心配してやってきた。
「クマちゃん、だいじょうぶ。ムッシュにいじめられてない」
「だいじょうぶや。心配せんでもええ。しっかりと生きてはるわ」
「気持ち悪いわねえ。ムッシュがそんな関西弁をつかうときは要注意なんだから」
「そんなことおまへん。しんみりと人生の機微にふれるような話をしてたんや。
なあんにも、いじめたりしてへんで」
 おじさんも横から声をかけてくれた。
「みなさん仲がよくていいですね。私も青春時代にもどったようですよ。
なんでも遠慮せずに言いあえる友達ちゅうのは、ほんとうにいいものですよ。
面と向かって悪口が言えるようでないと、真の友とはいえませんからね」
 そうなんだ、ぼくたちは友に恵まれている。しかし、友を失ってからそのことに気づくことも多い。
「そうですね。ぼくらは仲がいいんでしょうね」
「そうですよ。人間落ち目になったら、潮が引くようにまわりに誰もいなくなったりしますからね。
私もそういう経験をなんどもしてるから、骨身に染みてわかります。
だから、いつまでもいい友達でいなさいよとついお節介のひとつも言いたくなってしまうんです」
 おじさん、どうもありがとう。
 でも、おじさんも分かっていると思うけど、分かっているからどうにかなるというものでもないんだ。
自分がそうできるか、そうするかは、もっとこころの深層に関係しているんだ。
ぼくたちはどう生きてきたか、これからどう生きたいかの問題だ。
きれいごとでは片づかないことなんだ。
無意識のなかにひろがっているいろんなことが源となっているんだろう。
思いだしたくないとか、忘れてしまいたいことが、誰でもあるんだ。
だからといって忘れてしまえるものでもない。そんなこともみんなうすうす知っているんだ。
結局、最後は対決しないと解決への道には到達できない。
その一歩をどう踏みだすか、そのことをいつも悩み続けるぼくたちなんだ。
 そんなことを考えていると、かたわらにタムちゃんがやってきてぼくを見た。
「ムッシュ、一杯やりましょう。素晴らしい花見になりましたね。天気もいいし、気分も最高」
 ぼくは、ただ黙って注がれる酒をうけた。
「そやな。忘れられへん花見になったな。
いや忘れるか知れへんけど、こころにはくっきり刻まれてるやろな」
 ちょこっと格好つけてしまった。
「そうですね。永久保存版の花見というのかな、あとで折につけ思いだすんでしょうね」
 ぼくやタムちゃんの記憶のなかで生き続け、今後いくども再生されることになるだろう。
「まあ、どうしたのムッシュ。やけに神妙な顔して。よからぬことを考えてるんじゃないの。
きょうはお花見だし、まあいいでしょう。はい、おひとついかが」
 めずらしくヒロミちゃんがすなおな感じでお酒を注いでくれた。
「こらどうも、すんまへんな。そやけど、そんなにやさしゅうされると、調子が狂うがな。
なんか魂胆があるんとちゃうやろな」
「なーんにもございません。これがわたしの本来の姿なの。他意はありませんので、ご安心ください」
 と、にっこり微笑んだ。余計に怖いがなと思ったが、口にだす勇気はなかった。
「わあ、なんかしんみりやってはる。ぼくも仲間にいれてほしい」
 コマ君はやってくるなり子犬のようにあいだに割りこんできた。
あとをおってサンペイ君もにぎやかに登場した。
「みなさーん、なんの話してるんですか。ムッシュもタムちゃんものんでますかー」
 サンペイ君もすこし酔っているのかな。でも、楽しそうでけっこうです。
「真面目な話だよ。ぼくたちは、いま青春の真っただなかにいる。
しかも強力な、これはちょっとわからんけど、まあとにかく絆をきずこうとしている。
こうした状況のなかで、ぼくたちはなにを指針として生きていけばいいのか。
はたまた、愛や恋は人生のなかでどのような位置づけをすればよいのか、ちゅうようなことかな」
「なにかわかりにくい言い方ですね。
人生なにがあるかわからんけど、これからも仲よくやりましょう、ということでいいんでしょうか」
 そう言われたら、そうであるとしか言えない。
「まあ、そういうこっちゃ」
「それではどうも、わたしらはこれで失礼します」
 おじさんは若者をうながして帰っていった。

2405空を飛ぶ

 ほろ酔い気分で公園のトイレへと歩いていると、薄桃色の桜の花びらがハラハラと落ちてくる。
陽は高くにあり、風は涼とした気分をはこんでくる。道端の石垣で蜥蜴がちらりと動いた。
ときは春で、生けるものすべてがいっときに活動をはじめる。なにもかもがキラキラと輝くようだ。
 歩くたびに下駄が地面をけって、カラコロと乾いた音をたてる。
すれ違う人は誰もが春を吸いこんで生き生きとしている。
ふだんはうるさいと思うスピーカからの音楽もきょうはBGM程度にしか感じない。
すこし酔ったかもしれないなと思いながらも頭のなかは不思議に清明だった。
 公園にでていたアイスクリーム屋は、自転車の荷台に筒を乗せた昔懐かしいものだった。
アイスクリームを歩きながら食べたら、子どものころの素朴な味がした。
過去をしきりに思いだすようになると、人間としては晩年にさしかかっている。
そのようなことをなにかで読んだか、聞いたかしたようだが、莫迦げた物言いだと思う。
懐かしいときにはおおいに懐かしさにひたればいいし、好きなだけ想いにふければいい。
泣きたいときには、誰はばかることなくこころから涙を流せばいいのだ。
要は、その後どうするかなのだ。人には、ときとしてカタルシスが必要だ。
 このようなことを、酔眼うつろに考えたりした。
いま、ほんとうにカタルシスが必要なのは、ぼくかもしれない。
おおきく深呼吸をして、みんながいるところへ近づいていった。
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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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