ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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野球場で読書
春先だったがあたたかい日だった。ぽかぽかとした太陽に照らされた外野の芝生席で寝ころんで本を
読んでいた。グラウンドでは試合前の練習がおこなわれていた。ときどきカキーンという音が響くが、
ノックでもやっているのだろう。それにここまで飛んできはしない。隣で友人も午睡をむさぼってい
た。すやすやとたてる寝息が春の空に舞いあがっていく。そのうち内野席で応援団らしき連中が声を
あげはじめた。だが、それも気にならない程度だ。すべてが遠いところでのことのように思えてなお
も本を読み続けていた。青い空、白い雲、赤い…。なんだ、あの赤いものは。だれもが空を見あげて
いた。飛行船のようだ。かなりの高度を飛ぶというよりは流れていく。やがてちいさくなっていった。
ときに訪れるこうした非日常があるが、いつものようにときは過ぎてゆく。ああよく寝たといって友
人が起きてきた。彼の顔をじっとみつめると、なぜか眉をそびやかすようにしてすこし笑った。

N9163ジョウビタキ

「ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女」 上 下 ダヴィド・ラーゲルクランツ
                   ヘレンハルメ美穂・羽根由訳 早川書房 ★★★★

「ミレニアム」は二〇〇五年に第一部がスウェーデンで刊行されて以来、全世界で三部作が累計八千
万部を超えている。第一部の「ドラゴン・タトゥーの女」は映画にもなったので知っている人も多い
だろう。だがこの物語の生みの親であるスティーグ・ラーソンは第一部が刊行されるのをまたずに心
臓発作で急死した。もともとラーソンは十部作にする予定だったという。だがそれも叶わない願いと
なった。ところが版元のノーシュテッツ社は、ラーソンの遺稿とは関係なくまったく新しい著者によ
る第四部を刊行すると発表した。それが本作である。はたして、うまくいったのか気になる。本国の
スウェーデンでは刊行から一週間で二十万部を売り上げたという。ちなみにスウェーデンの人口は約
一千万人である。読んでみた。確かにおもしろい。前三部作との違和感はそう感じなかった。
さて、前作から数年後、雑誌「ミレニアム」は経営危機を迎えていた。そんななか看板記者であるミ
カエル・ブルムクヴィストのもとにある男から話をもちかけられる。大スクープとなる情報を人口知
能研究の世界的な権威であるフランス・バルデル教授に会ってほしいというのだ。なんとそこには、
リスベット・サランデルも絡んでいるらしい。一方ではアメリカのNSA(国家安全保障局)では、
ある犯罪組織が産業スパイ活動にかかわっており、それを知ったバルデル教授の身に危険が迫ってい
ると分かってきた。教授はスウェーデンに帰国しており、別れた妻のもとから自閉症の息子アウグス
トを引き取ったばかりだった。その後、数年ぶりにパソコン上で再会したミカエルとリスベットは、
命を狙われるアウグストの身を守るために敵と闘うことになる。なぜアウグストが狙われることにな
ったか。彼はサヴァン症候群であることがある事実からわかった。犯行現場の映像記憶が彼にはあり、
完璧なスケッチを描くことができ、当然そこには犯人の姿も描かれていた。はたまた犯罪組織には、
なんとリスベットの二卵性双生児の妹カミラがリーダーであるらしいことも判明する。宿命の因縁で
結ばれた二人の対決はどうなるのか。事件はテンポよくすすみ、読むほうも一気に物語のなかに引き
こまれていくのだ。本ストーリーのなかには「人口知能」「ニューラルネットワーク」「量子プロセ
ッサ」「自閉症」「サヴァン症候群」「素因数分解」といった現代社会のキーワードといったことば
がでてくる。このどうしようもない世界にどう対峙していけばいいのだろうか。ストックホルム県警
犯罪捜査部警部のブブランスキーは気が重くなる。そんななかラビに聞いたことばとして彼は語る。
彼はまた敬虔なユダヤ教徒でもあるのだ。
『「医者がいうには、われわれが神を信じることが重要なのではない。そんなことに神はこだわらな
い。重要なのは、人生の大切さ、豊かさを理解することだ。われわれは人生をありがたく享受すると
同時に、この世界を良くする努力もしなければならない。そのふたつのバランスを見つけた者のそば
に神は御座します、と」』
まだまだ物語は完結というにはほど遠いのである。しかしながら、引続きダヴィド・ラーゲルクラン
ツによる第五部、第六部までの刊行が予定されているということなので、楽しみに待ちたい。

「匂いおこせよ梅の花」 池部良 中央公論新社 ★★★★
池部さんの筆は年齢とともにますます軽やかになめらかになっていく。大正七年(1918年)の生まれ
だからこの随筆を書きはじめたのは七十歳を越えていた。それから十年が経ってこの本が編まれたと
いうことらしい。歳がいくと愚痴や文句が多くなる、そんなあたりの観察が愉快である。「矍鑠」と
いう文章などそうした老人の特徴をよく描きだしていると思う。
『「矍鑠とは聞き捨てになりません」と叫んだ。
 総入れ歯だから、叫びにも迫力がない。
「矍鑠、とは耳も聞こえん、口も利けん、目も見えん、よぼよぼな老人がですな。それでも、気力体
力、旺盛であることの形容詞でありまして、老人を差別待遇する侮蔑用語とも受け取れます。鑠は、
鉄が赤く焼ける様のことですから、これは善しとして、矍の字は、驚いて左右を、きょろきょろ見る
意味であります。私は齢、八十三になりますが、さような、軽率にもとれる言葉で、私を評されるに
は、憤りを感ずるのであります」
 唾液が、奥さんの髪の毛と肩に、しとど降り注いだ。
「変なことだけ聞こえて。端たないですよ、あなた」と奥さんは、呟いた。
 一同、矍鑠が、老人差別用語に当たるのか、どうかと首を傾け、沈黙が漂った。』
「油断大敵」というのではこう落ちをつけている。書家の大家が息子が医科大学に入るとき、餞のこ
とばとして「油断は怪我の基」という句を奉書紙に書いてあたえた。七十八歳になって、あるお寺か
ら書の依頼があり出かけて、その折に滑って骨折したという。
『「どうして、滑ったの?」
 「いや、いつもだったら、足袋の裏を水で湿して畳にすべらないようにしていたんだが、その日に
限って、湿しておかなかったもんで、足を開いたら滑ってしまった。油断大敵。改めて肝に銘じたよ」
と言って私を見た。
 更なる油断は年を忘れていることだった。』
いつまでも若いつもりであっても、それは気持ちの方だけである。年寄りの冷や水といわれないよう
注意していかねばならない、と私も肝に銘じましょうか。

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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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