ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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尾道友愛山荘ものがたり(16)
 <第四話>夏の不思議 その一

 女性ヘルパーの仕事はといえば、食事の準備、掃除、洗濯といったものばかりだ。
表舞台にはほとんど登場しないといっていいくらい。
はたしてこれで楽しいのか、と男のぼくは思ったりもするが苦にしてる様子はない。
そんなことよりも、親元をはなれて若者たちのなかで暮らす。
家での束縛から離れて生活するということが、なんとなく楽しく感じるのだという。
 一日の仕事が終わると、だれといもなく受付裏の小部屋に集まってくる。
ささやかな小宴が始まる。なにを話すでもなく、お茶を飲んでお開きということも多い。
だが、それはそれで楽しいと思えるらしい。
若者たちは孤独なのかもしれない、なんて他人事のように思ったりもする。
 気ままに生きているようでも、こころのうちでは友を仲間を求めているのかもしれない。
ほんとうに心をわって話しあえるような友達がいない。
都会のまんなかで孤独をいだいて生きている。
信頼することを知らないから、人と話すときにはまず警戒心が先にたってしまう。
 一方通行の友情など成立するはずもないことはよくわかっている。
だが、自分に自信がないゆえに心をひらくことがどうしてもできない。
いったい自分のなにを失うことを、そんなに恐れているのだろうか。
失うものなどなにもないだろう、とぼくには思えるのだけれど…。
 日常の生活空間ではそんなようすなのだが、旅先では気もちもガラリと変わる。
ちょうど、ふだんはあまり食べない子どもがキャンプなどに行くと、驚くほどの食欲をみせたりする。
そうしたこととおなじように、環境の変化がおおいなる作用を及ぼすのだ。
 だから話すだけでなく、そばにいて人の話すのを聞いているだけでも心安らぐ。
ゆったりとした気分になれれば、警戒心も不思議にうすれてゆく。
かたい表情は人を寄せつけないが、やわらかな優しさにみちた顔は人を引きつける。
なにげない会話であれ、はじまればそこに新たな世界がひろがってゆく。
新たな世界は、また新たな思考を生みだしてもくれるのである。
 どうしてこれまでの私はあんなにかたくなだったのだろう、と気づいたりもする。
私をこんな気持ちにさせるのは、夏という季節が内包する不思議なのだろうか。

2485坂の町尾道

 夕食が終わったあとのひとときは、瀬戸の夕なぎとよばれる風のない時間にかわる。
むしむしとした空気が肌にまとわりつくようで、どうも落ち着かない。
なにといってすることもない連中は受付前のホールに集まってくる。
漫画雑誌や旅の情報誌を読むものがいる。
古いアルバムに見入っている女性グループが、写真を指さしながらなにやらひそひそと話をしている。
コカコーラの自動販売機は取りだし口にゴトンと落ちるビンの音をときおりホールに響かせる。
こうした夜ごとの光景を、ぼくはなにげなく見つめていた。
煙草をくわえ火をつけるのも忘れて、ぼんやりとしていた。
 ゼミのレポートがちっともすすまへんなあ。
ローレンツの英語の論文を訳し、それに対する意見をまとめる作業が半分にも達してないぞ。
こんなに暑かったら、やる気もせんわなあ。
夏に勉強するっていうのは、生理的に無理とちゃうやろか。
それとも、これも自分に対する言い訳でしかないのんか。
冷えたビールでも飲みたいなあ、なんてまとまらない思いのなかで座っていた。

「ムッシュ、時間になりましたよ」
文ちゃんが耳もとでささやく。
さあ、そろそろはじめるか。
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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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