ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(十六)真鍋島航路
 上下駅をはなれふたたび福山駅を経て、列車を乗り継ぎ笠岡駅に着いた。
改札口を通り抜けると、懐かしいようなにおいがした。
あいかわらず駅前のパチンコ屋は民家のようなたたずまいであった。
ガラス戸越しに歌謡曲が漏れ聞えてくる。笠岡に来たんだという実感がわいてくる。
駅前の商店が散在するせまい通りを抜けていった。
階段をのぼって跨線橋に上れば、いっそう強く潮のにおいがした。
風にも肌にまとわりつくような湿気を感じる。海が近いのだ。おおきく息を吸いこむ。
国道二号線を横断する歩道橋を駆けあがって海側へ降りた。
連絡船の乗り場には、すでに大勢の人があふれていた。にぎわいと人声が渦巻いている。
混雑する待合室の窓口で切符を買って早足に桟橋へとすすんだ。
すでに乗船がはじまっていた。木造の「衣笠丸」には多くの客が乗りこんでいた。
上甲板の後方に席を確保して腰をおろした。エンジン音が響くなか、船は桟橋をはなれた。
船体をぐるっと回して、舳先を島々に向け風をきってすすんでいく。
なんどもきた途を、船はガタガタと騒々しい音をたてながらいく。
 神ノ島、高島といくつかの島を過ぎて白石島に着けば航路も半ばである。
二時間の船旅もめまぐるしく変化する船外の景色で長いとは感じられない。
北木島の楠木港から大浦を経て島の突端を曲がれば、海面の向こうに真鍋島が見える。
二つの山の盛り上がりが、ひょっこりひょうたん島に似ていなくもない。
 島と向かいあって潮風をうけていると、いろんな感慨がわいてくる。
はじめてこの島に来たのは去年の三月だった。大学入学が決まった後でのことだった。
その後いくたびとなく訪れた。そして、いろんな人たちに出会った。
いろんな思いを知り、いろんな考えに出会えたのは楽しかった。
ぼくの思いは人々に伝わっていったのだろうか。
 こうして山陰を旅してくると、生まれた町に帰ってくるような感じがした。
この島で出会った人たちに、また会えると期待もふくらんでくる。
誰が来ているだろうかと思うと、はやる気持ちで落ちつかなかった。
船べりから身を乗りだして、春の靄にかすむちっぽけな真鍋港を見つめていた。
波しぶきが頬をかすかに濡らしている。小刻みな振動が船べりから伝わってくる。
やがてエンジン音が低くなって、船は惰性で静かに港のなかに入っていった。
桟橋上には多くの人々がひしめいていた。
スクリュウの逆回転音がするのを合図に、ぼくは身軽に飛び降りた。
集札のおばさんに切符を渡し、人々の脇をすりぬけて島に上陸した。

0006真鍋島本浦港

 昨年からマスコミにも数多く取りあげられ、花の島のイメージが喧伝されていた。
そのためもあるのか、多くの人たちで賑わいを見せていた。
ここ瀬戸内の真鍋島ははやくも春爛漫の様相を見せている。
混みあった桟橋をぬけ海沿いの道をたどりながら、乗ってきたばかりの船をさがした。
防波堤の向こうで、衣笠丸はすでに笠岡へと船首をもどしていた。
ゆっくりと一歩づつ踏みしめるように石組みの坂道を上ってゆく。
風は冷たかったが、陽の光はまんべんなく地上に降りそそいでいる。
生命あるものたちの活動をうながすかのような明るくやわらかい陽射しだった。
道のそばにそびえ立つ柿の木はまだ葉を茂らせてはいない。
この樹と対峙するとき、いつもこころに響きわたる声がある。
「しっかりしろよ、挫けるんじゃないぞ」
そんな声に、じんと気がひきしまる。わきをゆっくりとした歩調ですぎる。
振りかえらずに歩き続けながら、遠くの空を見る。雲の白さと空の青がまぶしい。
また真鍋島にかえってきた。
 道を右に緩やかに曲がればすぐ下方にユースの建物が見えてくる。
不揃いの階段状の坂道を注意しながらも、いっきに駆けくだる。
台所ドアから話し声がもれてくる。おばさんの声だ。そのまま玄関へと回りこむ。
重い鉄の扉を開け、土間に靴を脱ぎすて階段をかけあがる。
ザックを投げだして、ノブを持ちあげ気味に台所の戸をあけた。
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【2011/02/19 18:24】 | # [ 編集]

Re: タイトルなし
☆鍵コメさん、そうですね。
楽園というのは現実には存在しないでしょう。
存在すると、かならず瑕疵がみつかってしまう。
だからいつまでも追い求めている。
そういうものではないか、と思います。
想い浮かべてるときがしあわせなんだと。
ある意味、恋愛と似ているかも(笑)。
【2011/02/20 10:47】 URL | ムッシュ #- [ 編集]


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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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