ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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尾道友愛山荘ものがたり(40)
 <第八話>風神雷神 その五

「まあすこし飲んだらどう、どんな感じがするんでしょうか」
「あったまる、てえ感じですね」
「ひさしぶりだわ、お酒飲むなんて」
「たまにはいいもんですね、こころの緊張がとけていきますから」
「いつも飲んでるじゃないですかあ」
「そうよねえ、ムッシュってアルコール中毒じゃないの」
「そうかもしれないなあ、悲しいさがなんや。
どこかのだれかみたいに恋愛中毒じゃなくて、まあこれはこれでさいわいでした」
「もお喧嘩しないの、お話聞こう」

 すこし飲んで、からだのなかから温かくなって、それから話をしようか。
たいした話じゃないけど、この世のなかにはいろんなことが起こっているのである。
それを大変なことと思うのか、わたしには関係がないと考えるのか。
じつはすべてのことがらがたがいになんらかの関係をもっているのである。
関係という集合は、無関係を含んでいるのだからといってはいけないのだろうか。
それはアプリオリに与えられたものだ、と強弁してもいいだろう。
そのすこし関係のあるかもしれない話をはじめてみよう。

「その友人が、もちろん男なんだが、こんなふうに人って変わっていくんだなあって。
大学の休みのときに、ふらっと旅に出たくなって適当に着替えなどザックに詰めて家をでた。
季節は夏だったし、足りないものがあれば旅先で調達すればいいやっていう気楽な気分だったとか。
どこへ行くか、それも決めてなくてとりあえず駅まで行ったんだって。
しばらく構内のポスター旅行会社のパンフレットなんか見ていたら、あることに気づいたんだという。
母方のお祖母ちゃんがたしか九州出身だと言っていたなあ、じゃあ九州にしようかと。
九州のどこだかはそのときは思いだせなかったけど、均一周遊券をもって夜行の急行列車に飛び乗った。
車内はガラガラでゆっくり眠れそうだと思ったらしい。
駅で買ったウィスキーの小瓶をちびりちびり飲んでいるうちに眠ってしまった。
夢を見たんだって、そのお祖母ちゃんのでてくる夢を。
そのころはすでにお祖母ちゃんは亡くなっていて、なんだか懐かしかったらしい。
夢のなかでふるさとは何処だったかお祖母ちゃんに聞いたが、答えてはくれなかった。
でもそんなに気にならなかったし、そのうち思いだすだろうと考えたんだという。
海の見える景色がひろがっているところにいつかぽつんと立っていた。
するとなんだか知らないが哀しい気分になってきた。
そこでいちど目がさめたが、またいつのまにか眠ってしまっていた。
つぎに気がついたら朝になっていて、外をみるとどうやらすでに列車は九州を走っているようだった。

 つぎにとまる大きな駅で降りようと決めた。
そこは大分駅で、降りてすこし歩くとお城があったのでしばらく休んでまた駅にもどった。
ここからは豊肥線に乗り換えて、名前を知っている豊後竹田までいった。
ユースホステルに電話したら、泊まれるっていうのでひと安心した。
岡城址までいくと、夕暮れを背景にしてたくさんのカラスが木にとまりシルエット状にうかんでいた。
とくに怖いとは感じなかったから、しばらくカラスの鳴き声に耳をかたむけていた。
立ちあがるとカラスたちはぱっと飛び立ち山のほうへとむかったそうだ。
その夜は疲れていたんだろう夕食をとって風呂にはいったらすぐに眠ってしまった。
泊まりあわせたひとたちも数人で、とくに話もはずまなかった。

 ところが夜中にふと目が覚めた。あたりはシンとしている。
尿意をもよおしたので、薄暗い廊下をスリッパのピタピタという音をさせながら便所にいった。
そのとき闇をとおしてホトトギスの鳴く声が聞こえてきた。
夜に鳴く鳥がいるとは知らなかったので、最初はギョッとした。
しばらく聞いているうちになんだかもの悲しい気分になってきた。
ベッドにもどってからもしばらくはホトトギスの鳴く声が聞こえてきたのだ。

 それから熊本から久留米、そして長崎、さらに佐世保へと旅をした。
佐世保から平戸へとむかう列車で通学の高校生たちにであった。
そのなかのひとりの女子高生がそのときはわからなかったが、なぜだか気になった。
美人だとかいうことではないのだが、なんだか気がつくと彼女を見ているのだった。
まあ明るい感じはしたが、とくにこれといって特徴があるような高校生ではなかった。
どうしてだろうと思ったのでよくよく見つめていると、笑顔だがほとんど話さないのだった。
数人で楽しそうにしているから、仲間はずれになっているということでもなさそうだ。
とある駅で彼女は降りた。そのときやっと彼女が言った。
「サヨウナラ」
そのことばの音の調子を聞いて彼は知った。彼女は耳が聞こえないのだと。
でもあんなに明るくふるまっていたし、まわりの友だちもみんなふつうに接していた。
 そのとき彼は思ったんだって、おれってなんなんだと。
うまく表現できないけど、生きていくってこういうことなのかと気がついた。
どう生きようとおれの人生なんだけど、やっぱりよく生きたいよなあ。
よく生きるってのは、なんというのかまあやれるだけのことはやるってことかな。
それにいままでよく言っていた不平不満はできるだけやめよう。
このできるだけってところが、おれの現状を言い得てるよな。
そう言って笑っていたけど、なんとなくわかるような気がしたものだ。
 そこから平戸までは、また寝てたんだって。よく眠るやつだ。
また祖母ちゃんの夢を見た。ただ笑っているだけだったけどなんか安心したって。
気がついたら目尻に涙がにじんでいたんで、ちょっと恥ずかしかったらしい。
 で、いまはどうなんだと聞いたら、あんまり変わってないかなって言ってた。
でも気もちはいつもあるよって。だからやっぱり全然ちがうんだって。
人生ってすてたもんじゃないよな、とも言ってましたねえ。
全然意味わからんやないかと返したけど、わかるような気もするから不思議なもんだ」

「そうよね、旅っていろんなことに遭遇するんだよね」
「そうそう、いろんな人にも出あいますしね」
「いい奴ばかりじゃないけどな」
「でも、ほんとうはいい人かもしれないじゃない」
「それって、おれのこと?」
「そうねえ、いい人ではなくて、悪い人じゃないってところじゃない」
「なんか微妙だな」
「そうですよ、ムッシュは悪い人ではなくていい人でもない」
「ということは、どちらでもなくコウモリ男かおれは」
「いいんじゃないの、英語でいえばバット・マンでしょ」
「おお、それなら納得できるかもな」
「単純な男、ほんとに」
「シンプル・イズ・ベストということですか」
「屁理屈だけは天才的よね」
「じゃあ、屁理屈男にカンパイですね」

 いつしか風雨も弱まってきていた。そうなのだ、やまない雨はないのである。
それぞれの人生を輝けるものにするのは、それぞれの生きかたにかかっているのだ。
金のようなきらめく人生になるのか、鉛のように重く沈んだ生きかたをするのか。
これからぼくたちにはどのような人生の旅をあるいてゆく運命がまちうけているのだろうか。
若きアルケミストたちにさいわいの風よ吹け。深夜の宴はなおもしばらく続いた。

F0021尾道駅

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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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