ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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「初めての真鍋島紀行」(十四)
 ぼくは、前の浜でぼんやりしていた。
単調な波の音が、ぼくを眠気に誘う。
碧い海はすべてを呑み込むブラックホールにも思えるが、
輝く光の中では、ぼくたちをやさしく包む母なる海とも感じられるから不思議なものだ。
こんなぼくの人生も、輪廻転生、宇宙の中ではほんの一瞬のことなのだ。

 この何日間かをともに過ごした数人が集まって、砂浜に並んで座った。
海を眺めながら座っていた。
「ぼく、明日帰ることにするわ」
「えっ、もう帰るの」
「本当に帰るんですか」
「そうや帰る。もう言うたって、明日で五日目やで」
「なんだか、あっと言う間だったわね」
「それはぼくの台詞やないか」
「あら、ほんとだ」
と口を押さえて、彼女はいたずらっぽい目をして言った。
「かなわんな。でもホンマに短く感じたわ。
未だ去り難しとかいうのは、こういうことを言うのやな。
なんか、H君の気持ちが今になってよう分かるわ」
「そうですね。H君はどうしてるんでしょうね。まだ帰ったばかりですけど」
「こんなふうに出会いと別れを積み重ねて、私たちは成長してゆくのね」
芝居がかって言わないと、思わず涙が出そうになる。
そんな気分につつまれているぼくたちだ。
「最後やからいうて、えらい決めようとしてるな。
そやけど、そういわれたらそんな気がするなあ」
「別れの辛さいうたら、小学校の仲が良かった友達が転校していった時以来ですかねえ」
ああ、この空気を壊さないと、本当に涙が出てきそうだ。
「私たち、今度はいつ会えるのかしら。ねえ、きっと必ず、会えるわよね」
「あのなあ、恋人同士でもないんやから、そんな変な物言いばかりせんといてや。
また会えるかどうかは、神のみぞ知るで、ぼくにはわからんけどな。
でもな、ぼくはこれからも真鍋島に、三虎に何度でも来ると思うで」
「そうよね。私たち、この島で、三虎で出会ったんだものね。
都会じゃなくて、真鍋島で会わなくちゃ意味がないわよね」
「それにしても、いろいろとよく喋り、語り合ったものですね」
「まさに夜を徹して、いろいろしゃべってたけど、何を話してたんや言われたら、
何をと答えられんなあ。いろんな事や、と言うしかないんやけどな」
「愛の囁きでなかった事だけは、確かね」
と、また茶化す。
「当たり前やないか。ぼくらはみんな友達やで。うーん、待てよ。
そやな、戦友や言うたほうが、なんか雰囲気がぴったりするような気がするわ」
「そうですね。なにかぴったりしますね」
「戦友なのね私たち。同じ穴倉で生き抜いてきたんだものね。アッハッハ」
確かにそうだ。船倉で肩寄せあって、同じ食物を分けあった仲だ。
「これからの長い人生、いろんな事があると思う。
ええ事も悪い事も、いっぱいぼくたちの上に降りかかってくるやろな。
そやけど、絶対に負けへんでいう気分や。
そんな気持ちを芽生えさせてくれたみんなに、感謝してるんやで」
「私たちの出会いっていうのは、考えてみれば不思議ね。
今までの人生で、お互いに何の接点も持ってなかったのにね。
こんなふうに仲よくなって、いろんな事を話したりして、自分でも不思議な感じがするわ」
「そやな。でも、みんなまたそれぞれの生活の場に帰って、
また三虎でとは違う人間になるんやろな、と漠然と思ってるんや。
けどな、今までの自分とは確実に違ってきてる、というところもあるやろ。
この気持ちだけは忘れたないし、忘れたらあかんと思うわ」
「まだ、はっきりとはわかんないけど、家に帰るとねえ。
また以前と同じ自分に戻るんじゃないか、という不安は確かにあるわね。
なんだか、更正施設から出て行くみたいだけどね。
でもせっかく、こんなに明るくて可愛い私になれたのにね」
と、潤んだ目でちょっとウインクをした。
「まあ、可愛いかどうかの判断は、他の人に任せるとしてやなあ、
そんなこと言われたら、なんか不安になってくるなあ。
真鍋島を船で後にしてやで、皆に盛大に見送られ、ああ帰って行きよったなあ、
と思われてたら、何のことはない笠岡でUターンして、
その足でまた戻ってきたぞう、となったりしてなあ」
「ありえる話よね。それにそんな人って、結構今までに何人もいたらしいわよ」
それでは、あまりにもかっこうが悪いぞ。

2003.07.05 三虎丸から

「ああいい天気だ」とぼくは大きな声で言って、後ろへごろんと寝ころんだ。
目を閉じると、この数日間のことが次々と浮かんでくる。
長かったようでもあり、また短くも感じる。
睡眠不足のせいで、断続的に眠気が襲ってくる。いつしか、短い眠りに落ちていたようだった。
目を開けると、春の日ざしがまぶしい。少しの睡眠でも、身体が軽くなったようだった。
「ぼく、寝てたのかなあ」
「すやすやと、おやすみでしたよ。時々、にやにやと笑ってもいましたよ」
と、O大学の大学院生が笑って答えてくれた。
「とても、幸せそうな顔してたわね」
「そうかなあ。ああ、いい気分だ。そろそろ、帰る準備でもしとこかな」
それを機に、みんなはそれぞれの思う方向へと散っていった。

ぼくはその場にしばらく残って、去ってゆく人たちを眺めていた。
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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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