ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(三十五)昼下がりの島
 ぼくの未来と、彼女の未来がどこかで交差する、そんな夢想がうかんできた。
ふたりに共通項はあるのかと考えたとき、ぼくは彼女のなにをも知らないことに気づいた。
 人を好きになるのは、その人のことを知りたいと思う気持ちとおなじだ。
知りたいことは、その人の興味がなににあるのかであったり、人生観であったりする。
また感じたいことは、その人の声の抑揚であり、笑い声であり、髪の匂いであったりする。
はるかを望むまなざしで木漏れ日の窓際に立つ。背筋をぴんとのばして歩いていく。
静かに本を読んでいる、そんな姿をぼくはただただ見つめているだけだ。
彼女が朗らかに笑うと、ぼくも知らずに微笑んでいて、どこからか笑い声も聞えてくる。
楽しそうに話しているのをみると、ぼくもなんだかうれしくなってくる。
困った顔をして沈んでいると、ぼくはどうしたらいいのだろうかと狼狽えてしまう。
なにかを思っているときは、ぼくのことを思わなくても、忘れないでいてほしいと願う。
 ああ、あまたいる人のなかで、どうしてぼくは彼女のことが好きになったのだろう。
ぼくは彼女のどこが好きなのだろう。
と考えたときに、はっきりと知ることになる。
どこがではない、彼女のすべてが彼女という存在がわけもなく好きなのだ。

 こんなこともいまここに書いているからであって、そのときの意識としてはなかった。
たぶん、きっとそうだったと思う。そのころのぼくは人を好きになることが、なぜか怖かった。
ほんとうに好きだと直感する人の場合は、とくにそういう傾向があった。
 だからといって、知らないふりをすることは耐え難くつらいことだった。
なにか方法がないだろうか、と考えて見つけた態度がそういうことだったのだ。
 とにかく時間をかけてすこしずつ前進していこう。好きなことを隠すことはない。
でも、あえて前面に押しだす必要もない。
しかも、これは恋愛というのとはちがうと思う。
否、まだ恋愛ということはできない段階なのだ。
それに、人は未来のことはわからない。
最悪の事態になっても(つまり、ふられるということだ)、どういうことになっても、
男らしく(自信はないけど)素直に受けいれる男でいよう。
彼女には良き人生の先輩として接していこう。
こう考えて、無理にも納得した。
 先輩となるからには、いろんなことを知ることが必要だし、アドバイスもできなきゃ…。
ここで、はたと困った。もし、恋愛の相談など受けたらどうすればいいのだろう。
ぼくは不安と混乱を感じながらも、平静を装いつつ話を続けるしかなかった。

 野鳥の森から、またきた道をもどってっていく。
ほそい道に草がおおいいかぶさるように生えている。
青臭いにおいを胸に吸いこんで土の道を歩いた。風もなく、あたたかな陽がさしていた。
中央が雨に削られて溝になっている細い山道を、声高に話しながら歩いた。
下のほうに海が望めるところでは、風が斜面をゆるやかに上ってきた。
瀬戸内海をすすむ船舶は動いているのかどうかもわからないほどで、海面にうかんでいる。
 左右に畑が開けている道にさしかかると、下り勾配になってきた。
セメントに石を混ぜて固めた道は階段状になって港へと続いていくのだろう。
墓地の横を通り、お寺の壁沿いに若者たちはわいわいと下っていく。
 両側に家々の防腐剤にひたされた木壁が続くあたりになると、道も歩きやすくなる。
ときおり子供たちの声が聞えるほかは、森閑として眠っているような集落である。
すりガラス戸の散髪屋らしき前をすぎるころには、みなばらばらになって歩いていた。
本宅とよばれるおじさんおばさんの住居兼店屋に立ち寄って、買い物をする者もいる。
 店先の菓子類や送迎用の色つきの紙テープなどを買い求めている。
暗い店内の奥には、おばあさんがひっそりと暮していることをぼくは知っていた。
 港の見える場所までくれば、左手に郵便局と漁協、駐在所がある。
右手を見れば、すぐそこに船着き場が見える。
二三人の島人が立ち話をしている。
岡山弁が聞こえてくると、なんだかにんまりとしてしまうのは何故なのだろうか。

 TさんとK君とぼくは、乗船券売り場前の長椅子に腰をおろした。
幾人かは桟橋の先端まで行って、海に手をひたして水をかけあいふざけていた。
のんびりとした昼下がりの島では、なにもかもが眠たげに横たわっていた。

0944港で
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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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