ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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はるかなる夏の日 第一夜
いつもながらに机の前にすわり、ぐだぐだとしていると電話が鳴った。
思わず外を見たら、もう夕暮れどきをすぎて空は暗くなりはじめていた。
受話器をとった耳に聞こえてきたのは頼りなげな声だった。

「もしもし、あのう…」
「はい、お待たせしました」
「ムッシュウ?」
「そうですが、失礼ですがどなたでしょうか」
「わたし…、わからない?」
「ああなんだマイコか、どうした?」
「いまねえ、三ノ宮駅にいるの」
「三ノ宮駅って、神戸のか?」
「そうよ、阪急電車の国鉄と連絡してるあたり、かなあ」
「わかった、すぐ行くからそこで待ってて、動いちゃだめだよ」
「うん、わかった」

あれえどうしたんだろう。
あいつ、たしか東京じゃなかったか。
なんにも言ってなかったけど、今夜泊まるところあるのかなあ。
もう夜だし、おれん家は泊まれるようなところじゃないしなあ。
どうしようかなあ、そうだミキコのところに泊めてもらえるよう頼んでみよう。
お姉さんとふたり暮らしだといってたから、なんとかなりそうだし。
とりあえず電話だけはしておかないとな。

「もしもし、ミキコさんのお宅ですか。わたし…」
「あら、ムッシュどうしたの」
「いやあ、いまマイコから電話があって三宮にいるって」
「えっ、どうしたんだろう、家出?」
「まさか、そんな歳でもないだろう、とにかくいまから行ってくる」
「それでどうするの?」
「もしもの場合、今夜泊めてやってもらえないかと思って電話したんだけど」
「う~んいいわよ、姉さんにも話して準備しておく」
「悪いなあ、また電話するよ」
「ううん、気にしないで。それより変なこと考えなかった?」
「変なことって?」
「またあ、とぼけて、いやらしい!」
「ないない、そういう考えはないって」
「まあ、いいけど、かならず電話してね」
「わかってるって、じゃあな」

電車に乗ってから、すこし考えた。
どうしたんだろう、急にこっちのほうに来てるって電話をよこしたりして。
どんな家庭かは知らないけど、弟がいるっていってたかなあ。

マイコは高校を卒業して大企業に勤めていたって。
どんな仕事っていったら、キーパンチャー、ていのいい単純労働者よ。
ふーん、花のOLってことやな。
花だけじゃありません、仕事もばりばりできました。
キーボードなんてブラインドタッチよ。
ブラインドタッチねえ、そんな感じがするわと言ったら。
でもねえ、仕事いやになっちゃったのよ。
どうして、嫌なやつとかいたからか。
あんた(そのころはそう言われてた)馬鹿じゃないの。
そんな単純な理由じゃありません、あんたに言ってもわからないだろうし。
でもね、人間はことばをコミュニケーションツールとしているわけで、言わないと伝わりませんよ。
そうですか、じゃあいうけど、人生に無常を感じたわけよね。
ほほう、祇園精舎の鐘の声が聞こえてきたんやな。
そうなのよ、人生やりたいことやらなきゃ、でもわたしってなにがしたいのって。

というようなことで仕事を辞めて、旅行しているんだって。
大企業だから辞めた後でもボーナスでるんだよ、って言ってたな。
ボーナスというのはね、過去の実績に対してだからその時期在籍してたらでるのよ。
そりゃあ理屈ではそうだろうけど…。
たいていはボーナスもらってから辞めるんだけどなあ、なんて思ったことを思いだした。

それ以外はおれも聞かないし、マイコも自分から話そうとはしなかった。
手伝いをしたいって申し出てやってたらしいけど、けっこうきっちりしてた。
都会育ちだからか、とそんなセンスを感じてしまうのはおれの思いこみだったのだろうか。
でもきれい好きで整頓上手だったから、おれもまあ好感をもったわけよ。
いままでごちゃついてた台所が、彼女がいついてからすっかり片づいてたもの。
まあ、マイコがいなくなったら元の黙阿弥になったけどね。
人の影響というのは気づかないところでけっこうあるんだ、と再認識した。
おおげさにいうと、気質は外部に投影されるんだとね。
見た目ってのは、大切なんだというかやはり実体を表わさざるをえないのだろう。

いまはそうは思わないけど、はじめてマイコを見たとき、美人だとの直感があった。
なんでだろうとはときどき考えるんだけど、わからないなあ。
よーく顔を見ることがある、もちろんこっそりだけど、気づいているのかな。
別にととのった顔というのじゃなし、眼鼻立ちがすっきりしてるでもなく。
だけどなんというのかな、妙に気になるというか、もういちどみたくなる顔なんだな。
スタイルだっていいというのじゃないし、どちらかというとやせっぽっちだ。
でもあるとき、これだって出るべきところはでてるんですよ~って。
見た事ねえよっていったら、だれがあんたなんかに見せてやるもんですか、と言いやがる。
見たかねえよおまえのからだなんか、というと。
やにわに近づいてきたかと思うと、これみよがしに微笑んでもみせるから困った。
どうしていいか返答につまって黙っていると、ちいさな声で言うんだなこれが。
「ばーか」
むかっ腹のたつといったらなかったな。
あれー、そんなこと思いだしてむかついてきた。
でもなんというか、憎めないところがあるからしょうがないや。

そういえば、あるときマイコってジャンヌ・エビュテルヌに似てるよなと言った。
それって、以前とあるおじさまにも言われたことがあるわよ。
男のひとっておなじこと言うのね、なんだかワンパターよねって笑っていた。
とあるおじさまってだれなんだ、とは訊かなかったけれど、そういう境遇で生きてきたんだと。
またそれが自然でもあるから、ますますどういう女性なのかわからなくなった。
おれってモディリアニの亡くなった日が誕生日なんだぜ、と言おうかとも思ったが。
あんたは長生きするわよねという感じで、聞こえなかったかのような顔をされそうだし。
言わなきゃよかったとなっても、あとの祭りだからやめておくことにした。
それでも、すこし山口百恵に似てるとこあるよなあ、とつい口走ってしまった。
ふーん、そんなことばで歓心が買えるとでも思ってるのかしら。
なんだかお子さまですわねえ、という顔でにっこりするから面食らった。
一筋縄ではいかない雰囲気があるから、あまり近づかないようにしていたんだ。
すると通りすがりに耳元で、わたしのこと嫌いなの哀しいなあ、なんてこといったりする。
まったくもって、捉えどころのないというか変幻自在というか謎の女性というか。

N4851三ノ宮駅

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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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