ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(三十二)見返り峠を越えて
 あの子はどこからやって来たのだろう。友だちも一緒なのだろうか。
高校生のようだが何年生なのだろう、とつぎつぎに知りたいことがうかんできた。
 きょうは野鳥の森へみんなして行くといってたから必ずどこかで会えるはずだ。
そう思うと今日一日がとてもすばらしい日のように感じてくるから不思議なものだ。

 朝の食事が終わって、大海原に集合してくださいと案内があった。
これから行なわれる「野鳥の森の植樹祭」の趣旨説明などがあった。
Sさん(総裁と呼ばれていた)が、豪快に竹筒をわって寄付金をとりだした。
小銭ばかりのなかに千円札も何枚かまじっており、期せずして歓声があがった。
この竹筒は受付の横にあったのは憶えているが、なんのためかは知らなかった。
 今年で2回目だか、3回目だかということで、もちろん桜の苗木は育っていない。
将来的に、ここで花見をしよう。満開の桜の下でみんなと再会しよう。
頭のなかで思い描くだけで、実際の現地はいまだ雑草生い茂る土地でしかない。
 そんなことでくじけるような若者たちではない。きっといつか桜の花は咲く。
風が吹けば花びらがはらはらと散り、空を見あげれば青が眼にしみる。
なんてすばらしい光景なのだろう。こここそが地上の楽園のようにも思えてくるのだった。

0011見返り峠

 玄関に三々五々集合してきた連中から、順次出発していった。
列をなして、坂道を登っていく。ぼくは高校生のK君とならんで歩きはじめた。
まだはだ寒い春の日だった。坂を登る人のなかに、ぼくは彼女を発見した。
焦る気持はないのだが、自然と足が早くなっていくのが自分でもわかった。
途中、追い抜いて前へでることもできず、しかたなく列のなかで遠くに彼女をみていた。
細い道を一列で進むぼくたちは、うねりながらそれでもときおり喚声をあげたりした。
下りにかかって列が乱れたかけたところで、すこし前へ移動した。
港へと通じる道になれば幅もひろくなる。やっとのことで彼女に追いついた。
幸運なことにひとりだ。これからどうしよう。さあ、ぼくは困った。
 すると、K君が先に彼女に声をかけた。
「こんにちは、久しぶりですね」
「わあ、Kさん、お久しぶりです」
 そう言って、ぼくたちの方をふりむいた。すでに知りあいであったようだ。
「あ、昨日ミーティングの司会をしてた方でしょ。
はい、憶えています。とても面白かったです。よろしくお願いします」
「どうも、こちらこそよろしく。いやあー、いい天気になったね」
 全然空など見もしないで、自分でも何を言ってるのかわからない。
「えっ、なに言ってるんですか、曇ってるじゃないですか。
でも雨は降りそうにはないし、これから晴れてくるかもしれませんね」
「あのう、大学生なんですか」
「はい、関西の大学に通っています。歳はくってるけどね」
「ふーん、そうなのか。そうですよね」
「あ、Tさんは広島の女子高の二年生、四月からは三年生だよね」
「そうです、進路どうしようかなって悩んでます。一応、進学するつもりなんですけど…。
相談するが人いなくって、どうしたらいいのか困ってます」
 こんなとき、ぼくが相談にのるよとか言えばいいのだろうが、うわの空だった。
そんなことより、ああすこし広島訛りがあるんだな。
なんだか石鹸の匂いがするよな。かわいいし、すなおそうだし、すれた感じもないし。
きっと真面目な子なんだな。勝手にそう思いこんだ。
このあたりの空気をすべて吸いこみたい、そんな気分おおきく深呼吸した。
「どういう方面に進学するつもりなの」
「そうですね。心理学とか、社会福祉関係とかまだはっきり決めてないんです」
「ゆっくり考えればいいよ。じつは、ぼくは心理学の専攻なんだけどね」
「へえー、すごいですね」
「なにがすごいのかはわからないけど、まあね」
 なにがまあね、なんだろうか。ただそんなことが、近しく思えて嬉しくてしかたがない。
「心理学って、人の心がわかるんですか。なにを考えているのだとか。
なんだか、ちょっと恐い気がしますね、ほんとうに。
なにを考えてるか知られているとしたら、わたし恥ずかしいです」
「そういうことって、いろんな人によく言われるけど、おおいなる誤解だね。
心理学は読心術とはちがうからね。こころを読めるなんて、まったく関係がないと思うよ。
それに読心術って眉唾物だと思うし、心理学はそういうことを研究するものじゃないよ。
もっと一般的原理、法則といったものを見いだそうと研究されているんじゃないかと思うよ。
それにここだけの話だけど、心理学の教授ってあんがい世間知らずな人が多いんだよ」
「そうですよね、学問ですものね。でも興味はあります」
 そう言って、じっとぼくを見るのだった。
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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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