ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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尾道友愛山荘ものがたり(27)
 <第六話>夏の時間 その二

「そういうことやな。女性にしろなんにしろ大いに興味をもってくださいよ。
それにやで、人間好奇心をなくしてしもうたら、生きてることの意味なんてないよ。
好奇心は生きる意欲とも言い換えられるからな」
「そうですよね。決して悪いことじゃありませんものね。
なんだか、元気がわいてきましたわ。いろんなことにチャレンジするのが一番ですよね」
「そうそう。なにごともやってみなくては、ほんとうのところは分からない。
経験を積むことによって分かってくることもある。人生とは、経験の集積でもある。
なんてね。どんどんと、いろんなことに挑戦していきましょう」
「なんだか調子よさそうですね、ムッシュは。でも、ぼくはなんだか淋しいな」
「サンペイくん、またふられたのか」
「失礼な、そんなことじゃないですよ。それに、またとはどういうことなんですか」
「そう怒るなよ、冗談やがな。サンペイくんは真面目やから困るわ」
「そんなこと言われたら、だれでも怒りますよ。ただでさえ、傷つきやすい男なんですから」
「そうやったな、勘弁してや」
 それをかたわらで黙って聞いていたメグは、クスッと笑った。
「ムッシュさんとサンペイさんて、仲がいいですね」
 二人同時に、
「そんなことないで」「そんなことないよ」
 顔を見合わせて、たがいに苦笑い。
「うーん、仲がいいのかもしれんな。というよりは、腐れ縁で結ばれているのかもしれん。
あるいは、陰陽の相をなしている。プラスとマイナスで引きあう関係ということなのかな」
「もちろん、ぼくがプラスですね」
「まあ、サンペイくんがそれでいいなら、ぼくは一向にかまへんけどな。
そやけど、もしもプラスが優秀やとかなんとかと思っとったら、えらい間違いかも知れへんで。
それはやな、つまりこういうことなんや」
 サンペイは嫌そうな顔をしていたが、かまわずに続けた。
「これは、座標系というものを考案した数学からきてるのやな。
二次元で原点を中心にして、右及び上をプラスとする。
その反対として左及び下をマイナスとする。ただ、それだけのことや。
学校で習ったやろ。たぶん、忘れてるかもしれんけどもな。
別に、いいとか悪いとかの価値観みたいなもんは、本来関係ないんや。
でも、人ってのは不思議なもので、それでは実感しにくいんやな。
そやから、プラスは正、つまり正しく良い、マイナスは負であり悪い、ということになった。
とぼくは考察してるんやけど、サンペイくんはどう思う」
「どうでもいいです。ムッシュの理屈はおしまいです。それより、そろそろ出発しませんか」

 だれひとり脱落することなしに、ぼくたちはそぞろ西國寺へと歩きはじめた。
夏の日ざしはアスファルトの道路にはねかえって、ぼくたちを熱くした。
まぶしさに眼をほそめて見つめれば、ゆらゆらと陽炎が立ちのぼる。
ゆらめく光景に、なにかはかなさを感じながら、ぼくはまっすぐに歩いていった。
 西國寺の仁王像の前に、長さ2メートルを越える大わらじが吊るされている。
仁王さんは前を通る人を上から睨みつけるような姿勢で立っている。
下から見あげれば、なんともいえずユーモラスにも思える仁王像である。
「仁王さんて、なんかしらユーモラスな顔してると思わへんか。
小さいときから、怖いちゅう感じがしたことないんやけどな。なんでかな」
 文ちゃんは汗をふきつつ、問う。
「そうかな、ぼくは全然ちがうな。そうですね、こんな情景を思いうかべますよ。
小学校の職員室前の廊下を、先生に見つからないようにそうっと通り抜ける。
いつ男の先生に、こらっ、と怒鳴られるんじゃないかと、びくびくしながらです。
スリルに緊張しながらね、そんな雰囲気じゃないの」
 メグも見あげながら言った。
「受ける印象って、人によって随分とちがうものなんですね。
わたしは、なんだか心のなかを見透かされそうで怖いです。
それこそ、あの大きな手でぎゅっと心臓をつかまえられそうで、不安ですね」
 サンペイはまぶしそうに手をかざして。
「ぼくは親父のイメージかな。ぼくの父親というのじゃないんですよ。一般論として、です。
いつもは話しもしないけど、なにか存在感が安心をあたえてくれる。
たとえば、子どもがなにかで不安を覚えたとき、不意にうしろを振りかえって見る。
すると、かならずそこにいて微笑んでくれている、そんな存在というのかな。
たいていはそれがお母さんということなんだろうけど、ぼくは親父だな。
外見は恐いようだけど、同時にすべてを包みこんでくれるようなおおきさも感じる」
 ぼくは思わず引きこまれた。
「サンペイくん、なかなか奥行きのあることを言うやないか。
そうやな、人が生きていくうえでは、なにかそういうものが必要や」
 仁王門がおとす日陰のなかから境内をながめ、まばゆさに眼をしばたかせた。

F0060仁王門
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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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