ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(十八)はるかな青春
 台所の外の木立では小鳥がさえずっているようだ。かすかに聞えてくる。
その鳴き声に耳をそばだてたときだった。
「は~るよ、こい。は~やく、こい」
 なんとなく間延びした歌声が聞えてきた。あの声はOさんだ。
背が高くて、多分180cmはこえている。黙っていれば、二枚目半ぐらい。
しかし、東京の人に似合わず間を空けたのんびりした話しかたをする。
そのひょうひょうが、歌声とともに台所にやってきた。
「あっ、元気~」
「Oさんも、元気ですか」
綿入れのちゃんちゃんこを着て、懐手をしながらいう。
「まあね。でもなんだか寒いから、早くはるが来るといいね」
「そうかなあ、確かに山陰側はまだまだ寒かったですけど。
こっちの瀬戸内側はそれに較べたら、けっこう暖かいですよ」
「そうじゃないの。人ってのはね、こころの芯からじんと来ないと、暖かいと思えないの。
それにはるって、きっと海を越えて来ると思うんだ。いつ来るのかなあ」
「そう言われたら、そうかも知れませんね。なるほどね、海を越えて春がくるか。
顔に似合わずロマンチストなんですね」
「顔に似合わずは余計だけど、そんなのじゃないよ。ハッハッハ」
とあいかわらず歌うような抑揚で、のびやかな雰囲気をも連れて台所をでていった。
 ぼくがドア越しにそっと見ていると、彼は廊下から海を眺めていた。
木枠のガラス窓越しに、メガネの奥の眼をしばたかせて、じっと見ている。
海の向こうを、そのまた遙か先を見ているかのようだ。
視線を感じたのか、つと振り返りぼくと眼があうと、にっこり微笑んだ。

2384桜に目白

 その場に居合わせた連中は、しばらくぽかんとした顔でいた。
「不思議な人やなあ、Oさんは。東京人て結構変わり者が多いからなあ。
人口比で考えたら、それもありなんとは思えるわな。あの芒洋感、いいよなあ。
のんびり感が伝染してきそうやな」
「そうですよね。こっちもそんな心持ちになってきますよね。それに真鍋に似合ってます」
「そうやな、そういうことやな。それに、なんかしら幸せそうな顔してはったわ」
おばさんは口元を隠しながら笑っていた。
「Oさんて、ほんと楽しい人ねえ」
「まわりを明るく楽しくする人は結構いるけど、ほのぼのとさせる人ってのは希少なんや。
けどなあ、人は外見ではわからんもんなんやで。あれで結構Oさん、曲者かもしれへん」
「そんなものですかねえ。どこか怪しいところが、あるんですか」
「具体的にどことは言えへんけどな。でも、人は見かけによらん、言うやろ。
そやから、世の中おもしろいのと違うか」
「例えばどんなふうにですか」
「例えばやな、ぼくの見かけの印象と、実態はおおいに違うんやで。まあ、正反対といってもええなあ」

 そのとき、ぐいっと身を乗り出してKが言う。彼女には大阪特有の、ざっくばらんがある。
それになぜか、Kはぼくのことをお兄ちゃんと呼ぶ。
「お兄ちゃん、それって、どういうこと」
「こういうことなんや、ええか。ぼくは外交的か、内向的かどう思いますか」
「そんなん、やっぱり外交的に決まってるやんか」
「そやろ、そう思うやろ。ところが、ぼくは内向的なんや。ねえ、おばさん」
「さあ、どうかしらねえ」
とおばさんは声も立てずに笑っている。
「そんなことってないわ。だって、こんなによう喋っているやないの」
「ぼくはねえ、こうやって喋りながらじつはすごいプレッシャーを感じているんやで。
だれか他に喋る人がいたら、ぼくは喋りたくないんや。どちらかいうたら聞いてる方が好きやわ。
そやから仕方なく喋っているという面もあるな。沈黙に弱いんかなあ。
それに、美人の前やととんと意気地がない。話も途切れがちやし、冗談もよう言わん」
と声に出してしまってから、まずかったかなと気づいた。
「それって、あたしらがブスってことの婉曲話法なんやないの」
友だちもそれに和して言いつのる。
「わあ、ほんまにそうやわ。すっごい失礼やわねえ」
「ちょっと、待てよ。なんかしらんおおいなる誤解があるようやな」
「これから、最後の弁明ですね」
と合いの手も飛んでくる。
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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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