ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(二十七)青春の鉄路
 気をとり直してゲームをはじめよう。
「これからはじめるゲームは、スキンシップそのものです。
ただし、マナーというかルールは守ってください。おいおい説明していきます」
といって、全員を隣同士くっつくくらいの間隔で輪になってすわってもらった。
正座をして、車座になる。おたがいとなりとの距離は最小限度しかない。
両手を膝のうえに置いて、端座している。すこし窮屈そうに両隣を気にしている。
夜になればまだひんやりとする季節だから、人の体温はあたたかく感じる。
「たまには正座して、日本の文化を実感してみるのもいいでしょう。
足がしびれそうな人は、やや前に重心をかけてすこしお尻を浮かせておきましょう。
いま、みなさんの脚、つまり大腿部が円をなしています。じっくりと観察してみましょう。
じつに多様です。長いのやら、短いのやら、細い、太いといろんな脚がそろっています。
自然は多様ですね。人間も自然の一部分です。みんな同じだとつまらん、ですよね。
なにがいいかは簡単には決められませんよ。それぞれに利点があるでしょう。
すらっと長くて白いのがいいとは限りませんよ。太いのも、おいしいですね。
なんの話かって、大根ですよ。話が脱線してしまいました。戻しましょう」
みんなは苦笑いの表情である。
「この大腿部を、ピアノの鍵盤と見立ててみましょう。いいですか、わかりましたね。
みなさん、自分の大腿部、この言い方やめましょう。いいづらいです。脚でいいですね。
自分の脚に両手を置いてください。別々にね、手は重ねないでください。
これですべての脚が手で押さえられています。となりの人の脚に手を置いては駄目ですよ。
最初は自分の脚に置いてください」
横を見ながら真剣な顔をしている。
「これからみんなで歌を歌います。『汽車汽車しゅっぽしゅっぽ』の歌です。
懐かしいですね。あほらしいと思わないでください。人間、無邪気な時間も必要です。
ではこれからどうするか、説明の佳境にはいっていきます」

 歌ははじめはゆっくりと、だんだんと速くしていく。説明しながら、歌ってみせないといけない。
ぼくの歌はうまくない。自分でわかるから、なにか変化をつけたいと思わずにはいられない。
駄洒落はあまり好きではないが、ぜいたくもいっていられない。
「列車の車輪がですね、ゆっくりと動きだします。ゴトン、ゴトン…」
手をおおきく回しながらいったところで、どこからか、
「ジュットン」
と合いの手がはいる。
「なるほどね。よく知ってますね。5トンプラス5トンで、10トンですね。
先にいわれてしまいました。やりにくいな~。けど、負けへんで。さあ、頑張ってやるぞ」
こんなことで、めげてはいられない。
「この歌のリズムにのって、1で膝の上の手をまず右へ移動します。
脚一つ分ですよ。ふたつ一ぺんは駄目です。反則です。
それから、動かす手はあまり強く脚を叩かないように。腫れたら困ります。
それに移動した手をとなりの人の太ももの上で前後に動かさないように。
それもルール違反です。わかりましたか。あたたかいぬくもりが伝わってくるでしょう」
動作を演じながら説明を続ける。
わあ嫌だ、エッチ、と女性の喚声があがった。
「エッチじゃないの、ふれあいなんです。これがスキンシップというものです。
で今度は自分のところに戻って2です。3で反対方向へ移動して、4で戻ります。
これで一回転しました。あとは、これを繰り返すだけです。
お隣さん同士、別け隔てなくスキンシップできましたか」
 ぼくの声がおおきく部屋の天井に反響した。
熱気がさらに一段とあがって、笑い声もおおきくなってきた。
静まるのを待って、いよいよ本番が始まる。右手をゆっくりと上下させながら、歌う。
ゆっくりしたリズムで、膝の上の手の動きも後を追ってくる。
徐々に徐々に、歌の速度をあげていった。みんなは歌に遅れまいと、手を動かす。
ふとももを叩く手の音が部屋なかを駆けめぐる。
歌う速さがこれ以上は無理だというときに歌詞も終りに到達した。
ため息と運動後の疲れと汗が入り交じって、独特の空気をつくっていた。
「はい、お疲れさまでした。足を崩して楽にしてください。
輪もすこしおおきくしてもいいですよ」
 どっと吐きだされるようにゆるんだ息が部屋を支配する。
はあはあという息の音以外はしばらくなにも聞えなかった。

2536線路
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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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