ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(八)ユースホステルの戒律
 これを潮時と、ぼくは別れの挨拶をしてふたたび山陰路を西下した。
浜田を過ぎて益田へと列車は到着した。
ここで山口線に乗り換えて津和野へと向かう。
駅のホームでひとときの時間を過ごす。やがて、ゆっくりと列車が入ってきた。
列車は蒸気機関車が引っ張って、黒煙を残しながら山間を走ってゆく。
車内にはおおきな荷物を持ったおばさんたちがたくさんいた。
行商の帰りなのだろうか。数人ごとに蜜柑を食べながら談笑している。
この車内では時間がゆっくりと進んでいるような気がした。
木漏れ日の落ちる渓谷を縫うように列車は走ってゆく。
 津和野は小さな駅だった。田舎町の駅という感じであった。
町中の水路には、鯉が赤やオレンジの鮮やかな色を躍らせつつ泳いでいた。
津和野は小京都として人気がでてきた頃であったが、まだ人は少なかった。
ぼくは城跡の方角へとのぼっていった。山間部の小高い山の上に城跡はある。
上から遠くを眺めると、冬枯れた木々の間を列車が走っている。
米粒ほどにしかみえない機関車が灰色の煙を吐き出している。
暖かな日差しがわずかばかりの平野部にふりそそいでいる。
下からの上昇気流にのって鳥が数羽舞っている。
防寒ジャンパーの衿もとをすこし開いて、ぼくは冷たい風を懐によびこんだ。
持ち歩いていたスケッチブックをこの旅ではじめて開いた。
 蛇行する川にそって走る線路と、茶色に冬枯れた田畑を描こうと鉛筆をとった。
対角に位置する山脈は、くすんだ群青色ににじんでいる。
描き終わりスケッチブックを閉じて山間部のこの町をながめる。
はやくも陽は西に傾きはじめている。時計をみると、思ったより時間がすぎている。
あわてて津和野駅へと山をくだっていった。
 益田の駅にもどってくる頃には、あたりは夕やみに包まれはじめていた。
萩へと向かう列車はなかなか来なかった。
やっと萩についたときには、時計は6時半をこえていた。
急いで「萩指月ユース」へとむかった。ようようたどり着いて、玄関をはいった。

1544石垣

 そこに待っていたのは、厳しい表情をしたペアレントさんだった。
かなりの年輩で眉間にしわを寄せて立っていた。
ぼくのほかにも予約をしているという女の子二人連れが横にいた。
おもむろに、彼は口を開いた。
「予約をしているようですが、今日は泊めることはできません」
「約束の時間を過ぎているのだから、当然のことです」
「規律の守れないない人は、当ユースには必要ありません」
というようなことを、立て続けに大きな声で言われたような気がする。
ぼくはしかたがないなとは思ったけれど、女の子はなにも言えずに立ちつくしていた。
なんとか彼女たちだけでも泊めてあげてほしい、と言おうかとも思った。
だが勝ち誇ったような彼の表情を見ていると、なんだか腹がたってきた。
しかしここで喧嘩になってしまってはかえってまずい。
 ガラス戸越しに食堂らしき部屋にいるホステラーたちが見えた。
彼らも心配そうな表情をしていた。どうなるのだろうと見守っているようだった。
ぼくが見るところによると、旅慣れないような若者それも女性が多いようだった。
せっかくの旅行をこんなことで気まずくして、と可哀相な気がしてきた。
こんなユースに泊まったばっかりに、ユースの印象も悪くなるのだろうな。
 人を強権で従わせようとする考えが、ぼくには理解しがたい。
押さえつければ押さえつけるだけ反発するのは経験的によく知られたことである。
押さえつけて人を従わせようとする人は、自分に自信がないことが多い。
自分の考え信念で行動するのではなく、常になんらかの規則を楯にとる。
その規則は人が作ったものである。その規則に今度は人が縛られる。
そのおかしさに気がつかない。自己矛盾であろうとも無理にでも通そうとする。
彼には絶対的な後ろだてが必要である。それが彼にとっては規則である。
声の大きさと論理の正しさは比例しない。もしくは、反比例するかもしれない。
信頼による関係性の維持ではないから心の奥では常に不安がつきまとう。
不安が更なる強権の発動をうながすことは自然な流れだ。
イソップの「太陽と北風」は、このことの寓話だ。
 静かに、ぼくはその場を離れた。
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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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