ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(十三)山中の関東だき
 三原で列車を乗り換えて福山をめざす。
尾道の手前から列車は海沿いをはしる。
瀬戸内の海は春の陽光をうけてきらめいていた。海面からの照りかえしがまぶしかった。
尾道の造船所のわきをすぎ向島大橋の下をくぐって、やがて福山駅へとついた。
駅のすぐ北側に福山城が見えている。
ここでまた乗り換えである。福山からは福塩線で北へむかう。
福塩線では列車ものんびりとはしる。乗客もゆっくりと移動する。
駅での停車時間もながい。時間もゆったりとすすむ。
 途中の駅で、列車のすれ違いだろうか長く停車するとアナウンスがあった。
列車の中にいるのも退屈なのでホームに降りたった。静かな午後である。
なんの気なしに改札口を出てあたりを見渡した。
すぐそこになんでも屋といった店があった。駅前を行く人はなかった。
店先には大きな鍋がコンロにかけられ、なかでは「関東だき」がにえていた。
つゆは黒く、すじ肉の脂が浮いている。
ひときわ胃袋を刺激するにおいが漂ってきた。
じっと見てみると、卵には汁がしみこんでしろみが茶色くなっていかにもうまそうだ。
いろんな具材を突きさした竹の串が飛びだして針山のようである。
とたんにお腹がすいてきた。生つばもこみあげてくる。
誰かいないのかなと、店内を見まわすが人の気配がない。
仕方がないので、奥にむかって大きな声をかけた。
「すみませ~ん。誰かいませんか~」
頭に日本手拭いをかけたおばさんがエプロンで手をふきながらでてきた。
「はい、はい。なんかいねえ」
ぼくは卵とコンニャクの串を手にとって、
「これをください」、と言った。
「このまま、食べるんかいのう」
「ええ、このままでいいです」
「芥子はそこにあるけえ、好きなだけつけたらよかろう」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
ぼくがお金を払うと、おばさんはまた店の奥へと消えていった。
串を両手に持ってあたりを見わたすが、誰もいない。
駅舎の壁にもたれながら関東だきを食べた。
背中にじんわりと木のぬくもりが伝わってくる。
太陽の光はまぶしかった。
関東だきはうまかったが芥子がツンと鼻にきた。涙がにじんでくる。
そのうちに発車時刻も迫ってきた。
無人の改札をぬけて列車の座席にのそっともどった。
ゴトリと動きだした列車の窓から、じっと動かぬ町並みがみえた。
ピィーと、ディーゼル機関車の出発音があたりにおおきく響いた。
見知らぬ町から遠ざかりながら、ぼくは大きく深呼吸をした。

0006造船所

 上下駅に降りたって山のにおいをかいだ。冷たい空気が気持ちがいい。
なにもない場所だというのがよく分かった。
MGユースに着いて荷物をおろし、受付でたずねた。
「ママさんは、いらっしゃいますか」
「ごめんなさい、出掛けているんですよ」
「そうですか。それじゃあ、仕方ないですね。お世話になります」
 話にはよく聞くMGのママさんには、会ったことがなかった。
会ってどうということではないが、会うことによってより鮮明になるものがあると思う。
ホステラーの噂話にはよく出てきた。なにもないところにあるユースホステルだという。
なにもないといっても、それは都会の人のいうなにもであって、自然ならある。
名所旧跡などはないということだ。でも、素晴らしいのだという。
なにが素晴らしいといって、人のこころの優しさあたたかさ以外にはない、ともいう。
みんながそれぞれの力をあわせてことを成し遂げる。
どんなときにも笑顔を絶やさない。ここはみんなの故郷なのである。
いつでも帰ってくることのできる、懐かしい故里だ。
その話ぶりには理想郷をにおわせるものがあった。人は帰る場所が必要なのだ。
心や魂には帰るべき場所があり、そんな場所だというのだろうか。
だから、到着した人には「お帰りなさい」、出かける人には「行ってらっしゃい」と声をかける。
ユースホステルの原点であり、なるほどというしかない。
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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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