ムッシュの読書紀行
人生は旅のようだと言いますが、旅が人生かも知れません。 ぼくは活字中毒気味でもあり、旅はまだまだ続くでしょう。
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早春紀行(三十九)人の数だけの人生
「そりゃあ、信念をもって理想に向かって突きすすんでいる、そんな人もいると思うわ。
でもね、どうしてなんだろうな。そんな人よりそうじゃない愚劣な輩につい目がいくの。
これって、人を見る目がないってことなのかしらね。ああ、つまらない」
 そういいつつも、眼は真剣な光を帯びているようにみえた。
「人の一生って短いと思わない?こんなの若いもんの台詞じゃないわよね。
だからかな、人類の理想の実現だとか世界平和だとかにかかずりあってらんない。
もっと生きている、そう生きている実感を味わいたいのよ。つまりは、青春よね。
言葉にすると陳腐だけどね。うまくいえないんだけど、そんな強迫観念にちかいかもね。
第一に人類の理想ってなんなのよ、って思っちゃうわ。
ヒトラーのナチスじゃあるまいし、そんなものは端からあるわけないよね。
大体、人類のとか世界のだとか大義名分がでてきたら危ないってのが相場なのよ。
まず社会や国家がありき、じゃあ絶対におかしいと思う。
個人の集合体、家族でもいいけど、それが有機的につながって組織ができると思う。
自分が確立もできない奴になにが出来るっていうのよ、なんて思ってる訳」
 ああ疲れた、とでもいいたそうに眼をおおきく見ひらいていた。
 ぼくはただただ圧倒され、こんな女の子に会ったことがないなと思っていた。
「ときどき思うの。わたしは、なににいらついているんだろうって。
こんなわたしって、訳わかんないよね」
 哀しそうな顔をしたかと思うと、
「まだまだ、修業中の身でごわす」
 と、おどけてもみる。
「なんとか言っとくれ…。わたしは、か弱い女の子なんだぞ」
 そう言って睨むから、ぼくもしかたなしに言ってやった。
「一回かぎりの人生やし、いろいろ考えて生きるしかないやろ。
ただ、他人(ひと)の所為にしない、これがぼくの信条や。他人の所為にしたって仕方がないやろ。
そんなことで安心してどうするんや、という気分かな。
そやけど、まだまだいっぱい悩むやろし、迷うんやろなあとも思ってるんや。
えーい、全部俺が責任とったるわ文句があるか。そう自分に言い聞かせてるんや。
考えたらあたりまえのことやけどな、自分のことなんやから」
「そうか、そういうことなんだ。すこし、わかったような気がする。
わたしには、どんなことであれ自分で受けとめる覚悟がなかったんやなあ。
口では偉そうなことばっかりいってるけど、逃げる用意をしながらだったんだ。
へっぴり腰ではなにもできません、ということですなあ。
おおきに、ええ勉強になりました。感謝感激雨あられ、どすえ」
 と笑いながら瞳がきらりと光った。
「人って姿勢が大切やと思う。知識は学べるけど、意識は変えるのがむずかしい。
名前や門構えにびびっているようでは、まだまだあかんいうことや。
なにを観るかどう感じるか、はたまたなにに価値をみいだすかは人それぞれや。
これが絶対だ、はないと思う。どう生きるが正しい、もたぶん基準はないような気がする。
もちろん最低限度守らなあかんことはあるやろけどなあ」
「初対面の君にこんなに話をしてわたしってどうしたんだろう、と思ってるの。
でも直観に間違いはなかったなあ、というのがいまの正直な気もちなの。
わたしもなかなかだなあ、ともちょっぴり誇らしく思ったり。
人生におもしろいことがこれからもいっぱいありそうだ、と思えてきたものね。
なんかこう光がさしてきて明るい展望もありそうだぞ、そんな感じもしてきた。
あんなことも、こんなことも、もっとたくさん話したいと思うんだけど、
どうしても行かなくてはならないところがあるし、きっといつかまた会えると思って、
今日のところは、これでバイバイ」
 それだけ言うと、彼女は駆けるようにその場から去っていった。
とっさにさよならの言葉もでず、後ろ姿を見送るうちにおたがい名のらなかったことに気づいた。

1689舞うトビ

 二ヶ月後、Sから彼女が転校したことを聞いた。父親の転勤にともなってのことだという。
九州のどこか地方都市だと聞いたようだが、はっきりとは記憶していない。
東京から転校してきて、一年ばかりが過ぎた後のことだった。
 いまでは顔もはっきりとは思いだせないのだが、声音はときとしてよみがえる。
人は出会わねばならない。それが人であったり、本であったりはするのだが…。
出会いのなかで価値の相対主義を学び、出会うことによって人生の喜怒哀楽を知る。
 百人がいれば、それは百通りの人生を意味し、けっして重なることはない。
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遠くに眺めるのも好きです。
楽園なんてないんですけどね。

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