ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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ねむり舟で読書
舟の号は「子守り舟」だったかもしれない。いまはどっちだったかはっきりとは思いだせない。コン
クリートの護岸に引きあげられていた。遠くからながめれば白い舟でメルヘンチックだ。ちいさな伝
馬船くらいしかない。だれかがいつのまにかそう名づけていた。波にゆらゆらうかぶイメージがあっ
たのだろう。舳先に腰掛けて、読書したりした。ただただ寄せてはかえす波音のなかでのことだ。文
章は海とは関係がないのだが、なぜか思いは海につながっていく。聞こえているのに意識にはのぼら
ない。やはり聞こえているんだ。そんな経験をしたことがあった。あれとおなじだな。視覚にもおこ
る。見ていた記憶はないのだが、見ていなくてはおこせない行動をとる。聞いていなければわからな
いことが分かる。読んだことを覚えていないことが、ことばになって口からでてくれば、それは前世
の記憶になるのだろうか。忘れているのではなく、無意識下のことってわからないことが多いものだ。

N8766はるか佐柳島

「同性愛の謎 なぜクラスに一人いるのか」 竹内久美子 文春文庫 ★★★★
キンゼイ報告やその他のいくつかの調査では、男で同性とのみ関係を持つという割合がおおむね四%
の数値を示す。つまり、クラス(25名だと)に一人程度ということになる。ちなみに女性同性愛者
の割合は、男性同性愛者の約二分の一~三分の一くらい。さて、男の性フェロモンと考えられている
AND(アンドロスタジエノン)は男の汗の中に多く含まれていて、これに対して女性異性愛者はも
ちろん男性同性愛者も性的に興奮する。このANDは男性ホルモンの代表格であるテストステロンが
少し変化しただけの物質である。ただ、性フェロモンとはそもそも匂いとして感じられないほどの低
い濃度でも脳が性的に興奮する化学物質だということである。
『ANDは男の、精液やだ液にも少量含まれるが、汗に一番よく含まれる。それもわきの下や乳首、
下腹部、肛門の周りなどにあり、そこに生えている毛と、分泌物の出口がセットになっているアポ
クリン腺から出てくると考えられる。』
汗腺にはエクリン腺とアポクリン腺の二種類ある。このアポクリン腺は水やミネラルだけでなく、脂
質やタンパク質なども排出しその中にANDも含まれているはずなのだ。ただ、エクリン腺もアポク
リン腺も分泌物自体にはほとんど匂いはない。皮膚に住みついているいるバクテリアによって分解さ
れてはじめて臭い匂いを発する。だから、ANDと汗臭いにおいとは直接的な関係はない。ただ、条
件反射的な学習があるのかもしれない。しかし、進化の過程で同性愛的志向は淘汰されるのではない
かという疑問は残るだろう。それに対してはこういう解釈があるのだ。
『とにかく女の繁殖力を高める遺伝子があったとする。それが男に乗った場合には、彼を同性愛者に
する確率を高め、子を残すうえで不利にするが、それは彼の母方の女における大いなる繁殖によって
十分に相殺され、その遺伝子が残ってきている。そしてこの、女の繁殖力を高める遺伝子こそが、男
性同性愛遺伝子の正体である……。』
というようなことらしい。これにどう進化論的解釈をほどこすのか、まだ決着はついていないらしい。
しかし、まあ現実は同性愛者がいなくなる気配はなさそうではある。本題とは別に、オキシトシンと
いうホルモンが最近、大変注目されているという。ではどんな働きがあるというのだろう。
『オキシトシンは単に体に触れられること、接触刺激でも分泌される。マッサージ、指圧などでリラ
ックスして気持ちがよくなり、ときには眠ってしまうのは、単に血流がよくなるとか、凝りがほぐれ
るからだけではない。これらの刺激がきっかけとなってオキシトシンが分泌されるからだ。
 しかもその際、触れられる側はもちろんのこと、触れる側にもオキシトシンが分泌されるというか
ら驚きだ。』
これで、女性をハグする言い訳ができたというのは早計である。すべての行為、感情は複合的な条件
のもとに起こるので自分に都合のいいように理論を変換して敷衍しないようにしなければならない。

「デビルズ・ピーク」 デオン・マイヤー 大久保寛訳 集英社文庫 ★★★★
本書は南アフリカの社会派ミステリ作家であるデオン・マイヤーによるものだ。南アフリカ第二の都
市であるケープタウン周辺を舞台として三つのストーリーが語られる。まず、牧師に告白する若く美
しい娼婦、クリスティーンの場面からはじまる。続いてすぐに、息子を殺されたトベラ・ムバイフェ
リの憤りに燃える光景へと変わり、またまた、アル中で家庭崩壊を起しそうな警部補ベニー・グリー
セルの話に切り替わる。この三つのストーリーがいつかつながっていくのだが、まず南アフリカの現
状についての紹介がある。南アフリカでは死刑は廃止されている。逆にいえば、どのような卑劣な犯
罪を犯そうとも死刑になることはない。犯罪者もこのことをよく知っている。だから息子を殺された
トベラは子ども相手に犯罪をおかす者たちをつぎつぎと処刑していった。それもアセガイとよばれる
槍での殺害である。このリンチをトベラはどう考えているのだろうか。
『トベラはページをめくった。三ページ目に、ラジオ局の電話世論調査の記事が載っていた。死刑は
復活すべきですか?リスナーの八十七パーセントが「はい」と答えていた。』
だれかがやるしかないのだ。死刑廃止論者は死刑は殺人犯罪抑止力になりえないという。だから、人
が人を殺すような野蛮な死刑制度は廃止すべきだという。死刑制度を廃止すれば、殺人は減少するの
か。いや、それとこれは別問題だという。トベラは理不尽だと思ったのだろうか。しかし殺された側
はいつまでもそのことを忘れることはできないのだ。また別の被害者がでないようにと思ったのだろ
うか。むずかしい問題だ。死刑廃止論者は、たとえば自分の妻や子どもが殺されても死刑はいけない
というのだろうか。サイコパスのかっこうの標的になるかも知れないから心配だ。ゲーム理論によれ
ば、最適解は「やられたらやりかえす」だ。人は理性的な生き物だからそれはない、というのか。理
性と人々の本音はいつの日も相反している。それはともかく、ストーリーは後半になって急激な展開
をみせる。三者がつながりをみせはじめるところは圧巻である。手に汗にぎる。気をもむ。どうする
つもりなのか悩む。しかしものごとはあっという間に終わってしまう。じっくり考えるひまなどない
ということがわかるだろう。すぐに対処できるようにふだんからの訓練が重要なのだ。しかし、なか
なかに読ませるし考えさせられる作品でありました。

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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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