ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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カフェで読書
待ち合わせ場所はどこがいいかといったら、カフェを指定された。いいよ、遅れたってかまわないよ。
本でも読んでるから退屈しないしね。ごめんね、すこし遅れるかもしれないと返事があった。十分く
らい前に着いて、カウンターで珈琲を買って窓際に席をとる。入口がみえるような位置にすわって店
内をながめながら珈琲のかおりをかぐ。なんともいえないいい気分になる。こんな場所だからか逆に
読書に集中できる。ミステリも佳境にはいってきたころ、肩をたたかれた。すっかり感情移入してい
たから、おどろいて身体がもちあがるくらいだった。カップとソーサーがかたかたと小刻みな振動を
しばらく続けていた。なにをそんなに驚くことがあるのかという表情で彼女は片眉をあげた。なんだ
か浮気現場をおさえられたかのようね、と言った。ドキドキするなど身体の変化はときとしてその対
象をとりちがえることがある。だからか、いつもとちがって彼女が美しく思えた。

N6532下弦の月

「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」 上 下 スティーグ・ラーソン
               ヘレンハルメ美穂・岩澤雅利訳 早川書房 ★★★★

「ミレニアム」という硬派な経済ジャーナル月刊誌の発行責任者のミカエル・ブルムクヴィストは大
物実業家の違法を暴露する記事を書いた。ところが逆に名誉棄損で有罪判決をうけてしまう。そんな
彼の元に大企業グループの前会長ヘンリック・ヴァンゲルから奇妙な依頼がくる。ヘンリックの兄の
孫娘が40年ほど前に突然消えてしまった。はたして殺されたのか、その事件を徹底的に調べてほし
いというのである。断ったのだが、事件の真相が判明すれば大物実業家を破滅させることができる証
拠資料を渡してもいいという。ミカエルは依頼を受けることにする。
全世界で800万部を超えるベストセラーとなった「ミレニアム」三部作の第一部がここにはじまる。
映画にもなったので、記憶にある人もおおいと思う。わたしは見ていないのだが、読んでみると筋の
運びといい登場人物の造形といい、映画向きである。じつは作者のラーソンのもともとの構想では第
五部まであったようなのだが、本書が出版される前、第三部を書き上げたて第四部にとりかかったと
ころで心筋梗塞で亡くなっている。そういう経緯もありさらに注目されることとなった。
調査はヴァンゲル一族が住むヘーデビー島へミカエルが乗りこんでいよいよ始まることになる。孫娘
ハリエット・ヴァンゲルの捜索は徹底的に行われた。当時、ヘーデビー島と本土とを結ぶ橋上で事故
があり、だれも自由に行き来できる状態ではなかったのだ。しかしハリエットの行方はまったくとい
っていいほどわからなかった。その報告書をミカエルはじっくりと読んだ。
『報告書の中でも、失踪から三日目に捜索が打ち切られたことを記した部分には、担当者の満たされ
ない気持ちがうかがえた。グスタフ・モレルはこの時点ではまだそのことを自覚していないが、実際
のところ、彼はこれ以上捜査を先に進めることができなかった。彼は困惑しきっており、次なる一歩
として何をすればいいのか、どの場所の捜索を続ければいいのか、まるで見当がつかなくなっていた
のだ。ハリエット・ヴァンゲルは影も形もなく消えうせた。そして、ヘンリック・ヴァンゲルのまも
なく四十年に及ぶ苦難が、ここに始まった。』
なぜミカエルのそんな依頼が舞いこんだのか。じつは、背中におおきなドラゴンのタトゥーを入れた
有能な女性調査員の存在があった。リスベット・サランデルはきわめて小柄で二十四歳なのに十五歳
ぐらいにしかみえない。だが調査の腕は一級品である。だが彼女は重い過去を背負ってもいるのだ。
やがてミカエルとリスベットは協力しながらハリエット失踪の謎に迫っていく。しかしながら、スウ
ェーデンの社会がかかえる問題を抜きにはその謎は解けないというのかのごとく、各部の冒頭にかか
げられる短い文章がある。これはなにを意味しているのだろうか。
『スウェーデンでは女性の十八パーセントが男に脅迫された経験を持つ。』(第一部)
『スウェーデンでは女性の四十六パーセントが男性に暴力をふるわれた経験を持つ。』(第二部)
『スウェーデンでは女性の十三パーセントが、性的パートナー以外の人物から深刻な性的暴行を受け
た経験を有する。』(第三部)
『スウェーデンでは、性的暴行を受けた女性のうち九十二パーセントが、警察に被害届を出していな
い。』(第四部)
スウェーデン社会に対する漠然としたイメージがくつがえされただろうか。ミステリは社会をうつす
ものでもある。よりうつしているミステリが今日では評価が高いともいえるだろう。

「なつかしいひと」 平松洋子 新潮社 ★★★
人はあたりまえのように生きていて、だがときおりなにかに気づく。
『ざくり。足の裏で霜の崩れる音が響く。ざくざく。おもむろに一歩を踏み出す。
 こどものころ、冬の朝のたのしみはむっくり持ち上げる霜柱を見つけることだった。白く透明な群
生を勢いこんで踏みつけると、背中のランドセルもいっしょに元気に揺れた。あのときとおなじ弾み
が、今日の寒さを忘れさせた。』
それがいつのまにか遠い世界の出来事になってしまっている。進歩か進化か。あるいは文化か文明か、
とかと考えだすと、もうわからない。感覚か感性か、なんてことでもない。しかし、すべては連鎖の
もとにあるんだと考えるようにもなってくる。
『旅先の宿の庭でぐうぜん捕まえた二匹の蛍を両手でつつんでだいじに運び、蚊帳のなかへ解き放っ
たのだ。きれい、きれいとはしゃいで弧を描いて飛ぶ光を目で追いかけているうち、ことんと眠りに
おちた。
 翌朝、自分の残酷を思い知らされた。起きだすと、夏掛けふとんのはじに昨夜の蛍がふたつ、無惨
なすがたで転がっていたのである。』
これが残酷だと思いだすと、小乗仏教的な生活になるしかないのか、と考えたりもした。呼吸するこ
とによって、微生物やらなんやらをのみこんでいる。だから、潔癖症の人というのは、見えなければ
知らなければそれで生きていける人でもあるんだ。ある意味幸せなんじゃないかと揶揄したくなる。
『そういえば書棚の整理法を問われた知人が、あっと驚く術を開陳してくれたことがある。いわく、
「たいせつな本は頭のなかに入っているから、むしろそちらのほうを処分する」。たいせつであれば
あるほどちゃんと頭に入っているし、いつでも記憶のなかから取り出せる。再読したいときは題名も
版元も内容も熟知しているから探すのも簡単で、入手しやすい。むしろ自分にとって中途半端な本を
書棚に残しておいて整理するほうが、その後の手間が省けて役立つというのだ。逆転の発想にびっく
り仰天した。』
理屈はそうだが、本という物質はそうとらえられないところにあると思うんだがなあ。とわたしなん
かは強弁してしまうんです。

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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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