ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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続・引越し準備で読書
ダンボール箱が部屋の片隅に積まれていく。二〇、三〇個と。棚が空になるほどにダンボール箱が増
えるのはあたりまえだ。こちらのがあちらへ。なんだか無駄なことをしているような気になる。エン
トロピーが減少している、のかどうか。やっと終わったかとあたりを見まわす。本棚の後ろに数冊の
本が落ちている。ちいさな本だからか。そのなかに真っ赤な本があった。大学生のときに買った。当
時はそういうブームだったのだ。「毛沢東語録」。あまり読んだ記憶はない。でも、買ったのだ。パ
ラパラとめくる。読む。文化大革命かあ。カンボジアのクメール・ルージュのこともある。国家って
なんだろう。ヒトって進化しないのか。いや進化しているのか。なぜだかそんな感想をいだいた。し
ばらくぼんやりしていたようだ。そろそろ片付けなくちゃなと思って外を見たら、もう陽が沈みかけ
ていた。あたり一面が紅に染まるなかでダンボール箱の影が部屋に長くのびていた。

N8334雨上がりの山

「プライスレス 必ず得する行動経済学の法則」 ウイリアム・バウンドストーン
                     松浦俊輔+小野木明恵訳 青土社 ★★★★

スーツケースの重さというのは持ってみてわかるものだろうか。だれもが自信はないだろう。
『一九世紀の心理(精神)物理学者たちは、人は違いには特に敏感だが、絶対的な値にはそれほど敏
感ではないことを発見した。見た目はそっくりだが、一つは重さが一五キロで、もう一つは一六キロ
の二つのスーツケースがあるとすると、持ち上げてみてどちらが重いかは簡単に判断できる。だが、
秤がないと、二つのスーツケースがそれぞれに飛行機の重量制限二〇キロに収まるかどうかは、なか
なか確信できない。』
人は絶対値を予測することは苦手だ。カーネマンとトヴェルスキーはこういう実験を行った。ルーレ
ットをまわしてランダムに数字が選ばれるところを大学生が見ている。ちょうど65のところに止まっ
たとしよう。そこで次の二つの質問を大学生にする。
 (a) 国連にアフリカ諸国が占める割合は、六五パーセントより高いか低いか?(数字はルーレット
   で出たもの)
 (b) 国連にアフリカ諸国が占める割合は何パーセントか?
この実験はルーレットに仕掛けがあり10か65しかでないように設定されていた。さて結果はルーレッ
トの数字に影響を受けたのだ。ルーレットが10のとき、国連にアフリカ諸国が占める割合は、平均二
五パーセントだった。しかしルーレットの数字が65のときは、割合の平均は四五パーセントになった。
彼らはこれを「係留(アンカリング)と調節」という用語で説明した。初期値(アンカー〔錨〕)が、
未知の数量を推測する際の基準点もしくは出発点の働きをするという理論だ。当初、アンカリングと
いう説は否定された。しかし、その後の心理学者たちの実験の数々はこれを肯定する結果となった。
ならば、人は市場価格がはっきりとしないものの値段はどう判断しているのだろうか。だれもが自分
は賢い選択をしていると信じがちである。だが、ものの値段が高いか安いかはどうして見極めるのか。
高級ブランドのショップにでかけると、店頭に五十万円のバッグが飾ってある。だれもがこれはちょ
っと買えないと判断するが、次に見たバッグが五万円だとこれなら買える、安いわねと感じたりする
のだ。これはアンカリング理論で説明できる。店頭の五十万円のバッグがアンカーとなっているのだ。
『人々は、値段についても同じように無力なところを示している。この極めて重要な事実が、ほとん
ど認識されていない。なぜなら、私たちはメディアが宣伝する値段や市場価格に埋もれて暮らしてい
るからだ。物の値段がどれくらいに「設定されているか」をおぼえているので、物の価値を間違いな
く感知できるような気がしていられる。消費者は目の不自由な人に似ている。よく知っている室内な
ら、どこに家具があるのかをおぼえているので、ちゃんと歩けるのだ。これは視覚の埋め合わせであ
って、視覚が鋭敏だというのとは違う。』
アンカーリング理論のすごいのは、この理論を知っていても、アンカーに影響を受けてしまうことだ。
このことを十分に認識しておく必要がある。
『私たちはみな、理論や常識による首尾一貫した限度価格をもっているつもりでいる。しかし語られ
ていない真実がある。それは、私たちが知っているのは、相対的な評価額にすぎないということだ。
比については賢いが、価格については愚かなのだ。』
いろいろと知って、できるだけ賢い消費者になってください(笑)。

「ベン・ジョンソン戯曲選集(4) 錬金術師」 ベン・ジョンソン
                         大場建治訳 国書刊行会 ★★★★

ベン・ジョンソンは十七世紀のイギリスで劇作家・詩人として活躍した。同時代には有名なウィリア
ム・シェイクスピアがいる。その当時、どちらかというとベン・ジョンソンのほうが評価が高かった。
「錬金術師」は一六一〇年、国王ジェームズ一世を庇護者にいただく国王一座によって上演されてい
る。エリザベス朝という時代的にも、錬金術は一世を風靡していたのだ。ベン・ジョンソンはそれを
風刺してこの戯曲を書いた。そして大成功をおさめたのだ。作品中には次々と錬金術用語がでてくる。
まさに相手を幻惑させるかのように。では、解説の一部を紹介しておこう。
『それは作品全体を貫く統一的な主題――貪欲な人間のおぞましい変身――を描写するためのぬきさ
しならぬメタファーとしてはたらいている。フェイスはサトルに拾われて隊長に変身する。第一幕第
一場、サトルの口にする錬金術用語は、錬金のプロセスと人間の変身とを寸分の狂いもなく重ね合わ
せるための卓抜な技巧である。そしてほかの二人も、サトルは博士に、ドルは貴族の妹に、さらに妖
精の女王へと変身するが、彼らのめまぐるしい変装の連続は、たんなる劇的趣向の域を超えて、人間
の錬金という大きな意味を獲得することになるだろう。その他の人物もそれぞれに卑金属の己が黄金
に変身するものと思いこんで、右往左往の愚行をくりひろげる。しかもその人間の錬金術は、錬金術
自体が人間の貪欲に罠を仕掛けた入念な詐術にほかならなかったように、彼らを黄金の高みに飛翔さ
せるとみせかけて、じつは低く、より低く、ついに動物の次元へと転落させていく。それは、表面的
には詐術を施す側に立っている三人とても同様である。「王さま」のサトルも「大将軍」のフェイス
も「女神さま」のドルも、かずかずの変身をへながら、最後には罪人のようにこそこそと逃げ出さな
くてはならぬ。奴隷のように腰をかがめて主人の許しを乞わなくてはならぬ。ジョンソンのアイロニ
ーは完璧である。動物のイメジャリも、戦争のイメジャリも、人間の貪欲と転落のテーマにグロテス
クに織りこまれて、卑小な人間の現実の絵模様が、活気にあふれた哄笑の舞台から、それこそじわじ
わと観客の前に迫ってきて離れない。』
なるほどね、そういうことですか(笑)。ペストが大流行していたロンドンが舞台の劇である。ちな
みにコールリッジは世界文学における完璧なプロットの三大傑作として、この「錬金術師」を「オイ
ディプス王」「トム・ジョーンズ」と並べて賞賛しているとの由である。

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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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