ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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尾道友愛山荘ものがたり(29)
 <第六話>夏の時間 その四

「ムッシュ、どうかしたの。気分でも悪いの、深刻そうな顔して」
 メグはやさしく心配そうな顔をむけた。
「いや、そうじゃないんや。タムちゃんのことを考えてたんや。どうしてるかなって」
「タムちゃんって?」
「タムちゃんというのはね、ぼくらが尾道で知りあった自転車野郎なんだよ。
あご髭生やしてね、ちょっと見た目はおっかなそうだけど、とっても楽しい人なんだよね」
 とサンペイが話してくれる。
「いまごろ、北海道の原野でも自転車で走ってるんじゃない。
ときとして、クマに追っかけられたり、追っかけたりしながら、ね。
そういう姿が、いかにもタムちゃんらしいんじゃない。きっと、今ごろくしゃみしてるよ」
 と文ちゃんが笑いながら言う。
「タムちゃんがこんなこと言ってたなあ、って思い起こしてたんや」
「どんなことなんですか」
 なぜだか、みんなは空を見上げていうのだった。
「どう言うたらええのかなあ。うまく伝えられるか、わからんのやけどなあ。
ひとりで旅なんかしてると、突然急に切なくなるときがあるんです、いうんや。
それはあるわな、なんでか分からんけどな、って答えたら、こう聞くんやな。
これってどういうことなんだろうな、そんなときどうしたらいいんだろうなって」
「わたしも、それに似たようなことを、ふっと感じることがあるわ。
友だちと二人で旅行してても、ありますよ。それで、ムッシュはどう答えたんですか?」
「タムちゃんの質問の答えにはなってないけどな、というて、ぼくはこんな話をしたんや。
ひとり旅なんかしてたら、野宿やキャンプなんかすることがあるやろ。
そんなときに、おおげさにいうたら、人生観が変わるような経験したことないか。
夜なんか、まわり見ても誰もおれへんし、疲れてるし寝ようかなあと…。
けど、ふと空を見上げたら満点の星で、思わず引きこまれるようにじっと見てしまっている。
見続けながら暗いところに佇んでいると、宇宙を感じることがあるやろ。
おおいなる自然というのか、人間には計りしれん存在みたいなものなんかなあ。
淋しいとか、つらいとか、苦しいとか、それに楽しいなんてこともすっぱり忘れてる。
ただそれはもう、ひたすらというのも変やけど、見つめ続けているんやなあ。
自分が、空間というか全宇宙というか、それと一体になってしまってるのかな。
ものの境界というものがなくなっている。意識することも全然ない。
まさに無の境地、というと禅みたいやけど、それに似たようなことなんかな。
そしたら、自分は何なんやと思って、おのれのちっぽけさ加減を思い知るんや。
また、そんな世界がすごいなあ、とわれを忘れて思ったりもするんやけどな。
なんや日々の悩みや迷いが莫迦莫迦しく思えてきた、ってことなかったか。
って言うたら…」
「って言うたら、タムちゃんどうした?」
「タムちゃんなあ、こんなようなこと言うてたわ。
そうですよね、人間なんてちっぽけなものですよね。その小さなものが、悩んでどうする。
しかも、自分ひとりの些細な悩み。でも、その煩悩からどうしても抜け出せないんです。
だからですかね、気がついたら知らない土地をひとり自転車漕いでるんですよね。
人のしがらみのなかでは、もうどうしても息苦しくて生きていけない、そう思って旅にでる。
でも、いつしか人恋しくてたまらない気持ちになってる自分に気づくんです。
淋しい奴ですね、俺って。どうすればいいかなんて、わからないっす」

4046山門

 わからない、考えても考えても同じところを堂々巡りして、抜けだせない。
おもわず大きな声で叫びたくなるような夜を、なんども経験した。
いろんな本を読んだ。
禅、精神分析、心理学、文化人類学、哲学、答えは書かれていない。
答えのように書いてあるものもあるが、それは答えではない、と直感できた。
そんなお為ごかしに惑わされることはなかったが、虚しさと焦りがつのった。
答えを見つける道程が人生であり、それが生きることだという。
そんなことができれば、悩むかよ!
そんなの答えにもなにもなっていないじゃないか。
莫迦莫迦しい、あほくさくて話にならん。
なにを寝ぼけたこと言ってるんだ。
そう吐き捨てても、魔法のように事態が変わることはない。
自ら歩み出さずしてなにが成るのか。
そんな自分の青臭さが恥ずかしかった。
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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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