ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(十七)台所ラプソディ
 ノブを手にしたまま、身を乗りだして挨拶する。
「おばさん、こんにちは」
おばさんはすこし驚いたような顔で、
「まあ、よく来たわねえ」
ぼくは台所の中を見まわしながら、
「ああ、疲れた。おじさんは、どこ?」
おばさんは、笑いながらこう言う。
「さあ、どこでなにをしてるのかしらねえ。コーヒー飲む?」
「うん、ありがとう。うすめで、砂糖なしでね」
おばさんは仕事を片付けつつ、やかんに湯をわかす。
「はいはい、分かりましたよ。あなたが来ると賑やかになるわね。
元気だった?今日はミーティングの司会をするの」
長椅子にうえの荷物を勝手にかたずけて、ぼくはどっかと座る。
ここがぼくの一番落ち着ける場所だ。でも、これってどういうことなのだろう。
「どうなるのかな。誰もやる人がいなければ、やってもいいけど。
ひさしぶりにやってみるかな。かわいい娘がいれば、やる気がでてくるんだけどな」
「可愛い娘さんはたくさんいるわよ。それより、あれはなんといったかな。
あの歌よ、いいわねえ。みんなで重唱する、そう、『ロックマイソール』よね」
「へえ~、おばさんあの歌知ってるの」
「知ってますよ。ここでヘルパーの女の子たちが、ときどき歌ったりしているもの。
それにね、あなたがミィーティングの司会してるときは、ここまで聞こえてくるのよ。
いつもこっそりのぞいているのよ。楽しいのは大好き」
おばさんは楽しそうに笑いながら、コーヒーカップを渡してくれた。
一口のんで、声をださず息だけついた。
「ふー、やっぱり、なんとも言えんなあ。
このほのかな塩味が、真鍋に帰ってきたっちゅう感じがする」
おばさんは静かに笑っている。
そこにどやどやと人が入ってきた。たちまちにして台所は満員御礼である。

 10数人も入れば満員になってしまう広さなのだがら、仕方がない。
しかし、みんなはここに入りたがる。ぬるま湯のように一度入ると出にくい。
なにかしら落ち着くのであろう。かく言うぼくも同じ気持ちだから、よく分かる。
とにかく入ったが勝ち、だから遠慮をしていると居場所は見つけられない。
やっと空いたと思っていても、すぐに人がやって来る。
遠慮は無用だ。しかし、初心者にはそのタイミングがむずかしい。
ぼくはなぜか最初からその思いを経験していない。適材適所ということか。
 だからといって、にぎやかな奴ばかりが集まるかというと、そうでもない。
台所の隅っこでそっと仕事をしながら、背中だけで笑ってる人がいたりする。
みんなの話の輪に入らなくても聞いているだけで楽しいのだ。
この台所にいるだけで、こころ安らぐというのだ。
一生懸命しゃべる人の顔を見ているだけで、愉しいという。
人の目を見てしゃべることなぞできない、という人がである。
人の顔ってほんとうに変化に富んでいるんですね、などという。
それが不思議なんですよね、自分が自分でないみたい、ともいう。
そんな不思議な空間なのである。
 だからいつだって人でにぎわい、笑い声がたえない。
そんな笑い声に誘われて、また人がやってくるという塩梅だ。
なかなかの激戦区、人口密集地帯なのである。

 元気な声が台所に響き渡る。
「わあ、来てたんですか。お久し振りです。どこか行ってたんですか」
「そうや、山陰の余部、萩、津和野方面から広島回って、昨日はMGユースやったんや。
いつ以来かなあ。久し振りの三虎やけど、人が多いのでちょっとびっくりしたわ」
「だって、もう学校は春休みになってますからね。それに、お天気もいいですからね」
「今年の植樹祭は、参加者も多くて大盛況といったところでしょうね」
 人の多いのはいいけど、準備は大丈夫かな。
「ということは、草刈りの人出も確保できてるというわけやな。
夏の暑い盛りに野鳥の森に行ったけど、それはすごい雑草やったぞ。
それとも事前に草取りをしたっちゅう、奇特な人でもおったかな」
「そうなんですか。それは多分してないと思いますよ。
じゃあ早めに行って、草刈りをしとかなきゃあいけませんね。
でないと、坐る場所も確保できませんしね」
「そういうこっちゃな。君ら若いんやから、青空の下でおおいに労働しましょう。
健全なる肉体に、健全なる精神は宿る、やったかなあ」
「そんなあ、まだまだ若いじゃないですか」

0114桟橋
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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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