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風吹く港で読書

2021-10-16 | 20:00

旅の途中で立ち寄った漁港で海をながめていた。漁の時間はとっくに終わっているようであたりは閑
散としている。ときおりどこからともなく猫が現れてはそっけなく去っていく。あまり人間に興味が
ないようだ。ふっくらとしてエサは足りているようだ。けっこうなことだ。だから悠然としているの
だな。沖の方を見ると白波が立っているようだ。すこし風がでてきたのかもしれない。それもあって
漁船は早々に店じまいということなのだろうか。ぶらりぶらりとあたりを歩く。スーパーとも呼べな
いような店があった、すこし腹が減っている気がしたので入ってみることにした。焼きそばパンとカ
レーパンを買う。ついでといってはなんだが缶ビールも一本。しかしこの惣菜パンというのは日本的
にすぎるものだ。洋風とインド風と和風の融合なのか。いやいやそういうことではない。チャレンジ
精神の発露というか数学でいう順列組み合わせなのだ。などとパンを食いビールを飲みつつ本を読む。

N5318スイッチ

「睡眠の科学 改訂新版」櫻井武 講談社ブルーバックス ★★★★
一年ほど前に同じ題の著者の本を読んでいる。本書はその後の最新知見を加えた改訂新版ということ
だ。睡眠の科学の世界も日進月歩しているのだろう。人生における睡眠時間の平均を八時間とすれば、
人は一生の三分の一は眠っている。だからこそ睡眠は重要なのだともいえる。それに究極の拷問は眠
らせないことだともいう。そして眠りはヒトだけでなく哺乳類や鳥類でも必須のものなのだ。そんな
睡眠をわたしたちはしばしば軽視しがちである。またまちがって認識していることもあるのだ。

『試験前の勉強のとき、「寝ると忘れてしまうから寝ない」という人がいる。しかし、これは明らか
に間違いである。睡眠は記憶を強化することが古くから知られているのだ。』

これは睡眠をとったほうが記憶がより保持されるという実験結果がでているのだ。さらに、近年にお
いて睡眠中には記憶が保持されるだけではなく「強化される」こともわかってきた。眠りの重要性は
増すばかりである。無駄に起きているより寝たほうがいいというわけだな。その睡眠にはノンレム睡
眠とレム睡眠があることは最近ではよく知られている。そして両者は生理学的にみるとまったくちが
うものなのだ。このちがいは覚醒とノンレム睡眠がちがうものである以上に異なるものだ。ではどう
ちがうのかということになる。

『ノンレム睡眠は一般的に脳の休息の時間だと考えられている。まず、脳のエネルギー消費とニュー
ロンの活動は1日のうちで最低になる。脳波には、ゆっくりとした大きな振幅の波が記録される。こ
れは、前述のとおり大脳皮質のニューロンが同期生をもって活動しはじめることによる。ノンレム睡
眠時の身体の機能も特徴的である。脳の運動機能をつかさどる領域が全身の筋肉に命令を下すことが
少なくなるため、筋の活動は少なくなる。しかし、必要に応じて寝返りなど、運動することは可能な
状態にある。体温も下がり、エネルギー消費も少なくなる。自律神経系の機能では、交感神経の機能
が弱まり、副交感神経の機能が亢進する。そのため、血圧や心拍数は下がり、消化器系の機能が亢進
する。ノンレム睡眠時は身体も脳も休息状態にあるようにみえ、感覚系の入力の処理も覚醒時のよう
にはいかない。なにしろ中枢である脳が機能を落としているのだから当然である。しかし、感覚系が
完全に遮断されているわけではない。大きな音がしたり、周囲が急に明るくなったりすれば誰でも目
が覚めることを考えればわかるだろう。』

