ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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尾道友愛山荘ものがたり(30)
 <第六話>夏の時間 その五

「旅なんかしてると、つと眼があった、それだけで話しかけていたりするときがありますね。
なんとはなしにおたがいに近づいて、挨拶して話し始めてる奴がいたりするんですよね。
食い物についての情報交換がやっぱり多いです。どこの食堂のめしが多いだとかね。
うまいよりは、量の問題にどうしてもなりますよ。だって、いつも腹減らしてますから。
そんな話が気持ちをほぐしてくれるんですね。むきになって、ひいきの食堂自慢とか。
だけど、そんな話のなかで、たまにポロリと本音がこぼれてきたりしてね。
こっちも、ついついそれに乗せられて自分のことを話しこんだりすることもありますよね。
どうってこともない失恋話や、そこまでもいかない淡いだけの話だったりするんだけど。
それまではうさんくさい奴だなあ、なんて思っていたのが、変によく見えたりしてくる。
仲間意識なんてものじゃないですよ。そこまではいかないけど、いい奴かな、とちらっと。
そう思ってると、相手も同じようなことを考えてるのがわかったりして、思わず笑ってしまう。
なんだよ、おまえ、なんて急に友だちみたいなしゃべり方になっていくんですよね。
いっしょに旅をするなんてこともほとんどなくて、『じゃあ』なんて、別れてしまうんですけど。
なんだかほかほかした気持ちになっているんですね。でもね、別れたあとが要注意ですよ。
急に淋しくなってきて、思わず彼の行った方向をながめて、追いかけようかなんて思います。
追いかけていくことはないんですけど。追いついてもどう言えばいいかわからないですよね。
きっとおたがい顔見合わせて、気まずい思いするだけだし、弱い奴だと思われたくないし。
えーい、とまた自転車漕ぎだすんです。莫迦みたいかな、こんな俺って」
 ぼくは黙って、にっこりした。
「女の子と知りあうことって、ほんとないですよね。えっ、知りあいたいかって、もちろんです。
当たり前じゃないですか。ほんと、俺って一直線ですからね、それがいけないのかな。
自転車漕いでて、女の子もないもんですよね。だから、ときどきユースに泊まるんです。
風呂と洗濯が主な目的ですけど、もしかしたらかわいい女の子なんかいないかな、って。
ほんと、いないんですよね。たまに見かけても、二人連れだったりすると駄目ですね。
話しかけても、なんだかおっかながってるふうで、俺ってこんなふうだから、ですね。
あ~あ、なんて思ってるときに声をかけてくる子がいたりするから、おかしなものですね。
だいたいが垢抜けない娘っ子でね、化粧っ気もなくって言葉もすこし訛ってるんです。
でも、話を聞いて、じっと観察してるとこれがあんがいいい子でね。ほっとしますね。
日本も捨てたものじゃないって。ちょっと、大袈裟ですね。アッハッハッハ。
いい感じで話もはずんで、そうするときれいに見えてくるんですよ。不思議なんですけど。
すると、やっぱりなって感じでかならず、必ずです。これは断言できます。
横合いから、男がでてくるんですよ。おもしろそうな話してますねって感じで、さりげなく。
いつのまにか三人になっているんです。こいつがたいがいにやけた奴でね。
僻目ですかね、やっぱり。しかたないですよね、そう思ったって。
俺が一所懸命下地をつくって、さてこれからだというときにでてくるんだもの。参るよね。
いつしか俺は聞き役、ふたりの調整役になってんだもの、がっかりしますよ」
 ぼくは眉をおおきく上げてみせた。
「つぎの朝、俺が自転車の調整してると、ふたりがでてきてね、なんだか仲良さそうに。
じゃあまた、なんて男が格好つけて挨拶して去っていくんですよ。
俺が、下を向いて自転車をいじっていると、女の子が小走りでもどってきて、そっと言うんです。
昨日はほんとうにありがとうございました。気をつけてご旅行してくださいね、なんて。
俺もついほろりとして、ふたりの後ろ姿に頑張れよって、こころにも全然ないこと言っちゃって。
頭にきますよね、正直いって。もういつまでも、力をこめて自転車磨いてました」
 なんだかやり場のない力を、持てあまし気味の若いぼくたちだった。

4011尾道水道

 タヒチの女を描いた絵に書かれている、ゴーギャンの言葉がうかんでくる。

 人はどこから来たのか
 人とは何か
 人はどこへ行くのか

 宇宙のなかでは一瞬でしかないぼくたちの生を、どうこれから生きていこうか。
いつしか傾いてきた夏の陽の落とす長い影をじっと見つめているぼくたちに、風が吹いてきた。
メルクマールはまだどこにも、ぼんやりとした輪郭さえも見せてはいなかった。
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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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