ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(三十三)野鳥の森
ぼくはドギマギして、つい目を逸らしてしまう。
でも、Tさんがぼくをじっと見つめているのはわかったし、ますます落ちつかない気分だった。
彼女がじっと見つめながら微笑むから、ぼくはどうしようもなくて言葉もでない。
純真な気もちの持ち主なんだ、すくなくとも嫌われてはいない、これは確信できる。
ぼくのことが好きだからというのではないぞ、誤解するなよと自分に言いきかせた。
でもそんな彼女のことがますます好きになっていくぼくを、ぼく自身はどうすることもできない。
 顔をみるのが気恥ずかしくて、視線は彼女の輪郭を彷徨うばかりだった。
そんな彼女は細面の顔に似あわず、肩から二の腕にかけて筋肉がついていた。
「案外がっちりした身体というか、腕っぷしが強そうですね」
「そう見えますか、やっぱり。わたしって海洋少年団にはいってカッターを漕いでるからかな。
ちょっと、腕がたくましくなってるんです。へんなところ見てますね」
 と言いながら、すこしも恥ずかしがらずに笑う顔がまたとても魅力的だった。
「ふーん、文武両道でいこうというわけですね。おおいに結構、頑張ってください」
 緊張のせいか関西弁が影を潜めている。Kくんに気づかれないといいが…。
焦点のさだまらない話をしているうちに、集団は野鳥の森へと到着した。

3525野鳥の森

 森とは名ばかりで、どのような角度からながめてみても原っぱとしかいいようがない。
細い道から一段下がった傾斜地は前日の作業によって雑草が刈られているところと、
いまだ蔓草が木々にまとわりついて行く手をはばむ草叢が混在していた。
さあ頑張って草刈りをやろう、の号令の元それぞれ思い思いに散らばっていった。
 去年植えられたとおぼしき苗木があった。
すぐ近くに植樹者の名前が書いた札もある。
植えた人の思いをうけて桜は精一杯にのびようとしているのだが、実情はきびしい。
蔓にからまれているちいさな桜の木を助けるように鎌で蔓を切っていく。
慣れない手つきでは蔓も思うようには刈れない。
刈り込みの途中で生木がにおう。
緑色の汁が鎌の刃にしたたる。青臭い空気のなかで、ぼくはいろんな生命を感じていた。
蔓だって生きているんだけどな、そう思うとつい手元がゆるんでくる。
もう止めた、こころのなかでそう思うと蔓をつかって月桂樹の冠のようなものをつくる。
輪っか状にして、Tさんの頭にのっければビーナスになるのかな。
あほくさと思う気もちと、でもこれもお近づきのきっかけやと思う気もちがせめぎあった。
短い葛藤の末、あほくさは破れさった。
ニヒリズムはなにものをも生みださない。この際はそう思うことにした。
ご都合主義もいいところであるが、若さには勝てなかった。
 これをどうわたすかが、またまた問題なのである。
さりげなくというが、これが存外にむずかしい。
どこに行ったかなと見まわすと、向こうの方でKくんら数人と植樹をしているようだった。
太陽はいつのまにか真上近くにまできていた。
「このへんで、お昼にしましょう」
 斜面に腰をおろして土のうえに足を投げだす。
海のほうから、かすかに風が吹いてくる。
風にのって潮のにおいが鼻を刺激する。
なんともいえない落ちついたいい気分だ。
 大きなザルに握り飯がどっさりとはいっていた。さっそくひとつ取って、かぶりつく。
塩味が疲れた身体に反応してとてもうまい。
噛んでいると、うまみが口中にひろがる。
あっという間にふたつ平らげて、やっとひとごこち着いてきた。
 知らぬまにKくんとTさんは横に坐って、おなじようにおにぎりを食べていた。
ならんで海のほうを見ながら、小鳥のさえずりに耳をかたむけていた。
オレンジ色のジョウビタキが低く枝をかすめて飛んでいく。
きっと、そのまた前方を羽虫が飛んでいるのだろう。生きるための連鎖である。
ぼくはその連鎖のなかの、ちっぽけなでも影響を及ぼす生き物でもある。
なにが、なにを、なんのために、それで、なんになるのか。
どうしても思考はめぐる。なんで、なぜに、なにゆえに、どうあらねばならないのか。
問いは、問いをうみだす。
投げだしたいような気分になるが、まだまだこれははじまりに過ぎないと直観するのだった。
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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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