ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(三十六)文化祭
 ぼくは時間の感覚を忘れてしまったかのような頼りなげな気分ですわっていた。
しっかりしなくちゃいかんぞ、おまえは人生の先輩なんだからな。
そうだ、それに兄貴でもあるんだな。いいじゃないか、かわいい妹なんだぞ。
そんな声がこころのなかで行き交っていた。

1661アゲハチョウ

 ぼくは男三人兄弟の長男だが、ほんとうなら兄貴がいるはずだったのだ。
彼は生後すぐに亡くなったので、戸籍上はぼくが長男だと母から聞いた。
高校も工業高校だったので、ほとんどいつも男ばかりという環境であった。
 そんな高校時代だからガールフレンドがいるわけもなかった。
まわりの大多数が同じような境遇だったし、抜け駆けはゆるさない雰囲気もあった。
だから逆に、女子のおおぜいいる高校の文化祭情報などにはみな敏感だった。
どうすればそういった場所に出入りできるのか、誰も知らないようだ。
 そんなとき、Sという奴から商業高校の文化祭に行かないかとの誘いがあった。
気持ちとは裏腹に、まあ行ってやってもいいみたいな返事をしながら、
友人の顔色をうかがい、じゃあいいわ、と言われたらどうしようという不安もいだいていた。
なんだかんだと文句をつけながら、最後は絶対に行くからと低姿勢になった。
 Sもそのへんは鷹揚に笑いながら、こちらの腹は見透かしているようなことを言った。
最寄りの駅に集合ということになり、当日はなぜか早くに眼が覚めてしまった。
服装はもちろん学生服であり、念入りにブラシをかけてズボンも寝押しをした。
するとどうしたことだろう、ズボンの折り目が二本になっているではないか。
寝相が悪かった、それだけに尽きる。余計なことはしない方がいいのである。
 駅にはみんな15分前には到着していて、ひとり送れている奴がいる。
案の定、Sである。定刻すこし遅れて、彼が照れ笑いをうかべながらやってきた。
ぼくたちに文句の言えるはずがない。彼をうながして、M商とよばれている高校へむかった。
行く途中で、すこしでも情報を仕入れようと質問攻めである。
かわいい娘はいるだろうな。どこの部の連中を知っているんだ。
その子たちの人数は俺たちより少なくはないだろうな。
お前の彼女はそのなかにいるのか。立て続けに質問した。
 焦るなよというように俺たちを押しとどめながら、ゆっくりと話しはじめた。
いまから行くクラブは女子ばかりの部だから心配しないでいい。
俺の彼女はいない。そういう兆候も残念ながらまったくない。
クラブの中にひとり中学の同級生がいて、男子を連れてきてほしいと頼まれた。
かわいい娘がいるかどうか、俺は知らん。ということだ、わかったか。
 その説明にみんなは訳もなく納得顔である。
ぼくはすこし納得できない点があったが、おおむねそのようなことだろうと思った。
急にみんなは明るい顔になって元気がでてきたようだった。
しかし問題はこれからなんだけどな、とひとり訳知り顔でぼくはいた。

 土のグラウンドを通りぬけて、ひんやりとした校舎にはいっていった。
しずかな廊下の先から笑い声がきこえてきて、ぼくたちはほっとした。
階段を二階へと上がって、めざす教室へときょろきょろしながら歩いた。
なにもかもが珍しい感じがして、落ちつかない気分だった。
すれちがう他校の高校生たちが、みな賢そうにみえてしかたがなかった。
 廊下にならべた机のところにいる女生徒の前でSは立ちどまった。
うしろをよそ見しながら歩いていたぼくたちは、彼にせき止められて入口に溢れた。
「こんにちは、Sですけど、Kさんいらっしゃいますか」
「はい、すこしお待ちください。いますぐ呼んできますから」
 駆け足でその場を去っていく女の子を見つめながら、ドキドキするぼくたちであった。
「なんか、緊張するな」
「静かにせえよ、聞えるやないか」
「大丈夫やて、でもどんな話したらええのかな」
 いちように不安げな表情のぼくたちに、Sはいとも簡単に言った。
「どうってことないやんか。男は、どしっとしとったらええねん」
 その言葉にぼくたちは、ただただ圧倒される思いだった。
「それにな、…」
 と言いかけたところに、Sの同級生という女性がやってきた。
にこやかに微笑むので、ぼくたちの頭のなかはさらなる混乱へと突入していった。
「わざわざ遠いところをいらっしゃってくださって、ありがとうございます。
わたしたちのクラブの展示を是非見てください。それに、ゆっくり楽しんでいってくださいね。
ご案内しますので、どうぞみなさん中にはいってください」
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島を旅するときが楽しいですね。
遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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