ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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「初めての真鍋島紀行」(十二)
 台所から出、ロビーの椅子に腰かけ、ぼんやりと窓の外を眺めていると、
大阪から来た今春高校を卒業したばかりというHK君が話しかけてきた。
「Oさん、いつまでいてはるんですか」
「そうやな、小豆島はやめるとしてあと二泊かな。H君らはどうするんや」
「もうちょっといてたいなあと思うんですが、友達も用事がある言うし、今日帰ります」
「そうか、淋しなるけどしゃあないな。帰ったら、家業を手伝うんやろ。頑張りや」
「ありがとうございます。ぼくは大学ゆう柄やないし、頑張りますわ」
「まあ、あんまり生真面目に考えんときや。大学も行きたくなったら、その時考えたらええねん」
「そうですね。真鍋島にきて良かったです。
いろいろ悩んだりしてたんですけど、すっきりしました」
「そうか。これからも、いろんなことで悩むこともあるやろけど、悲観的になったらあかんで。
どうしても目の前しか見えんし、案外つまらんことで悩んでたな、とゆうことが多いもんやで。
ぼくもあんまり偉そうなこと言えんけどな。ハッハッハ」
「ぼくは、やっぱりあいつが羨ましかったんや、ということが分かりました。
心のどこかで、大学にいかへんことが劣等感になってたんですね。
でも、それが自覚できました。なんかあいつとは、ほんまに友達になれると思いました」
 と、傍らにいる人の良さそうな友達を見やった。
彼は大学に進学が決まってる、と言っていた。
その彼も、ほっとしたように微笑んでいた。
「しかし、安心するのは早いで。これからなにがあるかわからんからな。
一人の彼女を取り合う大恋愛スペクタクルに、二人して巻きこまれるかも知れへんで」
 H君は、にっこりしながらこう言った。
「ぼくは、負けませんよ。でも、彼女は欲しいですね」
「ぼくも負けてへんで。そやなあ、彼女が欲しいなあ」
 と友達も大声で言って、お互い顔を見合わせて笑っていた。

「井伏鱒二の訳詩集に『花に嵐のたとえもあるぞ、さよならだけが人生だ』
というぼくの好きなフレーズがあるんやけど、
人生に於いて、別れとか別離とかは必ずついてまわる、ちゅうことやな。
嫌なこと考えたくないことなどに背を向けて知らんふりをしていたって問題は解決しない。
そんなときこそ、真正面から立ち向かっていかなあかん、とぼくは解釈してるんや」
「さよならだけが人生か、ええ言葉ですね。けど、厳しく辛いものですね。
でも、そんな心持ちがなんとはなく分かる気もします」
「出会いがあれば、別れがある。
当たり前のことやけど、つい忘れて生きてることが多いなあ。
理屈では十二分に分かるんやけど、そう思いたくはない。
そんなふうに無意識に行動してるんと違うやろか。
これではいつまでたっても問題は解決せえへんわな」
「そやから余計に出会いを大切にせなあかん、ということですね。
別れが辛ければ辛いほど、その出会いは自分にとって大切なものや、いうことですね」
「うまいこと言うやないか。
別れの意味を知る者が、出会いの大切さに思い至るんや。
別れだけやないやろ、人生のあらゆることに言えるんと違うかな」
「そんなふうに考えていったら、出会いっていうのも不思議な感じがしますね」
 身体の内部からなにかが湧いてくるのが感じられた。
「これからも一杯の不思議がぼくらの未来に大きな手を広げて待っているんやで。
お互いに負けんように精一杯頑張ろうやないか」
「そうですよね、ぼくもなんとか頑張っていけそうに思えてきました」

 帰り支度の整った人たちと共に、港へとユースの脇の坂道を登っていった。
坂を登りきったところで振り返って眺めれば、いろんな思いがこみ上げてくる。
心の中でなにごとかつぶやいて、港へとまた歩き始める。
 桟橋には早くも連絡船が到着していた。
帰る者たちはどたどたと乗り込んで、上甲板から顔を見せる。
H君は友達と共に、晴れやかな顔をしている。
「元気でな。また、会うことがあるかもしれんな。その時を楽しみにしてるで」
「ほんまに、ありがとうございました。皆さんもお元気で」
 送られる者が去って行き、送る者が次には送られていく。

三虎の桟橋

 送る言葉、送られる言葉が渦巻く喧噪のなかを船は片側に傾ぎながらいく。
桟橋を静かに離れた船は、早くも防波堤の向こう側まで進んでいる。
人の姿が判別できないくらいの距離になっても、オレンジ色のタオルを振っているのだろうか。
波間にチラッチラッとした動きだけが、いつまでもいつまでも見えている。
港には海水で色の滲んだ紙テープと、寂寥感だけが残った。
 三々五々散っていった人の後、桟橋に残ってぼくは北木島の方を眺めていた。
空に輪を描いて舞う海鳥が禅僧のようにも思える昼前の真鍋島だった。
ぼくは黙って一人、三虎への道を戻っていった。
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テーマ:真鍋島の愉快な仲間 - ジャンル:旅行

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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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