ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
09 | 2017/10 | 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

早春紀行(一)山陰均一周遊券
 大学が春休みにはいり、ぼくは国鉄の「山陰均一周遊券」を手にしていた。
千里の学舎は学園紛争さなかであったが、旅にでることにした。
 その頃学生集会などにも参加したが、なにか馴染めないものを感じていた。
大学構内は道の両脇を立て看板が埋めつくし、その間を縫って教室へ歩いていく。
そのぼくたちにマイクをとおしたがなり声が降り注がれていた。
キャンパスでは連日のようにアジ演説が繰り返され、いつも騒然としている。
そんなこころ落ち着かない光景には嫌悪を感じていた。
 話される内容よりも、その語尾を変に上げる声調、奇妙な日本語が嫌だった。
ぼくは彼らの言葉に対する無神経さに、いらいらさせられどうしだった。
これは日本語なんだろうか、という思いがつねに頭にうかんできた。
こんなイントネーション、発音、アクセントがあるだろうか。
地方からの学生が多いといっても、方言とは全く違っている。
彼らは言葉を軽く見ていた。日本語を馬鹿にもしていた。そして日本語を粗末に扱った。
だから当然のことながら、思考をも軽んじる傾向をおびていた。
言葉のになう文化的意味を知らないというより、あえて無視していた。
 これは彼らの言葉になりきらない思いなのだろうか。
それとも、言葉にならない思いではあっても、世のなかの人に知らしめなければならない、
というジレンマに包まれていたためだろうか。
しかしながらそのためには、まさに日本語を使わざるを得ない。
そのことに苛立っていたのだろうか。
 彼らは聞く人に不快感を与えることを知っていながらそうしている節もあった。
とにかく、言葉に対しての見解の不一致の溝は埋められないと思った。
だから、必然的に学生運動にものめり込むことはないだろうと漠然と考えていた。

 ぼくが大阪駅の福知山線のホームに立っている頃には、大学のことは忘れていた。
乗客まばらな急行列車の自由席に座ってザックから文庫本を出してページを開いた。
ソルジェニーツィンの「イワン・デニーソヴィッチの一日」である。
ラーゲリやマローズといった言葉に、思わず身震いを感じた。
だが知らぬ間に黒いインクの一つ一つに連なる文字の世界に引きこまれていった。
遠くシベリアに思いを巡らしつつ、冷たいカップ酒をのんだ。
口に苦い酒を含みながら、とうてい実感とは成り得ないとわかった。
その思いは悲しいような淋しいような感覚と共にぼくをはるか遠くへはこんでゆく。
酷寒はわかり得なくとも、イワンの心情は理解できるだろうか。
 ソ連の体制がどうとかという問題ではない。
人が生きるとは何か、と思って読み進んでいた。

3669山は雪

 教育学科の教授のなかには共産主義に強く傾倒していると思われる人たちがいた。
普段は温厚な性格の教授もひとたび共産主義やソヴィエト連邦の話になると人が変わる。
ぼくにとっては狂信的とも思えるような面を現わすのだった。
進歩的といわれているような人たちの中に多かった。
見た目は紳士然としている人たちが大半である。
学生たちには指導も丁寧、親切で評判もいいのだ。
だが、ぼくには何か割り切れないものが残った。
 彼らは熱心に共産主義の素晴らしさ、その理想主義的面を説くのだが現実的ではなかった。
多分にお坊ちゃん的であり、狡賢い自由主義者の敵ではないように見えた。
ぼくは意地悪にも、だからソ連に亡命するということを考えたこともないのだろうと思った。
彼らの無意識は、その体制を批判することのできる日本の居心地の良さを知っているようだ。
なかばその実現を模索するよりは、主義を説く陶酔の中に生きているように、ぼくには思えるのだった。
 人間的には尊敬できる教授も、その思想には理解しがたいものがある。
彼らをしてこうあらしめる主義とは、なんと宗教に近く見えることだろう。
宗教となれば、その教義は科学的検証の埒外にあると言わざるを得ない。
そこからは、不毛な論争が引き起こされる以外に道が展けない。
お互いの前提を検証しあうことなしには、先に進めるはずがない。
しかし、その検証は論外である。
 そんな愚にもつかないことを思いつつ、列車の人となっていた。
スポンサーサイト

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
→http://moucheokuno.blog26.fc2.com/tb.php/919-6671b8fc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

ムッシュ

Author:ムッシュ
島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カレンダー

09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

カテゴリー