ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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「初めての真鍋島紀行」(四)
 話し足りないと思う人は、船に移ってそこで話してもいいということであった。
眠い人は各自の部屋で寝てください、とつけ加えられた。
 多くの若者は、浜辺に据えられた木造船の部屋へと移動した。
この船は笠岡航路に就航していたということだ。
年輪の重みを感じさせる。
夜の闇のなかでは、視界を圧するような大きさだ。
船倉のような部屋に降りると、畳敷きになっていた。
部屋の真ん中に、母屋からやぐら炬燵を持ってきて据えた。
灯りは天井の白熱電灯があるきりだ。
柔らかな光が、温かさとともにみなの顔を照らしている。
 ひとつの炬燵を囲んで座れば、お互いの顔がよく見える。
まず初めに自己紹介だ。
大阪の高校生、群馬から来たという看護婦さんがいた。
岡山はNS女子大学の学生さん、大阪のOLだという女性など…。
いろんなところからそれぞれの思いで、ここ真鍋島に、三虎ユースにやってきた。
不思議を感じない訳にはいかない、そんな空気がある。
今まで多少なりとも旅をしてきて、多くの人々との出会いを経験してきている。
そんなときにはついぞ感じなかった懐かしいような気持ち、といえばいいのだろうか。
 この地球上には何十億という人が生きているのに、ぼくたちはここで出会った。
きっとこれから先会うこともないかもしれないが、この出会いを大切にしようと思った。
誰を愛しているとか好きだ、という感情以前にその根底を形づくっているものがある。
そんなものから、きっとこの思いは湧いてきたのだろう。
キリスト教の人類愛、仏教の慈悲の心、といった言葉がそうなのだろう。
 こんなことを考えていると、突然自己紹介の番がまわってきた。
実のところ、どんな話をしたのかなんてまったく覚えていないのだ。
感覚に残っているのは、楽しかったなあ、温かい気分になれたなあ、というばかり。
つまらない冗談でも笑える、おおらかな雰囲気がぼくたちをつつんでいた。

 いつのまにか夜は明けていて、目のあった者同士で砂浜にでた。
前方には、朝靄にかすんで、あとでその名を知ったが、佐柳島(さなぎしま)がみえていた。
この佐柳島には、その後幾度となく訪れるのだが、真鍋島よりもっとひなびた島なのだ。

佐柳島

 多度津行の定期船が佐柳港の少し沖合に停まると、小さなはしけが下船客を迎えに来る。
思わずこれに乗るのかと、おっかなびっくりはしけに乗り移ってやっと島に上陸できる。
はしけから今乗ってきた船を眺めると、随分と遠くまできた気分になる。
波止に降りたって、ほっと一息というところだ。
 港の近くに、店先に氷の幟が翻っている民家のような商店がある。
店に入ると、すぐそこにおばさんが座って針仕事をしている姿が目にはいる。
おばさんの前には、火鉢がでんと置いてある。
裁縫に使うのだろう焼きごてが灰にさしてある。
五徳の上には鍋がかけてあり、その鍋のなかには関東煮が見える。
 おばさんにビールを頼んで、自分で鍋のなかから卵とコンニャクと竹輪を皿にとった。
昼日中に飲むビールはなんて美味いのだろう。
関東煮もよく汁がしみこんでいてまずまずの味だ。
おばさんは話すでもなく静かに何かを縫っている。
着物のようだがぼくにはよく分からない。
店のなかの薄暗がりから明るい外を眺めると、ほのかな眩暈を感じる。
波の打ち寄せる音がすぐ近くに聞こえる。
それはこの島があまりに静かだからであろう。
 皿とビールのはいったコップを持って表に出て立つ。
玄関先の石段に腰かけて、まぶしさに目を細めて沖を見る。
白い海鳥が数羽海面を漂っていた。
いつしか温くなってしまったビールを一息に飲みほした。
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テーマ:真鍋島の愉快な仲間 - ジャンル:旅行

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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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