ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(二十)出会いは突然に
 そろそろ夕食の準備の時間になってきた。みんなも思い思いにその場をさっていった。
ぼくも台所を出て、ホールのパイプ椅子に腰をおろした。
周囲での楽しそうな会話が聞えてくる。ざわざわと音が高くなったり、低くなったりしている。
波打ちぎわに佇んでいるような、そんな錯覚にも陥りそうだ。眠気もおそってくる。
倉敷の高校生のK君もやって来て、ぼくの隣にすわり、あたりを見回している。
別に話すでもなく、のんびりと隣りあっていた。
都会の雑踏のように人が行き交う。窓の外でははやくも陽が傾いてきた。
そこへDさんがやってきた。
「やあ、ひさしぶりだね。元気にしてるの」
「ええ、おかげさんでなんとかやってます」
「ところで、今日のミーティングはどうする?」
「どうするって、どういうことですか」
「司会をどうするかってこと。二人で半分ずつやろうか」
「そうですね。どうせ、おじさんの話は遅くなりそうですしね。ぼくはいいですよ。
それじゃあ、ぼくが最初にやりましょうか」
「いやあ、後はやりづらいなあ。やっぱりぼくが最初にやるよ。
後半をやってくれないかな。それでいい」
「どちらでもいいですよ、わかりました」
「それじゃあ、後でゲームはなにをするか教えるね」
「べつに、いいですけど」
「そう言わないでよ。いまから計画を立てるから」
そう言って、Dさんは白い紙を前にして腕組みをした。
Dさんは東京の大学生だった頃からユースホステルをつかって旅をしたらしい。
田舎が三重県の志摩地方だと聞いたように記憶している。
ゲームなどもたくさん知っていた。指導者講習などにも行ったのだろうか。
 肩ごしにのぞくと、番号をふった横に次々と曲名、ゲーム名を書いている。
ぼくもよく知っている「ギッチョンチョン踊り」や「チェッコリサ」の字が見える。
彼の動きはどこか怪しげである。日本舞踊のようで、そうではない。
ダンスかというと、それもしっくりこない身体の動かしようなのだ。
眼を閉じると彼の声と動きが思いだされ、ついしらず頬がゆるんでくる。
独特のイントネーション、東京の人とも思えない野暮ったさが、逆に安心感をあたえてくれる。
がっちりした身体からは想像もできないような、やさしい話し方をする。
すこし鼻にかかった声が、耳の底に残っていた。
 Dさんの司会は正統派である。ぼくにはとても真似ができない。
また、真似をする必要がないことも知っている。ぼくにはぼくの方法が、考えがあった。
なにも考えていない訳ではないのだ。いろいろと考えているのだ。
ただ、彼のようにきっちりと事前に進行表を作るようなことはできない。
大きな枠が決まっていれば、それでいい。そのとき感じることを話したいと思う。
性格の違いもあるだろうが、ぼくと彼ではミーティング感がちがっていた。

 ぼくがそんなことを考えていたとき、視野の片隅をよこぎる人がいた。
胸がどくんと脈打った。なんだか坐っていられずに、その場で急に立ちあがった。
ハッと気がついてすぐに座り直したが、頬が火照ってくるのがわかった。
 ぼくが見つけたのは、ボブヘアーの高校生らしき女の子だった。
スリムのブルージーンズにグレーのプルトップ・セーター姿、若さが息づいていた。
ベラドンナの瞳にとらえられたかのように、ぼくは魅せられた。身動きもできない。
脳裏に残像がゆれるなかで、ただ呆然と遠ざかる後ろ姿を見つめていた。

5225三虎に咲く花
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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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