ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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尾道友愛山荘ものがたり(11)
 <第三話>夏の邂逅 その一

 ぼくは尾道友愛山荘でヘルパーをした。大学三年の夏だった。
ヘルパーとは、ユースホステルで住込みの手伝いをすることをいう。
無給が原則だが、帰るときに小遣いを貰ったり、往復の交通費だけが支給されたり。
アルバイトと同じように賃金が支払われたりと、実情はさまざまである。
大学一年の夏に北海道で45日間に渡る波乱万丈のヘルパーを経験している。
おおよその様子は分かっていた。だから、気楽に尾道にやってきた。
 男性の仕事は、受付、宿泊者の応対、夜のミーティングと称する集いの司会進行。
それに掃除、といったところが主たるものである。
 尾道友愛山荘では、加えてホステラー(宿泊者)の市内観光案内があったりする。
しかし、これはあくまでも、個人的な善意の行動(?)と見なされていた。

尾道駅ホーム

 夏は若者にとって、旅行に適したかっこうの季節だ。
そのわけは、着替えの衣類が少なくてすむということだ。
服装はTシャツに半ズボンでかまわない。着替えも、夜洗っておけば朝には乾いている。
だから荷物が少なくてすむ。これはとても大切なことだ。旅は身軽が一番なのである。
気温が高いから、眠るには場所さえあればいいということになる。
寒さから身を守るということを切実に考えなくていいから、とても気が楽だ。
そんな旅行をしている奴は極少数だ、と言われれば確かにそうだ。
しかし、その環境が若者を旅にでかけ易くしている、とは言えないだろうか。
いざとなれば、どこで眠ってもかまわない。とにかく、どこかに行きたい。
知らない土地を歩きたい。そう思える状況が夏にはある、とぼくは思うんだ。
 だから、夏はサイクリストの天国でもある。同様に、バイク野郎も多い。
風を切って走る快感は、経験してみないとわからない。
空気の諸相は、場所によって微妙にちがう。
においがちがうのはもちろんだが、湿気のぐあいで肌表面の感覚までもが変わってくる。
 早朝は、夕暮れどきとはちがって空気が湿っているので、自転車のスピードがでない気がする。
脚に湿気がからみついて重い。しかし、呼吸は楽だ。
しずかな朝の町を疾駆するとき、思わず笑みがこぼれてくる。頬をかすめる風の音がこころよい。
朝の元気なときには、どこまでも走ってゆけそうな気にさえなる。
どこへ向かうというのでもなく、ただひたすら走るなかにいつまでもいたい。
シャーという車輪の繰りだす音が、耳の奥深くで音楽となり、こころよい振動に変化する。
 むかし勤めていた会社に、湯浅さんという先輩がいて彼は自転車狂いだった。
話を聞いているうちに、ぼくも興味をもった。ひとりで、自力で旅することに魅力を感じた。
 その当時、「旅とサイクリスト」という月刊雑誌が関西ローカルで発行されていた。
定価は百円だったと思う。たしか阪神百貨店の自転車売り場にその雑誌はおかれていた。
梅田に会社があったので、ぼくは毎月発行日をまちかねて、いそいそと買いにはしった。
 湯浅先輩は柔道二段である。背は高くないが、身体はがっちりしておまけに毛深い。
でも、肉は嫌いだと言う。魚も鶏肉も、まず食べない。
いつもお昼は玉子丼と、うどんだった。好きな歌手は、島倉千代子だった。
何かの拍子に彼女の話題がでると、いつも耳を赤くしていた。
限りなく純情である。いまは、どうしているのだろう。懐かしく思いだす。
 タムちゃんも自転車野郎だった。北海道を自転車で一周したといっていた。
夏の北海道は、ぼくも行ったことがあるが、本州の暑さとは似ても似つかぬ夏である。
日中に気温が上がるが、湿度が低いので蒸し暑さがない。だから、爽快でさえある。
 そんななかを自転車に乗って疾駆する。思いきりペダルを踏む。
抜けよとばかりに漕ぎ抜くのだ。しばらく走って、ひと休みの瞬間に後をなにげなく振りかえってみる。
なんともいえない感慨にうたれる。ぼくはこんなにも遠くまで来ていたのか。
懐かしい町が、ずいぶんと遠くに感じられる。汗はすっかりひいている。
タムちゃんもきっとそんな思いにひたりつつ、自転車をこいでいたはずだ。
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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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