ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(十)萩ぬるをわか
 西へと向かう列車に乗りこんだぼくはふたたび深い眠りに落ちていった。
どれぐらい眠っていたのだろうか。人の気配でめがさめた。
うすく目を開けると窓の外には朝の光がみちていた。
ぐっすりと眠ったあとの壮快感にからだの力がみなぎるようだ。
かたまった姿勢をほぐすように伸びをすると、肩の関節がゴリゴリと音をたてた。
旅行にでて四日目になった。

 萩に舞い戻ってきたぼくは町なかへと歩きだした。
昨日は気がつかなかったけれど、行き交う車がずいぶんと多い。
想像していた田舎町ではなかった。萩は地方都市の顔をみせている。
 どこへ向かうでもなくあてどなく歩いているうちに山あいの道へと迷いこんだ。
登り勾配の道沿いにミカン畑が続いていた。大ぶりのミカンは八朔だろうか。
畑の乾いた土のそこここに実が転がっていた。
摘み取る人もいない果実は哀れにさえ思えたが、そこからまた芽をだして育ってゆく。
植物は人の営みとは関係なく生きているんだ。
人にとってこの植物はどうだとかこの虫はどうだかとつい考えてしまう。
自分が人間ゆえにそうなるのだが、それが疎ましく思えることがある。
そんな気持ちが、ぼくをひとりでの旅にいざなうのかもしれない。
そう思ってミカンを見ると、そこには別の世界が感じられた。
 松蔭神社へとまわってみたが特別な感慨はなかった。
死んで神社に祭られるとは松蔭も想像だにしなかっただろう。
神社を興そうと思った人たちはなにを考えていたのだろう。
彼らは松蔭の思想に共鳴するよりは、松蔭の名を残そうとしたのだろうか。
形あるものがないと人は不安を覚えることがある。そういうことだろうか。
偶像崇拝と同根かもしれないな。アニミズムの根は深いといえるかもしれない。
人にとって、思想に殉じて生きることはむずかしいのかもしれない。
ましてや先達が亡くなってしまった後となっては。
 こうして各地に神社が興っていった。そしてそれはその社を管理する官僚を生じた。
神主とは官僚に他ならない。だからその組織も官僚機構ときわめて類似したものとなる。
やがて大義名分だけが史跡として残り、土産物屋が軒を連ねる。
なんだか馬鹿馬鹿しいけれど、これも人の生きる道だ。

2724緑葉

 疲れた気分でまた列車に乗って東へと向かった。
益田駅で山口線に乗り換えて山陽路へと南下する。
車内は行商帰りか、おばさんたちのにぎやかな話し声で満たされていた。
日本手拭いで姉さんかぶりにしてみんなでミカンを食べながら楽しげだ。
遠くから眺めていてもこちらまで楽しい気分にしてくれる。
日本のお母さんは、とても元気で明るくて強い。
津和野から山口を通過して小郡に着いた。

 ここから山陽線に乗り換え広島へ向けのぼってゆく。
列車がゆるやかに広島駅に入っていくと、都会の喧噪がまちうけていた。
久しぶりの都会という雰囲気になにかしら緊張した。
すれ違っていく人たちもどこかしら忙しげだ。
 混雑する改札口を抜けて駅前通りにでた。道路を渡ったところにバス停があった。
満員のバスにゆられつつ、いつ降りればいいのかと落ち着かなかった。
つぎつぎにやってくるバス停ばかりを目と耳で確認しながら、やっと目的の場所に着いた。
広島ユースへの道をハンドブックで確かめて、住宅の立ち並ぶ道を山のほうへ歩いていった。
 坂道を上りきった左手にユースの玄関が見えた。
のんびりと風呂につかって、夕食もそこそこに床についた。
明日はいよいよ上下というところにある「MGユース」に行く。
どんなところなのだろうと考えるうちに、疲れがいつしかぼくをつつみ眠りに引きこんでいった。
 夢を見た。夜中に目が醒めた。二段ベッドの下で上半身を起こして息をついた。
恐ろしい夢ともいえない。楽しい夢ともちがっている。不思議な夢だった。
ぼくにとっては悲しい夢かもしれない。道でもない空間をただ進み続けるのだ。
歩いているのではない。駆けてもいない。ただ空間を移動してゆく。
先に何があるのかはわからない。風景のない空間をひたすら通過してゆくだけの夢。
悲しげな気分だけがいつまでもぼくをとらえてはなさなかった。
ふたたび眠りにつけたのは、それから二三時間も経ってからのことだった。
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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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