ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(二)余部ユースホステルの邂逅
 福知山を過ぎて線路はいつしか山陰線となる。
豊岡を通過すると、窓の外の景色も山陰の様相をいっそう濃く帯びてくる。
短いトンネルが続く海沿いをぬけて余部についた。
 日本海を望む駅に立って寒風にさらされた。しかし、寒さがこころよい。
空はどんよりと曇っている。地図を頼りに地道を歩き出した。
振り返って見れば、東洋一ともいわれる余部の鉄橋がそびえ立っている。
あたりには人の影もない。山陰という字づらさながらに寂しげだ。

2529余部鉄橋

 余部ユースホステルは、白いコンクリートの建物だった。
寒々としたたたずまいを見せていた。
部屋は二段ベッドでがらんとしていた。今夜の宿泊者は少ないようだ。
風の音が一段とさみしさをつのらせる。
 夕食の時間になり、食堂に行って、思わぬ人に出会った。
Uさんも突然のことに驚いたことだろう。
大阪で幾度か顔を合わせているのでお互いぎこちなく挨拶をした。
顔は見知っていても、親しく話したことはない。
彼女もどうしてこんなところで出会ってしまうのかと思っていることだろう。
 Uさんはちょっとエキセントリックな雰囲気をもった人だ。
ぼくは夕食の間も不思議な感覚に捉えられて「蟹スキ」もうまくは感じなかった。
でも、なんだかこれからの旅が楽しくなるような気もして胸がどきどきした。

「こんなところで会っておどろきました。ところで、これからどちらへ行かれるんですか」
「別に計画というようなものはないんですが、山陰をぶらぶら歩く感じですかね」
とぼくは相変わらずはっきりしない物言いだ。
「そうですか」
「Uさんはこんなところで、と言っては失礼ですがなにをなさっているんですか」
それには答えたくないようで、はっきりしない返事だった。
こんな調子だから話はなかなか滑らかには続かない。
 ぼくはあまり話しもせぬうちに疲れを感じて早々にベッドに潜り込んだ。
これからなにか良いことが起こる前触れだろうか、と考えさせられるような出来事だ。
外は風が吹いてきっと夜空は満天の星たちで埋めつくされていることだろう。
そんなことを考えているうちに、いつのまにか眠っていた。

 翌朝ぼくがでかける時に、Uさんが近寄ってきた。
なにも言わないでガラスの浮玉をぼくの前に差しだした。
その動作につられるように前へ手を出すと、そっと浮玉をぼくの手のひらにおいた。
薄青色をした、少しいびつな球形をしていた。
冷たい山陰の海を漂っていた、という感じがした。
漁網につけて浮の代わりに使うということだった。夜の海に漂うのが見えるようだ。
ぼくは顔を上げて小さな声で「ありがとう」と言った。彼女は黙って微笑んでいた。
かたわらに置いたザックの中からタオルを取りだした。
あたっても壊れないように浮玉をくるんでそっとしまった。

続けるべき会話の言葉も知らないぼくは、駅の方角へ向かって歩きだした。
少し歩いて振り返ると、彼女がぼくを見守ってくれていた。
彼女は声も出さずに手をふっていた。
それにこたえて黙って手をあげた。
「さようなら」の声もだせず、また駅に向かって歩きだした。
歩き始めながら、なぜか彼女がいつまでも手をふっているような気がした。
言葉ではないなにかがぼくに伝わってきている思いでからだがぶるっと震えた。
 それが幻想であることは十分承知しているのだが、振り返って確かめたくはなかった。
もうすでにそこにはなにも存在じないはずだ。かぶりをふって駅へと道をたどっていった。
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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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