ノンレム睡眠はおおむね脳が休んでいるということだ。ではレム睡眠はどうなんだろうか。当然なが
ら、ノンレム睡眠とはおおきくちがっている状態なのだろうと予想できる。

『レム睡眠時の脳と全身の状態は、ノンレム睡眠時とは大きく異なっている。驚くべきことに脳は、
覚醒時よりも(それも難しい数学の問題を解くなどの知的な活動をしているときよりも)、活発に活
動しているのである。レム睡眠の発見以来、多くの研究者がその生理的意義の解明に取り組んできた。
それは、レム睡眠が非常にミステリアスな状態だからであり、また、第1章でも述べたように夢と関
係が深いからであろう。レム睡眠中に覚醒させると、そのヒトは、非常に詳細に見ていた夢の内容を
話すことができる。しかも、その夢は非常に不可解で奇妙な、そしてときにとても魅力的なストーリ
ーをもっているのである(浅いノンレム睡眠のときにも夢は見るが、内容は平板的で単純である)。
 レム睡眠時の大脳皮質は覚醒時と同等か、あるいはそれ以上に活動しているため、脳波は覚醒時と
非常によく似た、低振幅の速波である。このことから、レム睡眠はしばしば逆説睡眠(paradoxical
sleep)ともよばれている。また、レム睡眠時には脳幹から脊髄にむけて運動ニューロンを麻痺させる
信号が送られているため、全身の骨格筋は眼筋や耳小骨(中耳の小さな骨)の筋肉、呼吸筋などをの
ぞいて麻痺している。そのためレム睡眠時には脳の命令が筋肉に伝わらないので、夢の中での行動が
実際の行動に反映されることはない。ただ眼球だけは、不規則にさまざまな方向に動いているのだ。
これは夢の中で見ている何らかのものを、追尾してみようとしているかのような状態である。』

レム睡眠時には脳は活発に運動しているが全身の骨格筋は麻痺している状態である。これはよくいわ
れる頭ははっきりしているが体は動かないという「金縛り」そのものだろう。睡眠と覚醒を切り替え
る脳のしくみを考えてみる。詳しくは本書を読んでいただきたいのだが、覚醒、ノンレム睡眠、レム
睡眠の切り替えは、モノアミン作動性システムとコリン作動性システムの活動の組み合わせが変化す
ることによって行われる。アクセルとブレーキの関係のようなものか。

『覚醒は、モノアミン作動性システムとコリン作動性システムがともに活動することによって、大脳
皮質の広範な部分が刺激されて引き起こされる。
 ノンレム睡眠はモノアミン作動性システムやコリン作動性システムの活動が低下した状態であり、
そのために大脳皮質は広範に活動が低下してしまう。
 レム睡眠に入ると、モノアミン作動性システムは完全に活動を停止するが、コリン作動性システム
が強力に大脳皮質を(覚醒時とは別のパターンで)賦活する。このとき、前頭前野の一部(前頭前野
外背側部)などは機能が低下したままであるため意識は覚醒時のように清明ではなく、睡眠状態のま
まである。このことを言い換えれば、前頭前野を賦活するためにはモノアミンの働きが必要なのだと
考えられる。
 ちなみにモノアミン作動性システムは体温調節などにも必要なシステムであり、この機能が停止し
ていることは、レム睡眠中の体温調節機能がほぼ停止していることにも関係している。体温が十分に
保てないような雪山で遭難したときなどに、レム睡眠におちいっては生命の危険がある。』

「眠りにまさる癒しはない」などといわれる。病気のときには眠るのが一番の回復の手段なのはどう
いうことなのかもこう説明してくれる。

『感染症などで身体に炎症が起こると、免疫を担当する細胞からサイトカインとよばれる物質が分泌
される。この物質は視床下部に働くことにより、ノンレム睡眠を誘発する作用がある。』

だから病気でぐったりしているときなど眠くなるのだ。眠りにはこんな効果もある。

『「こころ」を病んでいるときにも眠りは最高の薬になる。睡眠中、とくにレム睡眠中はモノアミン
作動性システムがオフになることは第3章でお話しした。モノアミン系の神経伝達物質は長く作用し
ていると受容体の感度が低下してしまうことが知られている。それを防ぐために睡眠でときどき、モ
ノアミン作動性ニューロンを停止させているのだ、という説もある。』

