ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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鉛の活字
ある時期印刷関係の仕事をしていたことがある。活字をひとつひとつ拾って組む活版印刷はすでに主
流ではなかったが、ほそぼそと仕事をしているところもあった。高架下の印刷工場は、インクと鉄錆
びのようなにおいがした。ほんのときおり頼まれる仕事をもっていくと、汚れた作業着のおじさんが
手についた油をふきながらでてきた。発注書を黙ってうけとって、期日を確認するときだけぼそぼそ
としゃべった。印刷機械のおいてある場所だけが、蛍光灯に照らされていた。おじさんは不機嫌なわ
けではないことはわかっている。きっと話すことが苦手なんだろうと思う。とくにぼくのような若い
者とではなにをしゃべったらいいのかわからないのだろう。どうしてそう思ったのだろう。そうだ、
いつか前を車で通りすぎたときの光景が思いだされた。おじさんは近所の手伝いのおばさんとなにや
ら楽しそうに話しているのを見たからだ。案外シャイなんだなおじさん、と思った。

N6317メダカ育つ

「鯨神」 宇能鴻一郎 中公文庫 ★★★★
宇能鴻一郎といえば、われわれの世代であれば官能小説の帝王とでもなるのであろうか。まあ、じっ
くりと読んだことはないのだが。世間的にあまり知られていないが、彼は芥川賞ををうけている。そ
れは知っていた。そんな彼がなぜいわゆるポルノ小説といわれるような世界にとびこんでいったのか、
そちらのほうが興味をひかれるのだ。ポルノ小説は低俗であるというような安物宗教感にはくみしな
い。D・H・ローレンスの「チャタレイ夫人の恋人」や村上春樹の「ノルウェイの森」だって、ポル
ノ小説だといえなくはない。そういうことではなく、世評芳しくない官能小説という世俗にまみれた
ような世界に宇能氏はなぜ突き進んでいったのか、ということに興味が湧くのである。芥川賞と直木
賞のちがいなどよくわからないが、小説に高級と低俗などあるわけがない。しかし、それでは世間が
マスコミがあるいは出版社がもしくは小説家自身が、納得というか了としないのだと理解している。
それはともかく、「鯨神」である。明治のはじめ、肥前平戸島和田浦の集落に、鯨漁で肉親をなくし
たひとりの刃ザシ(銛師)シャキがいた。セミ鯨のなかでもひときわ巨大なクジラ、「鯨神」とよば
れていた。その鯨神を仕留めることだけが彼に課せられた使命であった。仇をうつのは肉親の義務で
もあった。何年かの周期でやってくる鯨神とシャキとの対決。その壮絶な戦いの描写を読んでいるう
ちに、鯨神とは擬人的なものだったのかという思いにとらわれた。生きるためには生命あるものを食
べなければならない。職業に貴賤はない。とおなじように、生命に生きものに優劣というものがある
のだろうか、とも考える。ここから、宇能鴻一郎氏が官能小説へとすすんでいったこころのうちはな
んであったろうか、と考えると思いはつきない。ご一読して是非考えていただきたい。

「女子的産業遺産探検」 前畑温子 創元社 ★★★
こんな本がありますよ、と紹介をうけた。いまや産業遺産は文化観光資源となってよみがえってきた
感さえある。廃墟となったものには、なにか不思議な魅力があるのだという。ピカピカの新品にはな
い鈍い光をはなつ渋さといった風情がいいのだそうだ。前畑さんがこういったものに興味をもったき
っかけは本屋で廃墟の写真集を手にしてからだという。それはそれまでに彼女の体内で熟成されてい
たものがそれをきっかけにして表に飛びだしたということなのだろう、と思う。
『中に入るとさっそく私好みの壁がたくさんありました。じつは私、壁が大好きなんです。なぜ「壁」
なのか……。それは、二つと同じものが存在しないから。』
じつは私も同様にお城の石垣になぜか惹かれるのである。おなじようでおなじでない。だけどおなじ
などそもそも存在しえないから、おなじだと思いたい。そんな気がしている。これは巷間よくいわれ
る、オンリーワンイムズとでもいったらいいようなものだ。逆にいえば、二つと同じものってどんな
ものがあるのだろうか。そういわれて考えてみれば、じつは二つと同じものというのは存在しない。
脳のなか、概念としては存在しうるというだけだ。工業製品にしても、まったく同じはないのだ。で
なければ、不良品などというものも存在しようがない。それは、わかったものとしての、オンリーワ
ンなのだろうけど。ほんとうは、同じとはどういうものをいうのか、をいつも考えるのである。同じ
とは、なんなのだろう、と考える契機になる遺産探検であればいいのになあ、なんて私は思うのであ
る。

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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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