ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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尾道友愛山荘ものがたり(41)
 <最終話>旅の終わり その一

 嵐のような一夜が明け、空は一転からりと晴れわたっている。
セミの鳴き声が山荘全体をおおうように降りそそぐ朝になっていた。

 夏が過ぎれば秋になり、やがて冬がやってくる。
季節はめぐりめぐりて、いつしか春になっている。
そんなことの繰り返しだといえば、そうである。
そうなのだが、どこの国でもおなじだというわけではない。
四季が移りゆく日本に住んでいるからそう思うだけなのかもしれない。
こうしたことが自然なんだと思って暮らしているだけなのだ。
しかしひとたびちがった状況に遭遇するとき、すべてが根底からくつがえされる。
あらゆることにそういった状況がみられるのだ。
あのときのこともそうだったのだろうか。
冷静に考えてみれば、もっとちがった行動がとれたのかもしれない、と思ったりする。
すぎさった時間は遡行することができない。
だが、人はいつもいつも悔恨の日々をおくっているわけではない。
過去にちがった面をみいだし、新たな過去へとふたたび記憶をたどる旅にでることもある。
もちろん記憶のあてにならないことは重々承知している。
だが、それでも旅を断念することはできない。

 夏の終わりになれば、朝夕には涼しげな風を感ることがふえてくる。
旅をする若者にとってはひとつの岐路になり、ここで街に帰るのか、旅を続けるのか。
都会の喧騒がなつかしいと感じたならば、帰るのがよい。
そう思えず、なにかにこころひかれつつ旅をつづける者もいた。
季節が変わるときが旅立つきっかけになるのであるが、さりとてゆくあてもない。

 都会のどこに未練があるのだろうか。
人なんてのはどこでだって生きていけるじゃないか。
いや、都会じゃないほうが人らしい暮らしができるというものじゃないか。
こうした地方回帰の雰囲気もあり、大都会をジャングルと形容したりした。
人間関係を砂がはらはらと指の間からこぼれ落ちるかのような沙漠と比喩する。
街育ちには田舎への憧れがあり、地方に暮らす若者は未来都市を夢想する。
ふとしたきっかけで旅にでることもよくあることだった。
気がつけば汽車に乗り車窓の景色をながめていたりする。
いつまでこうした暮らしが続くのだろうと考えることもないではない。

 いつものように朝の掃除をした。
いつも聞いている歌声が館内にこだまする。
♪ 好きよ好きよキャプテン、小麦色の肌に ♪

「若いっていいなあ」
「夏の高校野球も終わってしまいましたね」
「なにか打ちこめるものがある、ああ青春やなあ」
「そうですね、なつかしい気がします」
「えっ、そんな経験したの」
「そりゃあ、ぼくだっていろいろありましたよ」
「そうやろな、だれだってあるやろな」
「わたしもあるわよ」
「どんな」
「どんなって、いろいろよ」
「そうやな、いろいろあるよな青春は」
「われら、まだ青春ですよね」
「そうかもしれない」
「そうよ、そうよ」
「成長途上ということで」
「成長できるんでしょうか」
「神のみぞ知る」

「ねえ、町へ行こう」
というヒロミちゃんのひとことでぼくたちは動きだした。

 お盆休もすぎて、旅行者も日に日にすくなくなってきていた。
それでも尾道の町は暑くて、なんだかだらだらと暮らしているという気がした。
山荘をでて坂道を下り線路をこえてアーケード街までやってくる。
日陰にはいればほっとひと息つける、そんな夏の日だ。
すでに気温は三十℃近くなっているのではないか。

「渡船に乗れへんか」
「どこに行くの」
「とりあえず、向島へ」
「なにかあてはあるんですか」
「ない」
「ないって、どうするのよ」
「人生に目的はあるのか」
「そりゃあ、あるでしょ」
「おれはないって思うな、サンペイくんはあるんか」
「あるっていえば、ありますけど」
「わたしはあるわよ」
「ヒロミちゃんの目的は」
「みんなと仲良くすることよ」
「えっ、そんな、ことなん」
「なにかいけませんか、倫理的にでも」
「それは、ないわな」
「でしょう」
「ヒロミちゃんって、あんがい哲人なのかも」
「ふっふっふ、ムッシュの真似してあげた」
「うーむ、おぬしやりおるな」
「あー、のどが渇いたわ」
「即物的でもあるな…」
「なにか言った?」
「いえ、めっそうもない」
「であろう、よきにはからえ」

 あきれた顔していたサンペイはさっさと近くのお店にはいっていった。
なにやら店のおばさんと会話していたが、両手にアイスクリームをもってでてきた。
ヒロミちゃんはちょっと眉をあげ、にっこりして受けとった。

 駅前の渡船乗り場から向島へむかう。
船のベンチに横並びですわり、冷たいアイスをなめた。
青い青い空に積乱雲がもくもくと立ちのぼっていた。
夏の日をうけて海面がきらきらと反射してまばゆいばかりだった。
風がぼくたちのまわりでゆれながら踊りながらとおりすぎていくのだった。
波のしぶきがまぶたにあたる。
指でなぞって口に入れたら、潮の味がした。
鼻孔がすこしひらいて、海を吸いこんだ気分になった。
なぜだかしらないが対岸までの十分あまりの時間が永遠のように思えた。
船が減速したとき、身体がうける加速度が胸に迫ってくるように感じられた。
悲しいから泣くんじゃない泣くから悲しいのだ。
唐突にうかんできたのはジェームズ・ランゲ説だった。
いまがそういう状態だと、おれが認識しているのか。
なぜだか落ち着かない気分でどうでもいいからはやく着いてくれと念じていた。

 そのとき急に雨が降ってきた。
はっとした途端、なにかを悟った気がしたがなにを悟ったかは分からない。

2479渡船
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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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