ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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尾道友愛山荘ものがたり(43)
 <最終話>旅の終わり その三

 眼の前か空かはわからなかったが、こちらは見ずにヒロミちゃんは話しだした。
東京は人がこころやすらかに暮らせる街ではないのよね。
だからといって、どこか別の土地で暮らせば解決ということでもないんだろうし。
なんだか毎日決まりきったレールの上を走っているだけの気がする。
だからかな、ときどきこれじゃいけないって思う。
でもね、なにがいけないのかも分からないのに莫迦よねえ。
ふと気がついたら何カ月もすぎていた、なんて感じなの。
わたしって、こんなふうに生きていてそれでいいのかな。
わたし自身が納得できるというか、やすらかな生活ってほんとうにあるのかな。
そんなこと考えたりするとき、なにがなんだか分からなくなるの。
王子様がやってきて連れ去ってくれないかな。
それですべては解決、そんなことあるわけないのに弱いなわたしって。
男の人とお酒飲んだり話してたりしていても、なにか醒めた自分がいるときがある。
彼のことが好きとか嫌いとかという問題じゃない。
こんな気持ちはだれだってあるんだろうけど、わたし駄目よね。
逃げるばっかりで向きあわないからいけないんだろうな。
でもどう向きあったらいいのかわからない。
なにをどうすればいいの。なにもしなくていいの。どう思うムッシュ。

 人にはそれぞれ悩みがある。
それはお金持ちであるとか貧乏であるとかとは関係がない。
頭脳明晰でありさえすれば悩まなくていいのかということでもない。
呑気そうにみえるからといって、なにも苦悩をかかえていないとは限らない。
だれも他人のこころのなかまでは観とおすことができない。

 ぼくだって、いつも考えているんだよ。
これは答えのない問いだといえるかもしれない。
答えはだせるかもしれないが、その答えがまたあらたな問いを生むんだ。
だから終わりなき問いということになるのかな。
いや、終わりはあるけどね。それはぼくが死ぬときだ。
だから自殺ってあるのかなあ、なんて思うよ。
でも、自殺しなくてもかならずいつかは死ななければならないというか、死ねるというか。
この世のなかで人の死くらいじゃないのかなあ、絶対といえるものは。
いろんな本を読んだりしたけど、禅のなかにこんなのがあった。
禅問答なんてつまらないなという感想だったけど、これはちがった。
生きるとは、ただ生きるということ。
自分なりに解釈すると、あれこれ言い訳しない。
自分がした行為の結果はすべて謹んでうけいれる。
泣き言はいわない、というか言ってどうなるものでもない。
言ったら気持ちが軽くなるのでは、というのはうそ。
泣き言は姿勢を後ろ向きにして見ないようにしてるだけだからだめ。
楽しく暮らしても、泣いてくらしても、恨んでくらしても、一生は一生。
できれば楽しく暮らしたいものだよね。
とはいいながら、失恋ありいの、失敗ありいのだけどね。
病は気からというじゃないか、気持ちのもちようは大切だよ。
って、なにが言いたいんだろうねおれって、ハッハッハ。

 そうですよね、とサンペイもつられたのだろうか。
おれっちもこんな生活してていいのかなあって不安ですよ。
でもヒロミちゃんやムッシュみてると、いろいろ考えてるんですよね。
だけどこれでもいいじゃないか、とか無理やり思ったりしてます。
やっぱりみんないろいろ悩みはありますよね。
ないほうがおかしいぐらい、おれだって分かりますよ。
どうすればいいのかなあ。
仕事探さないといけないんでしょうね。
それに人ってどう生きていくのが正解なんでしょう。

「正解なんてないよね、それはわかるよな」
「そうかしら、あるんじゃないの」
「要は自分が納得できるかどうかでしょ」
「それはそうだけど、その納得できることはなになのか、がわからないんですよ」
「人のふり見て、わがふり直せっていうよ」
「どういうことですか」
「ものごとはね、なんでも模倣からはじまるんだよ」
「なんか分かるようで分からない」
「赤ん坊がね、ことばを覚えるのもお母さんの口まねからだからね。芸術だって模倣、つまり模写す
ることが原点にあるでしょ。いきなりなにかが生まれることなんてことはない」
「でも所詮は、まねでしょ」
「なにか模倣を甘くみているような気がするけど。そんなに簡単じゃないんだよ。まず模倣するには
対象物をよく観察しなければならない。観察するということは、集中力がないとできない。集中する
には訓練が必要である。修行といってもいい。こうした経験を積んではじめて模倣がなにかを知って
いくわけだ。こう説明してるとそれって模倣ですか、と思うだろ」
「まねするって、もっと簡単じゃないんですか」
「まねするったって、ピンからキリまであるでしょ。本物そっくりから箸にも棒にもかからないまで。
だから模倣はスペクトルをとるんだね。このスペクトルのなかでサンペイくんはどのへんを指してい
るのかな」
「またまた、どうしてそんなに難しく言うんです」
「ごめん、つい無駄な教養がでてしまった。つまりおなじようでもおなじでないものがある。ひと言
で模倣とくくれないということ。まあ、だれかの生き方を参考にさせていただいたらどうかと」
「それがねえ、なかなかそういう人がいないんですよ」
「いるんじゃないの、どこかそのあたり」
「まったくといっていいほどいません。あっ、ムッシュは尊敬してますけど、すこしちがうかな」
「残念やな。まあそういう視点をもって生きていたら、見つかるんじゃないかな」
「そうですね、気をつけてみます」
「なに、ふたりで真面目なふりしちゃって。変よ」
「じゃあ、ヒロミちゃんはどうなんや」
「やはりね日々の仕事に真摯に取り組むということかな。職業に貴賎はないっていうでしょ。そうし
て暮らしていると、いつかは素敵な…」
「王子様が現れる、というんかいな」
「そんなことは言ってませんけど。べつにハンサムな若者でもいいのよ」
「気がつかないだけで、あんがい身近にいるんじゃないのかな」
「残念ですが、あなたがたにはまったく該当しません」
「きついなあ」

 サンペイが笑っている。笑えばなにかいい考えがうかんでくるとでもいうように。

4885向島

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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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