ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(三十八)悩める青春
 彼女の深い憂鬱がなにに根ざしているのか見当もつかなかった。
でも年上の女性と話しているような安心感があり次第にリラックスしてきていた。
みんなといっしょに校内を歩きながら、ぼくは彼女といろいろと話をした。
 長女だということ、弟と妹がひとりずついること。父親は厳格で家ではあまり話をしない。
母親は父親の言うことにはいつも唯々諾々としたがっている。
楽しそうな顔をするでもなくただ淡々と家事をこなしている。
そんな母の顔を見つめていると、自分の将来がダブって見えてぞっとしてしまう。
母は父のどんなところが好きで、なにに惚れたのだろう。
そう、惚れるというようなことが若いころの母にはあったのだろうか。
なにが楽しいのだろう。そう思って母の横顔を見ていると、なぜだかイライラしてしまう。
そんなことを話しながら、どうしてなのかしらねというふうな表情をしてみせる。
 そんな話に対してぼくはどう答えていいものかもよく分らず、ただ頷いていた。
どうしてそんな話を、ましてや初対面のぼくにするのだろうか。
そんな疑問を感じたりもしたが、彼女の声はこころよくぼくに伝わってくる。
それになぜか彼女の愚痴ともいえる話がよくわかる。
悩みのない奴なんかいないよな。そう思って彼女を見ると微笑んでもいるようだ。

1614地に虫

「君って、悩みがなさそうにも見えないけど、やっぱりあるよね」
「そりゃあそうですよ。誰だってあるんじゃないのかな」
「そうだよね。ひとりウジウジと考えていたってしかたがないんだよね。
こんなことって何年かしてふりかえったら、こどもだったんだなあなんて思うんだろうな。
すこしでも君に話せてスッキリした。どうもありがとう」
「そんな礼を言われるほどのことじゃないですよ。愚痴だったらいつでも聞きますよ」
「えっ、愚痴かあ。そうだよね、こんなの愚痴でしかないよね」
「いやあ、そういうつもりで言ったんじゃないんだけど…。
ぼくも似たようなこと考えたりすることがあるし、やっぱり蛙の子は蛙だし、なんて…。
それが嫌だなあとは思うんだけど、それのどこがなにが嫌なのかと考えていくと、
やっぱりこれって愚痴かなあって思うんだ」
「言い訳になってるんだ、自分に対しての。こんなのずるい考え方だよね。
そんなことよりなにがしたいのか、どんなに生きたいのか、なにを糧にするのか。
前向きに考えないといけないってことなんだね」
「うん、そうじゃないかな。それに、親たちにだってぼくたちの知りえないこともあるだろうし。
誰だってそうだと思う。肉親だからとかでかっこには入れられないですよ。
そう考えても、現実は必ずしもそうできるという訳じゃないですけどね」
「ふーん、そんなふうに考えるのか。わたしはそうは思えないな。
これって男と女の違いなのかしらねえ。
世界は自分が中心なんだ。わたしは天動説をとるな。
コペルニクスなんかぶっ飛ばせ、そんな気分だわ。
そうそう、デカルトのいうように自分が存在しなければ、世界も意味がないと思う」
「そうかなあ、ぼくは存在すると思うけどなあ。
世界は自分の存在とは関係なく確かに存在する」
「じゃあ、その存在はなにによって知ることができるわけ」
「それは、そうだけど…」
「わたしの言いたいことはね、そんな存在論じゃないのよ。
わたしのいない世界なんて興味がないというか、興味を持つ主体さえも存在しない。
なんか説明しづらいわね、つまり自分だけが可愛いってこと。
わたしに関わりのあることだけで生きていきたい、生きる、そういうこと」
「高いところから普遍的価値観なり道徳論をぶつ奴が大嫌いなんだ。
自分のことも始末のできない奴が偉そうなことを言うんじゃない。
そんなことお前に言われたくないよ、そう思ってるの」
「うーん、近いけど微妙にずれてる感じがする。
そうね、わたしはけっして人類愛とか倫理観を否定しているんじゃないのよ。
ただね、そういったことをいう人の裏になんだか卑しいこころを察知してしまうのよ。
日々食べていくだけが精一杯の人とか、つつましい日常生活を送っている人に対して、
馬鹿にしたような、あるいは見下したような態度が見えて我慢できないのよ。
そんな奴に限って金の亡者だったりするじゃない。
冗談じゃないわよ、何様のつもりなのよ。と、啖呵のひとつもきりたくなるわ。
人が生きていくって、そんなことじゃないと思うんだ」
 と相変らず男子のような口のきき方だった。
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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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