ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(三十四)記念樹
 どこまでも、どこまでも歩いていきたい。
クタクタになるまで歩きたい。
もうなにも考えることができないほどに疲れて、ぼろぼろになるまで歩きたい。
歩くこと以外のことをなにも考えずに、ただ道をひたすらに歩きたい。
歩くこと以外に存在するものはなく、あとすこしあとすこしと呟きながら歩く。
とどまることもできずに、ぼくは歩き続ける。
歩くことは、ぼくの思考なのだろう。
歩きながら空を見あげれば、空とはなにかがわかる。
視線を道端の花に落とせば、色とはなにかがわかる。

「この桜って、何年先ぐらいに花が咲くんですか」
「さあね、『桃栗三年、柿八年』というから、そのあたりから類推して、五年ぐらいなのかな。
はっきりしたことは知らないんだ。
それに必ず成長して花を咲かすとは限らないからね」
「そうですね。ほとんどほったらかし状態ですから、運次第ということもありますよね」
「桜の花って綺麗なようですけど、もの悲しい感じもします。
風が吹いてハラハラと花びらが舞散るさまは、なんだかおそろしい気がしないでもないです」
「桜の満開の下で、狂気に襲われるというような小説があったと思う。
美しいものははかないもの、さらに潔さといった連想に日本人は傾きやすい。
それが日本人の性向だというならそうだが、文化のちがいはおおきいな。
ぼくたちは気がついていないけど、おさないい頃からそれこそ何度となくそういった話を、
聞いたり、読んだり、絵で見たりしながら無意識を強化してきたんだろうな」
「でも散った桜も翌年にはまた花を咲かすんですから…」
「そうだね。春から夏になり、秋がきて冬を迎える。そしてまた春が来る、か。
毎年綺麗なそして清楚な桜の花を咲かせる自然は偉大なりということかな。
咲かせるだけではなく、散ることも同時的に進行していく。
移り変わる季節がある。輪廻転生ということに繋がっていくんだろうな。
やはり、ぼくらは日本人なんだな」
「そうですよ。日本人って無宗教とかいう人が多いですけど、考え方は仏教的ですよね。
けっして仏教徒的ではないんですけどね。的って、曖昧模糊でそれこそ日本的」
「わたしもそう思います。
なんだか無節操な気もするけど、ほんとうのことですもの。
仏像など見てるとこころが落ち着くというのか、安寧な気もちになれます」
「なんだか高校生にしてはむずかしいこと言うんだな。
ちょっと、よそいき思考になっているのとちがうかな。
まあ、別にかまわないんだけど。
桜って、そんなことを考えさせる不思議な力があるのかもしれないな。
何十年かして、この桜が咲く頃にここに来たらいったいどんな感慨をいだくのかな」
「もういいおじさん、おばさんになっているんでしょうね。
子どもを連れてきたいですね。これがお父さんが若い頃に植えた桜の木だって。
でも分りますかね。きっと、もうどれが自分の植えた木なのか分らないんでしょうね。
そう思うと、ちょっと寂しい気にはなりますね」
「わたしも、おばさんになっているんですよね。結婚してるのかな。
その間にも毎年桜は花を咲かせて、そして散って、葉桜の季節をむかえる。
秋がきて、誰も訪れない季節を過ぎて冬の風を受け、また新しい年になる。
わたしにも、いろんなことが、予想もしないようなことが、起きているんですよね、きっと。
わあ、どんな人生を生きているのだろう。考えられないですね」
 そう言って、こちらの方に向きなおった。
逆光のなか、彼女の表情はわからなかった。
微笑んでいるようでもあり、なにかをじっと凝視しているようでもあった。

2434野鳥の森の桜
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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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