ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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はるかなる夏の日 第三夜
駅近くのときたま行く居酒屋どこの町にでもあるような店へむかう。
入口ちかくでおでんの番もしているおばちゃんがうれしそうな顔をしていらっしゃいという。
マイコも神妙に頭をさげるから、ますますおばちゃんは相好をくずす。
すぐそばのカウンターに並んですわってビールを注文する。
ついでに、おばちゃんにおでんの盛り合わせもたのんで、ほっとひといきである。

N4858居酒屋

「ここのおでんおいしいんやで。東京とはちょっと味付けがちがうけどな」
「わあ、この娘さん東京から来はったんかあ」
「娘ちゅうほど若こうはないけどね」
「まあ、なんちゅうこと言うねん、失礼な男やなあ。ごめんね、おばちゃんからも謝るわ」
「いえいいんですよ、慣れてますから」
「そうかあ、でもうれしいわあ、こんなきれいな娘さんが来はって。
いっつもお客さんいうたらおっさんというか男のひとばっかしやろ。なんかむさくるしいしね。
やっぱり若い人はいいわね。ゆっくりしてってちょだいね」
「ありがとうございます」
「うわあどないしょ、お礼なんか言われて」

さてビールで乾杯だ。はい、お疲れさま。
やってきたおでんを見ておどろいた。山盛りになっているではないか。

「えーっ、おばちゃんなんかおでん多くないかあ」
「いいのよ、サービス、サービス、ほっほっほ」
「うわあ、おいしそうね」
「そうよ、おいしいわよ、おかわりもできるわよ」
「そういうシステムなん?」
「彼女だけ特別大サービスなの」

なんだかおばさんにこにこして、すごく機嫌がいいみたい。
となりで調理をしているおじさんも、にっこりしておれに向かって頭をさげた。
おれも思わず頭をさげてどうもってな感じで、なんだか調子が狂う。

「おいしい、このおでん。あー、ビールもひさしぶり」
「そうかあ、よかった。こんな汚い店でも気にいってくれて」
「ちょっとお兄ちゃん、聞こえてますよ、ふっふっふ」
「すんません、庶民的な店ということがいいたかったんです」
「わかってますって。彼女なの?」
「ちゃうちゃう、ただのともだち」
「そうなん、きれいな娘さんやのになあ。どんくさいんかあ?」
「どんくさい?」
「鈍い、のろまとかいう意味や」
「そうかも、ムッシュどんくさいわあ」
「そう面と向かっていわれてもなあ」

「ところで、今日はどうした?」
「うん、なんとなくムッシュの顔が見たくなってね」
「うそつけ、素直に白状せんかいな」
「ほんとうはね、ちょっと家でいろいろあって旅行にでたの。
紀伊半島を旅してた。なぜ紀伊半島なんだろう、自分でもわからないけど」
「そうかあ、おれもサイクリングで一周したことあるよ。
二十歳のころだったかなあ。和歌山から伊勢まで一週間走ったな。
出会いもあったし、なんだか懐かしいなあ」
「出会いって、どんな」
「それがなあ、潮岬の灯台で、越前大野からきてた女性ふたりづれに会った」
「ふーん」
「そのうちのひとりがすごい美人でさ、おれよりだいぶ年上だったけど。
なんだか失恋したんだって、それで旅行してみようと思ったなんていってた。
いっしょに灯台にのぼったり、時間が迫ってきててバス停まで走ったりしたな。
まだバスはきてなくて、はあはあ言いながら、お互いの顔みて笑った。
そしたら、こんなに笑ったのってひさしぶり、ありがとう、なんて言われたな。
いまもそのときの白黒写真があるで、なんだか時代やなあ」
「ふーん、女のひとって失恋すると髪切ったり、旅行にでて区切りをつけようとするというわね」
「もしかしてマイコ、失恋した?」
「そんなわけないじゃない、わたしは失恋させるほう専門だから」
「ということは、恋愛のエキスパートちゅうことですか」
「でもないけど、好きになった人はいたわね」
「過去形か、やっぱりふられたんか」
「ふられたりしないわよ、わたしはそういう状況には決して入りこまないから」
「意味がわからんけど、可哀そうにな」
「あのねえ、なんだかむかつく。どんくさいムッシュに言われたくないわね」
「そうどんくさい、どんくさいっていわんでも」
「あー、わたしが馬鹿だった」
「なんかおれ悪いこと言った?」
「今現在、存在自体がむかつく!」
「理不尽だあ」
「問答無用なの。わたしだってよくわかってないかも」
「だれかが言ってたなあ、マイコは魔性の女なんだって」
「それってなんか聞いたことあるけど、末梢の女って言ってるのかと思ってた」
「おれにいわせれば、そういう表現じゃあらわされへんけどなあ」
「どうなのよ、どんな女なのよ」
「まず、強がり」
「なんですって」
「そういうところ、それから少女趣味」
「それはあるかも」
「それもふつうのじゃなくて」
「なくて?」
「高級少女趣味って感じ」
「よくわかんないけど、悪くはないわね」
「それと、男好きがするらしいって噂をよくきいた」
「ふむふむ、それから」
「案外几帳面で、おしとやかそうだけど強情っぱり」
「よく言うわよね」
「なんだかしらないけど本は読んでるらしくて、専門的術語をつかいたがる。
というか、それで相手の反応をみて品定めをする習性をもつ動物、あたりでどうでしょう」
「ほおー、自己分析はしないの」
「えっ、それは苦手だな」
「どうしてよ、心理学専攻なんでしょ」
「いやあ、モットーが『他人(ひと)に厳しく、自分に甘く』だからなあ」
「じゃあ、わたしがお返しにしてあげる」
「拝聴しましょう」
「まずね、ハンサムボーイ…」
「おっ、いいねえ」
「あわてる乞食はもらいが少ないってね。黙ってお聞きなさい」
「はい、わかりました」
「に、一見みえるが中途半端なのよねえ、これが。まあ7.5ぐらいかな。
それにボーイっていってるでしょ。意味わかってんの」
「そうかあ、なんとなくは」
「性格はというと、単純、無神経、冷血漢」
「……」
「さらに加えて、女にだらしがないというか甘い。すぐ、騙されんじゃないの」
「そんなことないけど」
「そう、女の涙に弱そうだけど」
「そういう面はあるかも」
「自分に自信がないから、やたら難しい単語をつかって誤魔化そうとする。
つまり外部の権威に頼ろうとする傾向があるわけよね、ちがう?」
「そうかも知れません…」
「いいところもあるのよ」
「ありがとうございます。なんだか、ちょっと酔ってるんちゃうか」
「なにかいいたいことあるの?」
「いえ、特には…」
「ええーっと、ちょっと思いだせないわねえ」
「そんなあ」
「冗談よ。いちばんのいいところは、指がすっきりきれいよね。そんなとこかな」
「はあ…」

まあ、これだけしゃべれるんだったらだいじょうぶかな。
と思っていたら、急に声をひそめて話しだしたから、ぎょっとしたことも事実だ。

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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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