ときどき世間話で「寝だめ」などという話題がでる。可能なのだろうか。

『覚醒中に、睡眠負債が脳内に蓄積していく。これを返済するのが睡眠である。だが、たまってもい
ない負債を返済することはできないし、プリペイドカードのようにあらかじめ払っておくこともでき
ない。つまり、寝だめはできないのだ。』

なるほど、少し残念な気がするがしかたがない。レム睡眠は脳内のファイルシステムの整理ではない
だろうかというのが最近の仮説だ。考えをすっきりとまとめるためにも眠りは不可欠なのだ。よく寝
る子は育つ、ともいうではないか。

「コロナと潜水服」奥田英朗 光文社 ★★★
人って人知の及ばないことを信じるとか信じないとかあるけど、自身に起きれば信じずにはいられな
いことってあると思う。そんな短編が五本編まれたのが本書だ。超常現象とか心霊現象とかいわれる
と眉唾な気がする。でも実際にそのような経験したらどんな感じなんだろう、それが本作だ。他人が
なんと言おうとわが信念を貫くしかないのだ。と思って生きていかなければ生き抜けない。傍から見
れば滑稽であろうがそんなの関係ない、のだ。「占い師」ではプロ野球選手の恋人、フリーアナウン
サーの麻衣子が登場する。彼はドラフト一位で将来を嘱望されていた。だが一年目に肘を故障する。
世間の風は冷たい。だが怪我から復帰すると大活躍、まわりは掌返しである。それにともなって女子
アナも彼に近づいてくる気がするのだ。麻衣子は気が気ではない。彼もはっきりとした態度をとらな
い。果たして彼と結婚できるのか。紹介された占い師に相談に行く。この占い師なんだかいちいち当
たっているのだ。だがこの占い師、実際には存在していないのだ。こんな気持ちが笑える。

『麻衣子の中で不安な気持ちが膨らんだ。もし勇樹があの女子アナに好意を抱くようなことになった
ら、自分は確実に捨てられる気がする。自分とあの女子アナの差は、バッグで言えばサマンサタバサ
とエルメスくらいのちがいがある。』

さて「コロナと潜水服」はどんな話なのか。サラリーマン夫婦と五歳の息子・海彦の三人暮らし。世
間はコロナ騒動で騒がしい。会社員の渡辺康彦は在宅勤務だ。康彦の岐阜に暮らす両親とはときどき
テレビ電話で話していた。あるとき息子が「バアバにスマホして」と強硬に言いだした。しかたなく
実家にテレビ電話をかけた。息子は「バアバ、今日はお出かけしちゃダメ!」と。あまりに強く言う
のでやむなくバアバは外出をやめた。その後その集まりでコロナ感染者が出てクラスターが発生した。
不思議な出来事はその後も続いた。息子にはコロナを感知できる能力があるのでは、というのがこの
お話しである。日本世情はまったく以下のとおりだなあと思う。

『日曜日、妻に息子の世話を頼んで新しいソフトウェアの講習に出かけた。最寄り駅から私鉄に乗り、
渋谷で地下鉄に乗り換える。出歩く人は日増しに少なくなり、時間が止まったようだった。康彦は日
本人の生真面目さに感心した。政府の要請だけで、多くの国民が言うことを聞くのである。テレビで
観たニュースでは、インドの警察官が出歩く国民を鞭でしばいていた。それはそれで痛快ではあるの
だが。』

さてなぜ潜水服がでてくるのか。コロナが不安になった康彦は防護服を買い求めようとしたがすべて
品切れ状態なのだ。苦肉の一策が、妻が古道具屋で買ってきた潜水服というわけだ。これを着て息子
と近所の公園に遊びに行く。いつしか有名人になってしまった。笑えるのだが生真面目な日本人の面
をも表している。しかし、心霊現象・超常現象をバカにしてはいけない。すべてが科学で解けると考
えるのは幻想なのだから。他の三作もそれなりに楽しめました。たまには気楽な本も読みたい。

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